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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第43話 正しい数字を、見せただけ

内側の、穴を、探す作業は、静かで、根気の、いるものだった。


わたしは、封鎖の、采配を、続けながら、夜ごと、出納の記録を、読み込んだ。蔵から、出た物。配給に、回った物。その、二つの数字を、一日ずつ、突き合わせる。物を、抜いた者は、どこかで、必ず、辻褄を、合わせようとして、かえって、小さな、綻びを、残す。


三日目の、夜。わたしの、指が、ある一点で、止まった。


「ここです」わたしは、翌朝、ヴァレンに、その記録を、示した。「薪の、出納。蔵から、出た、薪の量と、配給された、薪の量。日ごとには、ぴったり、合っています。でも――受け取りの、署名を、たどると、おかしい。ある、担当者が、記録した日だけ、蔵から、出た量が、配った量より、わずかに、多い。毎回、ほんの、少しずつ。目立たないように」


「その、担当者、が」


「マレナの、言っていた、夜に、出歩く者と、同じ人物です」わたしは、頷いた。「蔵の、管理を、任されていた、下役。名を、ドバ、といいます。彼が、記録を、つけた日だけ、数字が、合わない。彼が、少しずつ、薪や、食料を、抜いて、どこかへ、運んでいる」


「捕らえて、吐かせるか」ヴァレンが、剣の、柄に、手を、かけた。


「お待ちください」わたしは、それを、止めた。「まだ、証拠が、足りません。数字の、ずれだけでは、言い逃れが、できます。『数え間違えた』と。それに――彼が、ただの、盗みなのか、ハルバに、通じた、内通者なのか。それを、確かめずに、捕らえては、いけません。もし、内通者なら、彼の、背後に、ハルバとの、糸が、あるはずです。その糸ごと、掴みたい」


「では、どうする」


「泳がせます」わたしは、静かに、言った。「そして、こちらから、餌を、撒きます」


わたしは、一つの、策を、講じた。ドバに、聞こえるように、わざと、偽の、情報を、流したのだ。「明日の夜、辺境の、最後の、隠し備蓄を、北の、古い蔵へ、移す」と。そんな、隠し備蓄など、ありはしない。だが、もし、ドバが、ハルバの、内通者なら、この、大きな餌に、必ず、食いつく。ハルバに、知らせようと、動くはずだ。


「わたしは、罠を、仕掛けている、わけでは、ありません」わたしは、ヴァレンに、言った。「ただ、正しくない、情報を、正しくない者にだけ、流して、その者が、どう、動くかを、見るだけです。何も、しない者には、何も、起きない。動くとしたら、それは、その者の、心に、やましいものが、あるからです」


その夜。ドバは、動いた。


隠し備蓄の、話を、聞くと、そわそわと、落ち着かなくなり、夜更けに、こっそりと、城を、抜け出した。向かった先は、封鎖の、街道に、近い、森の、外れ。そこで、彼は、ハルバの、使いらしき者と、落ち合い、何かを、手渡そうとした。


その、一部始終を、ヴァレンの、手勢が、見届けていた。ドバは、その場で、取り押さえられた。手には、辺境の、備蓄の、在り処と、量を、記した、覚え書き。ハルバに、売るための、情報だった。


「言い逃れは、できません」わたしは、取り押さえられた、ドバの前に、立った。「あなたが、蔵から、抜いた分。あなたが、記録を、ごまかした日。そして、今夜、あなたが、渡そうとした、この覚え書き。全部、数字が、つながっています。……わたしは、あなたを、罠に、はめて、いません。ただ、正しい数字を、見せただけです。あなたは、その数字の前で、自分から、動いて、自分で、正体を、晒した」


ドバは、青ざめ、うなだれた。飢えが、怖かった、と、震える声で、言った。ハルバに、辺境の内情を、流せば、封鎖が、終わったあと、暮らしを、保証すると、そそのかされた、と。恐怖に、つけ込まれ、仲間を、売った。ハルバの、いつもの、手口だった。


わたしは、その、震える背中を、見ながら、少しだけ、胸が、痛んだ。この男を、責めきれない、自分が、いた。飢えの、恐怖が、どれほど、人を、追い詰めるか。かつて、あの家で、心細さに、震えていた、わたしには、わかりすぎるほど、わかった。


「一つだけ」わたしは、ドバに、言った。「あなたが、恐れた、飢えは。ハルバが、作ったものです。封鎖して、飢えさせて、その恐怖で、あなたを、釣った。あなたは、飢えから、逃れようと、飢えを、作った者に、手を、貸してしまった。……それが、いちばん、むごい、ところです」


ドバは、その言葉に、顔を、覆って、嗚咽した。自分が、何に、加担したのかを、遅れて、悟った、声だった。恐怖に、負けた者を、さらに、恐怖で、縛る。それが、ハルバの、やり方の、根だった。


「処断は、下します」ヴァレンが、重い声で、言った。裏切りは、裏切りだ。だが、その声には、憐れみも、混じっていた。恐怖に、負けた、一人の、弱さへの。


「ロザリンドさん」わたしは、査察官を、見た。「この、ドバの、証言と、覚え書き。ハルバが、内通者を、使って、辺境を、内から、崩そうとした、動かぬ証拠です。記録に、残してください。……ハルバの、悪事の、また一つの、裏付けに、なります」


「残します」ロザリンドが、頷いた。「封鎖に、内通。やり方が、なりふり構わなくなるほど、証拠は、増えていく。……皮肉な、ものです。追い詰められて、打つ手が、すべて、自分の、首を、絞める材料に、なっている」


内側の、穴は、塞がれた。備蓄の、減りは、止まり、四十二日の、見積もりは、正しく、戻った。辺境は、また、一つ、危機を、越えた。


「穴は、塞ぎました」わたしは、静かに、言った。目に、次の、光が、宿る。「次は、いよいよ、この、封鎖そのものを、破ります。ふさがれた、道の、外に。ハルバの、目の、届かない、新しい道を、こじ開けるんです」


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