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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第41話 あと四十二日

封鎖は、静かに、しかし、確実に、辺境の首を、絞め始めた。


街道は、ハルバの旗を掲げた一団に、ふさがれた。辺境へ、入ろうとする、商人の荷車は、追い返される。辺境から、出ようとする、品も、通してもらえない。物の、流れが、止まった。町の市場から、まず、遠くの品が、消え、次いで、値が、じりじりと、上がり始めた。


領民の、不安が、目に見えて、膨らんでいった。城下の広場には、人が、集まり、ざわめきが、絶えなかった。また、あの、飢えの日々が、来るのか、と。


その、恐慌の、芽を、摘むために、わたしが、まず、したのは、恐れることでは、なかった。数えることだ。


わたしは、城の一室に、こもり、辺境の、すべての、蓄えを、書き出した。麦。豆。塩。薪。油。鉱山の、蓄え。そして、日ごとに、どれだけ、消費されるか。封鎖が、続けば、それぞれが、いつ、尽きるか。一つ一つを、計算していく。


三日、かけて、その、見積もりが、できあがった。


「あと、四十二日は、持ちます」わたしは、ヴァレンと、ギースの前に、その表を、広げた。「今の、蓄えと、いまの、消費のままなら。四十二日、辺境は、封鎖に、耐えられます」


「四十二日」ヴァレンが、その数字を、繰り返した。「思ったより……長いな」


「備えを、してきましたから」わたしは、頷いた。「守る、攻める、備える。その、備えの山を、崩さずに、取っておいた。それが、いま、四十二日という、時間に、変わりました。……この、四十二日が、わたしたちの、持ち時間です。この間に、封鎖を、破る。あるいは、ハルバが、先に、音を上げる。どちらかが、起きればいい」


「だが」ギースが、不安げに、言った。「四十二日を、過ぎたら」


「過ぎたら、飢えます」わたしは、正直に、答えた。隠しても、仕方が、ない。「だから、過ぎる前に、手を、打ちます。大事なのは、この、四十二日という、数字を、皆で、知っておくことです」


「なぜ、です」ギースが、問うた。「そんな、恐ろしい数字を、皆に、知らせては、かえって、不安を、煽るのでは」


「逆です」わたしは、首を、振った。「いちばん、人を、怯えさせるのは、いつ、終わるか、わからない、ことなんです。先が、見えない、闇の中では、人は、際限なく、怖がる。でも、あと、四十二日、と、はっきり、わかれば。その、四十二日を、どう、越えるか、皆で、考えられる。数えられる恐怖は、備えられる。備えられる恐怖は、越えられる。……不安は、闇から、生まれます。数字は、その闇に、灯りを、ともします」


「それに」わたしは、付け加えた。「四十二日と、言いましたが、これは、何も、しなかった場合です。手を、打てば、この日数は、延ばせます。消費を、少し、切り詰めれば、五十日に。裏の、細い道で、少しでも、物を、入れられれば、六十日に。逆に、慌てて、蓄えを、食い潰せば、三十日に、縮む。……四十二日は、決まった運命では、ありません。わたしたちの、やり方しだいで、伸びも、縮みも、する数字です」


「では」ヴァレンが、身を、乗り出した。「延ばす手を、打てば」


「打ちます。すべて」わたしは、頷いた。「一日でも、長く、持たせる。その、一日一日が、ロザリンドさんの、証拠固めの、時間を、稼ぎます。時間さえ、あれば、こちらが、勝ちます。だから、この戦いは、時間を、生み出す戦いです。数字で、時間を、作る」


わたしは、その、四十二日を、さらに、細かく、区切った。今すぐ、切り詰める分。半ばで、見直す分。最後まで、決して、手を、つけない分。そして、その、配給の、計画を、領民に、はっきりと、示した。


効き目は、すぐに、現れた。


いつ、飢えるか、わからない、という、漠然とした恐怖。それが、あと四十二日、この計画で、越える、という、具体的な、道筋に、変わると、広場の、ざわめきが、少しずつ、収まっていった。やるべきことが、見えれば、人は、落ち着く。パニックは、消え、代わりに、静かな、覚悟が、辺境に、根づき始めた。


「奥方様の、数字は」ギースが、感嘆した。「人の、心まで、鎮めますな」


「数字が、鎮めるのでは、ありません」わたしは、微笑んだ。「先が、見えることが、鎮めるんです。わたしは、ただ、その、先を、見えるように、しただけ」


その夜、わたしは、疲れた体で、資金と、物資の、日繰りの表を、もう一度、見返していた。ヴァレンが、温かい茶を、運んできてくれた。


「根を、詰めるな」ヴァレンが、言った。「あんたが、倒れたら、辺境が、倒れる」


「もう少しだけ」わたしは、茶を、両手で、包んだ。「この、四十二日の、見積もりを、もう一度、確かめておきたくて。命が、かかった、数字ですから。一つの、狂いも、許されません」


「なら、俺も、付き合う」ヴァレンは、そう言って、わたしの、向かいに、腰を、下ろした。「見張っていないと、あんたは、夜通し、やりかねん。……数字は、読めんが、隣に、いることは、できる」


その、無骨な、気遣いに、わたしは、少し、笑った。数字は読めなくても、隣にいてくれる。それだけで、深夜の、冷えた部屋が、ふしぎと、温かかった。頼る、ということを、覚え始めた胸に、その温もりは、素直に、しみ込んだ。


だが。


翌朝。配給の、初日の、記録が、上がってきたとき、わたしの、指が、止まった。


備蓄の、減り方が、おかしい。わたしの、見積もりより、明らかに、速い。計算では、これだけしか、減らないはずの、蓄えが、実際には、それより、多く、減っている。


一日目だから、誤差か。そう、思おうとした。だが、数字を、読む者の、勘が、告げていた。これは、誤差では、ない。


誰かが、内側から、辺境の、数字を、狂わせている。


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