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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第42話 中に、穴がある

備蓄の、減り方が、速い。


その、違和感を、抱えたまま、わたしは、まず、やるべきことを、やった。残った資源を、封鎖の、期間ぜんぶ、持たせるための、最適な、配分だ。


「残る力を、三つに、分けます」わたしは、ヴァレンと、ギースに、示した。「一つ、生きるため。領民が、飢えず、凍えないための、食料と、薪。これは、何より、優先します。二つ、守るため。城と、街道を、守る、兵の、糧食と、装備。封鎖を、破られて、攻め込まれたら、元も子もない。三つ、交渉のため。いざ、というとき、味方の領や、商人に、動いてもらうための、蓄え。この、三つに、過不足なく、配ります」


「過不足なく、とは」ギースが、尋ねた。


「多すぎても、少なすぎても、いけない、ということです」わたしは、言った。「生きるためだけに、全部、回せば、守りが、手薄になる。攻め込まれて、蔵を、焼かれれば、終わりです。逆に、守りに、偏りすぎれば、領民が、飢える。飢えた民は、いずれ、離れる。……どれか一つを、太らせず、三つを、同じように、細く、長く、持たせる。それが、極限の、配分です」


わたしは、一日ごとに、どの山から、どれだけ、出すかを、細かく、決めた。緊張の、続く、采配だった。命の、綱を、三本、同時に、握って、どれも、切らさないように、少しずつ、繰り出していく。


だが、その、緻密な、配分を、組みながら、わたしの、頭の、片隅には、ずっと、あの、違和感が、居座っていた。


減り方が、速い。


数日、配給を、続けて、その、違和感は、確信に、変わった。わたしは、配給の、記録を、すべて、集め、自分の、見積もりと、一日ずつ、突き合わせた。


「間違い、ありません」わたしは、ヴァレンに、言った。声が、硬くなるのを、感じた。「わたしの、配分は、正しい。計算に、間違いは、ない。何度、確かめても、同じです。……なのに、実際の、蔵の、減りは、計算より、速い。毎日、少しずつ。目立たない、量だけれど、確実に、多く、減っている」


「計算が、正しくて、実際が、合わない」ヴァレンが、眉を、寄せた。「それは、つまり」


「はい」わたしは、静かに、頷いた。「配った先で、消えているのでは、ありません。配る前に、蔵から、消えている。誰かが、記録に、載せずに、蔵から、物を、抜いています。……中に、穴が、あります。辺境の、内側に」


部屋の、空気が、凍った。ヴァレンの、顔が、険しくなる。


「内通者、か」


「まだ、そうと、決めるのは、早いです」わたしは、慎重に、言った。「ただの、盗みかもしれない。飢えを、恐れた、誰かが、こっそり、蓄えを、隠しているだけ、かもしれない。でも――この、封鎖の、さなかに、内側で、物が、抜かれている。もし、それが、ハルバに、通じた者の、仕業だとしたら。封鎖と、内通で、挟み撃ちに、されていることに、なります」


その、可能性を、口にすると、背筋が、冷えた。ずっと、外の、敵とだけ、戦っているつもりだった。だが、この、信頼していた、辺境の、内側に、敵の、手が、伸びているかもしれない。共に、飢えを、越えようとしている、その、輪の中に。


「信じたく、ないな」ヴァレンが、低く、呻いた。「この、辺境の、誰かが。共に、耐えている、この、時に」


「わたしも、信じたく、ありません」わたしは、静かに、言った。「でも、信じたい、という、気持ちで、数字を、曲げては、いけません。それをしたら、わたしは、あの、加害者家と、同じに、なる。見たくないものを、見ないふりをして、崩れていった、あの家と。……つらくても、数字が、告げるものは、まっすぐ、受け止めます。それが、この辺境を、守ることに、つながるなら」


ヴァレンは、しばらく、黙っていた。それから、深く、頷いた。「そうだな。……あんたの、言う通りだ。目を、そらして、守れるものは、何もない」


「マレナ」わたしは、報告に、来た、マレナに、尋ねた。「町で、何か、変わったことは。誰かが、急に、羽振りが、良くなったとか。妙な、動きを、している者は」


マレナは、少し、考えて、言った。


「そういえば……封鎖で、みんな、物が、なくて、困ってるのに。一人だけ、なんだか、余裕の、ある人が。こそこそ、夜に、出歩いてる、って、噂を、聞きました」


わたしの、目が、鋭く、なった。糸口だ。


「ヴァレン様」わたしは、静かに、言った。「内側の、穴を、探します。でも、大っぴらに、犯人捜しを、すれば、辺境じゅうが、疑心暗鬼に、なります。せっかく、鎮めた、不安が、また、燃え上がる。だから――静かに、やります。数字で。物を、抜けば、必ず、どこかの、帳尻が、合わなくなる。その、合わない一点を、たどれば、穴の、正体に、たどり着けます」


「できるのか。そんな、静かに」


「できます」わたしは、頷いた。「派手に、詰め寄る必要は、ありません。ただ、記録を、丹念に、読むだけ。物を、抜いた者は、必ず、痕跡を、残します。抜いた本人は、気づかない、小さな、ずれを。……嘘を、つく者は、いつも、数字の、細部を、忘れるんです」


わたしは、その夜から、封鎖の、采配と、並行して、もう一つの、戦いを、始めた。内側の、穴を、静かに、塞ぐ戦い。膨大な、出納の記録の中から、たった一つの、合わない数字を、探し出す、根気の、いる作業だった。


だが、わたしは、確信していた。必ず、見つかる。数字は、正直だから。物を、抜いた分だけ、どこかで、必ず、辻褄が、合わなくなっている。あとは、それを、見つけるまで、読むだけだ。


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