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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第46話 兵は、腹が減る

グラス伯爵の、兵が、動いた。


辺境と、伯爵領の、境に、武装した、兵の、一団が、集まり始めた。旗を、立て、天幕を、張り、こちらを、威圧するように、居座る。数は、辺境の、守りの兵よりも、多かった。今にも、攻め込みそうな、構えだった。


城下に、また、不安が、広がった。封鎖に、続いて、今度は、武力か、と。


「攻めてくるか」ヴァレンが、国境の、様子を、探る者からの、報せを、読みながら、言った。「数は、向こうが、上だ。まともに、ぶつかれば、辺境の兵だけでは、押し切られる」


「攻めては、こないと、思います」わたしは、静かに、言った。「少なくとも、すぐには」


「なぜ、そう、言える」


「兵は」わたしは、言った。「腹が、減るからです」


わたしは、卓に、紙を、広げ、計算を、始めた。


「あれだけの、兵を、国境に、留めておくには、途方もない、費用が、かかります」わたしは、数字を、書きつけた。「まず、兵糧。あの人数が、毎日、食べる、麦と、肉。それを、運ぶ、荷車と、人手。馬の、飼葉。天幕や、武具の、手入れ。そして、兵たちへの、給金。……兵を、動かすというのは、剣を、振るうことでは、なく、まず、金を、燃やし続けることなんです」


ロザリンドが、興味深そうに、身を、乗り出した。「相手の、財布を、計算する、と」


「はい」わたしは、頷いた。「グラス伯爵の、領地の、収入。それは、だいたい、わかっています。そこから、この、兵を、維持するのに、一日、いくら、かかるか。二つを、比べれば、伯爵が、あと、何日、この、威圧を、続けられるかが、見えてきます」


わたしは、計算を、進めた。伯爵領の、おおよその、蓄え。兵の、維持費。日ごとに、燃えていく、金。


「あと、十日です」わたしは、顔を、上げた。「グラス伯爵の、財布は、あと、十日ほどで、空になります。ハルバも、買い占めの、大損で、痛手を、負っている。伯爵に、際限なく、金を、注ぎ込む余裕は、もう、ない。……つまり、この、威圧は、はったりです。長くは、続けられない。攻め込む前に、金が、尽きて、兵を、引くしか、なくなります」


「たった、十日で、そこまで」ギースが、目を、丸くした。「兵を、集めるのは、あれほど、物々しいのに」


「集めるより、留めておくほうが、ずっと、金が、かかるんです」わたしは、言った。「兵は、集めた、その日から、毎日、食べます。何もしなくても、腹は、減る。剣を、一度も、振るわなくても、給金は、要る。……戦を、するより、戦の、構えを、続けるほうが、じつは、財布に、こたえる。だから、威圧は、短く、終わらせたい。長引けば、脅すつもりが、逆に、自分の、首を、絞める。向こうも、それを、わかっている。だから、焦っています」


わたしは、伯爵の、兵の、規模から、一日の、消費を、細かく、割り出した。麦の、俵。肉の、塊。馬の、飼葉の、束。それを、金に、換算し、伯爵領の、蓄えと、突き合わせる。数字は、静かに、相手の、限界を、告げていた。


「では、こちらは」ヴァレンが、尋ねた。


「動きません」わたしは、はっきりと、言った。「挑発に、乗って、こちらから、仕掛けては、いけません。それこそ、向こうの、思う壺です。戦が、始まれば、費用は、跳ね上がりますが、それ以上に、こちらにも、血が、流れる。……ただ、守りを、固めて、待てばいい。向こうの、財布が、空になるのを。兵は、腹が、減る。腹の、減った兵は、いずれ、去ります」


「戦わずに、勝つ、ということか」


「戦わずに、しのぐ、です」わたしは、言った。「勝ちは、証拠が、会計院に、届いたときに、来ます。それまで、無駄な、血を、流さずに、時を、稼ぐ。武力にも、必ず、財布という、弱点が、あります。剣の、強さでは、なく、その剣を、維持する、金の、続く長さ。そこを、見れば、武力すら、数字で、御せます」


わたしは、その、見立てを、ヴァレンと、共有した。ヴァレンは、守りを、固めつつ、決して、挑発には、乗らなかった。兵たちにも、徹底させた。向こうが、どれだけ、挑発しても、城の、守りを、崩さず、じっと、待つ。


日が、経つにつれ、変化は、向こう側に、現れ始めた。


国境の、兵の、天幕から、活気が、消えていった。兵糧の、荷車の、往来が、減り、兵たちの、動きが、鈍くなる。給金の、遅れか、食事の、質の、低下か。遠目にも、士気の、落ちていくのが、わかった。


「読み通りです」わたしは、静かに、言った。「向こうは、焦っています。攻めれば、血が、流れ、費用が、かさむ。攻めなければ、ただ、金が、燃えていく。どちらを、選んでも、損をする。……はったりの、威圧は、はったりだと、見抜かれた瞬間、ただの、金食い虫に、変わります」


ヴァレンが、感嘆と、頼もしさを、こめて、わたしを、見た。


「あんたと、いると」ヴァレンが、ぽつりと、言った。「戦の、見え方が、変わる。俺は、ずっと、剣の、数と、兵の、強さで、勝ち負けを、測ってきた。だが、あんたは、その、後ろにある、財布を、見る。……敵の、剣より、敵の、帳簿のほうが、恐ろしいとはな」


「剣は」わたしは、微笑んだ。「振るう者の、勇気で、強くなります。でも、財布は、勇気では、膨らみません。ごまかしの、利かない、正直なものです。だから、わたしは、財布を、見るんです」


だが、追い詰められた、相手は、正攻法を、捨て始めていた。金の、続かない、威圧を、諦めた、その代わりに。彼らは、より、卑劣な、一点を、狙ってきた。


数日後。国境の、前線で、ヴァレンが、罠にかけられ、窮地に、陥ったという報せが、城に、飛び込んできた。


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