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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第49話 記録は、皆を繋げる

守りの、戦いは、終わった。ここからは、攻めだ。


わたしは、卓に、三つの、ものを、並べた。


「わたしたちの、武器は、これです」わたしは、ヴァレンと、ロザリンドに、示した。「一つ、証拠。ハルバの、二重契約の、全貌を、示す、記録。二つ、資金。封鎖に、耐え抜いた、辺境の、懐。三つ、世論。ハルバの、非道を、知る、人々の、声。……剣は、一本も、ありません。でも、この、三つが、揃えば、剣より、強い」


「一つずつでは」ロザリンドが、言った。「弱い、と」


「はい」わたしは、頷いた。「証拠だけ、あっても、それを、公にする、力が、なければ、握り潰されます。資金だけ、あっても、大義が、なければ、ただの、金の力比べ。世論だけ、あっても、証拠が、なければ、噂で、終わる。……でも、三つが、噛み合えば。正しい記録が、資金に、守られ、世論に、後押しされて、公の、裁きへと、進む。ばらばらの、力を、一本に、束ねるんです」


「けれど、奥方様」ギースが、案じ顔で、口を、挟んだ。「資金は、まだ、封鎖で、細っております。世論も、証拠も、大切ですが、その二つを、動かすには、時も、金も、かかりましょう。その間に、辺境の、懐が、尽きては」


「だから、資金は、いちばん、堅く、守ります」わたしは、答えた。「派手な、反撃に、金は、使いません。証拠を、束ねるのも、被害者に、書状を、送るのも、大きな金は、要らない。要るのは、根気と、正しさだけ。……いまは、攻めると言っても、金を、燃やして、殴り合うのでは、ありません。動かせない、証拠を、静かに、積み上げる。それは、いちばん、安上がりで、いちばん、強い、攻めなんです」


ギースは、その言葉に、少し、安堵した。攻めに、転じても、無謀に、蓄えを、崩すわけでは、ない。その、堅実さが、この、忠実な老人を、いつも、落ち着かせた。


わたしは、まず、証拠の、扱いを、ロザリンドと、詰めた。二重契約の、記録を、会計院に、正式な、査察の、案件として、提出する、その、手はず。証拠は、一つでも、欠ければ、言い逃れの、隙になる。だから、抜けなく、順序立てて、いつ、誰が、何を、証言し、どの数字が、それを、裏付けるかを、整理した。


「見事な、束ね方です」ロザリンドが、感嘆した。「これなら、会計院の、誰が、見ても、動かせない。……あなたは、記録を、武器に、する術を、知っている」


「記録は」わたしは、言った。「一枚では、ただの、紙です。でも、正しく、並べれば、真実を、語る、証人に、なります。順序が、大事なんです。数字は、順序立てて、初めて、物語を、語る」


次に、わたしは、思い切った、一手を、打った。


「ロザリンドさん」わたしは、言った。「ハルバに、食い物にされた、貴族の家は、辺境や、子爵家だけでは、ありません。同じ、二重契約の、手口で、破産させられた家が、大陸に、いくつもあるはずです。その、家々に、静かに、呼びかけたいんです」


「被害者を、集める、と」


「はい」わたしは、頷いた。「一つの、家が、ハルバを、訴えても、握り潰されます。大商会の、力は、大きい。でも、十の家が、二十の家が、同じ、証拠を、持って、声を、上げたら。会計院が、それを、束ねたら。……もう、握り潰せません。ばらばらでは、弱い者も、集まれば、強くなる。それを、繋ぐのが、正しい記録です。同じ、手口で、やられた、という、共通の、証拠が、離れた家々を、一つに、するんです」


わたしは、被害を、受けたと、思われる、家々に、宛てて、慎重に、書状を、したためた。糾弾でも、扇動でも、ない。ただ、事実を、示す。あなたの、家が、負わされた借金にも、同じ、二重契約の、手口が、使われていませんか。もし、そうなら、正しい記録の、下に、共に、声を、上げませんか、と。


返事は、少しずつ、けれど、確かに、返ってきた。


「うちも、同じ、手口だった」「ずっと、泣き寝入りだと、思っていた」「証拠が、あるなら、戦いたい」。ハルバの、力に、押し潰され、諦めていた、被害者たちが、正しい記録という、旗の下に、一人、また一人と、集まり始めた。


「潮目が、変わってきました」わたしは、ヴァレンに、言った。「これまで、ハルバは、被害者を、一人ずつ、孤立させて、潰してきました。孤立した者は、弱い。でも、その被害者たちが、繋がり始めた。しかも、正しい記録という、動かせない、証拠を、持って。……ハルバが、長年、積み上げてきた、悪事が、そっくり、ハルバを、囲む、包囲網に、変わろうとしています」


「一人では、勝てない」ヴァレンが、静かに、言った。「だが、記録が、皆を、繋げる、か」


「はい」わたしは、頷いた。「わたし一人では、ハルバには、勝てません。辺境一つでも、無理です。でも、正しい記録は、一人の、ものでは、ありません。誰が、読んでも、同じ、真実を、語る。だから、記録は、人を、繋げます。身分も、土地も、越えて。……嘘は、人を、孤立させます。でも、真実は、人を、集めます。それが、嘘と、真実の、いちばん、大きな、違いです」


反撃の、布石は、着々と、整っていった。証拠が、束ねられ、資金が、守られ、世論が、集まる。ばらばらだった、力が、一本の、太い、綱へと、撚り合わされていく。


そして、その、綱が、ほぼ、撚り上がった、その日。ロザリンドのもとに、王都から、一通の、正式な、書状が、届いた。彼女は、それを、読むと、静かに、しかし、確かな、興奮を、こめて、顔を、上げた。


「アデル様」ロザリンドは、言った。「王立会計院が、決定しました。……ハルバ商会への、総査察を。正式に」


最終局面の、幕が、上がろうとしていた。


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