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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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40/55

第40話 封鎖

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

経済封鎖。その言葉が、辺境に、届いたとき、城の空気は、一瞬で、凍りついた。


ハルバ商会と、グラス伯爵は、公然と、宣言した。辺境ヴェント領へ、物を、入れさせない。辺境から、物を、出させない。街道を、押さえ、取引を、する商人には、ハルバと、伯爵の、両方を、敵に回す覚悟を、迫る。そうして、辺境を、干上がらせ、根を上げさせて、まるごと、乗っ取る。


「なりふり、構わなく、なりましたね」わたしは、その、宣言の、書状を、読みながら、静かに、言った。「理で、負けたから、力で、押さえ込みにきた。買い占めで、大損を、出して、追い詰められた、証拠です。余裕の、ある者は、こんな、乱暴なことは、しません」


「アデル」ヴァレンの、声は、険しかった。「これは、まずいぞ。街道を、封じられれば、物が、入ってこない。辺境の、暮らしが、成り立たなくなる」


「はい」わたしは、頷いた。「これまでで、いちばんの、危機です。楽観は、しません。……でも、絶望も、しません。封鎖は、強い手ですが、万能では、ありません。そして、向こうにとっても、諸刃の剣です」


「諸刃、とは」


「封鎖を、続けるにも、金と、力が、要ります」わたしは、言った。「街道を、押さえる、人手。取引を、断つよう、商人に、圧力を、かけ続ける、手間。ハルバは、買い占めで、大損した、その、傷が、癒えないうちに、また、大きな力を、使う。……向こうも、そう、長くは、続けられません。これは、我慢比べです。どちらが、先に、息を、切らすか」


「わたくしめは」ギースが、青い顔で、口を、開いた。「封鎖と、聞いて、正直、生きた心地が、いたしません。物が、入らねば、いずれ、蔵が、尽きます。領民が、また、飢える。あの、飢えの日々に、逆戻りかと」


「ギース」わたしは、老人の、目を、まっすぐに、見た。「一つ、聞いてください。あなたは、あの、飢えの日々を、どう、越えましたか。何も、数えず、ただ、天を、仰いで、いましたか」


「いえ……あの頃は、ただ、なすすべも、なく」


「今は、違います」わたしは、静かに、言った。「今の辺境には、数えられる備えが、あります。数えられるものは、備えられる。備えられるものは、越えられる。あの頃、いちばん、怖かったのは、飢えそのものでは、なく、いつ、終わるのか、わからない、ことだったはずです。でも、今度の冬は、終わりが、見えています。ロザリンドさんが、証拠を、固めれば、封鎖は、終わる。終わりの、見える冬は、越えられます」


ギースの、震えが、少しずつ、収まっていった。終わりが、見える。その一言が、この、忠実な老人の、背筋を、支えた。


わたしは、努めて、冷静に、辺境の、いまの力を、数えた。備蓄は、どれだけ、あるか。封鎖されて、何日、持つか。裏の、細い交易路は、まだ、生きているか。近隣の、味方の領は、どこまで、助けてくれるか。一つ一つを、確かめ、頭の中の、帳簿に、書きつけていく。


「幸い」わたしは、言った。「わたしたちは、この日のために、備えを、してきました。守る、攻める、備える。その、備えの山を、崩さずに、取っておいた。いま、それが、生きます。それに――封鎖されても、ゼロには、なりません。ハルバが、押さえられるのは、大きな街道だけ。北の領との、細い道は、向こうの、目が、届いていない。細くても、命綱は、残っています」


だが、わたしには、もう一つ、大きな、狙いが、あった。


「ロザリンドさん」わたしは、査察官を、見た。「ハルバの、不正の、核心。二重の、担保。二重の、契約。その、全貌が、あと一歩で、揃います。子爵家の粉飾、辺境の借金、お兄様を、はめた罠。そして、この、封鎖。全部、一本の、糸で、つながっている。その糸を、たぐりきれば――ハルバの、悪事の、全体像を、公の、証拠として、突きつけられます」


ロザリンドの、目が、鋭く、光った。


「会計院を、動かします」彼女は、静かに、しかし、確かな、決意を、こめて、言った。「これだけの、証拠が、揃えば、一商会の、査察では、済みません。ハルバの、大陸ぜんぶに、またがる、非道を、正式に、調べる。……あなたの、残した記録から、始まった、この糸を、私は、最後まで、たぐります」


「頼みます」わたしは、頭を、下げた。「証拠は、あと一歩で、揃います。それまで、辺境を、持たせます。封鎖に、耐えて、時を、稼ぐ。その間に、あなたが、証拠を、固める。……守りと、攻めを、同時に、やります」


ヴァレンが、わたしの、隣に、立った。


「防衛は、俺が、固める」ヴァレンの声は、揺るがなかった。「街道の、守り。城の、備え。領民の、不安を、抑えること。武で、できることは、すべて、やる。あんたは、数字で、時を、稼いでくれ。……俺たちは、それぞれの、戦い方で、この封鎖を、越える」


「はい」わたしは、頷いた。三人の、目が、合った。会計を、読むわたし。剣を、握るヴァレン。記録を、公にする、ロザリンド。それぞれ、違う、武器を、持った、三人が、一つの、敵に、向かって、立っていた。


こうして、辺境は、最大の、危機に、突入した。物流が、止まり、時計が、刻み始める。備蓄は、いつまで、持つのか。証拠は、間に合うのか。ハルバの、封鎖と、こちらの、我慢と、証拠固めの、三つの、時間が、これから、競い合う。


窓の外を、見ると、街道の、方から、封鎖の、動きが、始まっているのが、見えた。ハルバの、旗を、掲げた、一団が、辺境へ、入る道を、ふさぎ始めている。


わたしは、静かに、深呼吸を、した。震える必要は、ない。備えは、してきた。味方も、いる。そして、こちらの、帳簿は、正直だ。正直な者は、どんな、封鎖の前でも、背筋を、伸ばして、いられる。


長い、我慢の、冬が、始まろうとしていた。だが、辺境の人は、冬の、越え方を、知っている。


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