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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第34話 売れなければ、ただの荷物

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

首輪を、外した辺境は、初めて、守りから、攻めへと、転じることが、できた。


だが、わたしが、選んだ、攻め方は、剣でも、脅しでも、なかった。ハルバが、いちばん、得意とする、そして、いちばん、頼ってきた、手口。買い占め。それを、そっくり、逆手に、取ることだった。


「思い出してください」わたしは、ヴァレンと、ロザリンドの前に、市場の記録を、広げた。「ハルバは、この辺りで、大量の、穀物や、資材を、買い占めました。値を、吊り上げて、わたしたちを、締め上げるために。あの、買い占めた品は、いま、どこに、あると、思いますか」


「ハルバの、倉に」ヴァレンが、答えた。


「そうです。山のように、積まれています」わたしは、頷いた。「ここに、向こうの、弱みが、あります。買い占めは、買った、その時点では、儲けでは、ありません。それを、高く、売って、初めて、儲けに、なる。売れなければ――ただの、荷物です。倉に、積まれた、動かない、大量の、品。それは、資産のようで、その実、日々、倉庫代が、かかり、傷んでいく、重荷なんです」


ロザリンドが、興味深そうに、身を乗り出した。「つまり、あなたは、その品を、売れなくさせる、と」


「売れなく、というより」わたしは、言った。「高く、売れなくさせます。ハルバは、高く、売るつもりで、買い占めた。もし、その品が、市場で、安く、だぶつけば。ハルバの、抱えた在庫は、買った値より、安くしか、売れなくなる。高く買って、安く売る。それは、儲けでは、なく、大損です」


「どうやって、だぶつかせる」


「二つ、やります」わたしは、指を、立てた。「一つは、代わりの品を、市場に、流すこと。ハルバが、押さえたのは、いつもの、穀物や、木材です。でも、辺境には、いま、代わりになる品が、あります。北の領から、仕入れた、木材。鉱山の、副産物。それらを、市場に、安く、出す。すると、人々は、ハルバの、高い品を、買わずに、こちらの、安い品を、買う。ハルバの、在庫は、売れ残る」


わたしは、二本目の指を、立てた。


「もう一つは、待つこと。人は、値が、上がり続けると、思えば、慌てて、買います。でも、値が、下がり始めた、と、思えば、買うのを、待ちます。もう少し、待てば、もっと、安くなる、と。……市場に、代わりの品が、出回り、値が、下がり始めれば、みんな、様子見に、入ります。買い手が、待てば、ハルバの、山は、ますます、売れ残る。倉庫代だけが、かさんで、いく」


「待てば、待つほど」ヴァレンが、ゆっくりと、言った。「向こうは、苦しくなる、のか」


「はい。ここが、面白いところです」わたしは、少しだけ、身を乗り出した。「積み上げた、品は、時とともに、価値が、減ります。麦は、古くなり、木材は、反り、鉄は、錆びる。しかも、置いておくだけで、倉庫代が、かかる。つまり、ハルバの、山は、放っておくだけで、日ごとに、痩せていく。向こうは、どこかで、損を、覚悟で、投げ売り、するしか、なくなる。投げ売りすれば、値は、さらに、下がる。そうなれば――なだれです。一度、崩れ始めた、値の山は、止まりません」


「読んでいて、ぞっとします」ロザリンドが、正直に、言った。「あなたは、剣も、金も、使わずに、相手を、追い詰める。ただ、人の、心の、動きと、時間の、流れを、読むだけで」


「わたしが、追い詰めるのでは、ありません」わたしは、首を振った。「ハルバが、買いすぎた。ただ、それだけです。わたしは、その、買いすぎが、どう、裏目に、出るかを、少し、早めに、見ているだけ。数字は、いつも、少し先の、景色を、見せてくれます」


「相手の、強欲を、そのまま、武器にする、ということですね」ロザリンドが、静かに、言った。「たくさん、買い占めた者ほど、たくさんの、売れ残りを、抱える。あなたは、何も、奪わない。ただ、相手が、抱えすぎた重みで、自分から、傾くのを、仕向ける」


「その通りです」わたしは、頷いた。「わたしは、ハルバの、倉に、火を、つけるわけでも、品を、盗むわけでも、ありません。ただ、この土地の、人々が、安く、必要な品を、買えるように、するだけです。それは、まっとうな、商いです。誰にも、恥じることは、ない。……結果として、ハルバの、山が、売れ残るのは、ハルバが、買いすぎたから。それだけの、ことです」


ロザリンドが、書状を、確かめ、頷いた。


「合法です。市場に、品を、出すのも、値を、決めるのも、あなたの、自由。何一つ、法には、触れていない。……見事な、ものです。相手の、悪意を、そっくり、相手に、返す。刃を、抜かずに」


わたしは、その、策を、静かに、動かし始めた。北の領との、取引を、増やし、代わりの品を、市場に、流す。鉱山の、副産物を、安く、出す。マレナに、市場の、空気を、探らせ、人々が、どこで、様子見に、入るかを、見極める。一つ一つは、地味な、商いの、積み重ねだ。派手さは、どこにも、ない。


だが、その、地味な、積み重ねが、じわじわと、市場の、流れを、変えていった。


「奥方様」マレナが、報告に、来た。「町の人たち、こっちの、安い木材を、買い始めました。『ハルバの品は、高すぎる』『もう少し、待てば、もっと、下がる』って、みんな、言ってます」


「そう」わたしは、静かに、頷いた。仕込んだ、種が、芽を、出し始めていた。「なら、あとは、待つだけ。慌てず、静かに」


わたしは、ハルバの、倉を、思い浮かべた。山のように、積まれた、買い占めの品。買ったときは、勝ち誇っていただろう、その山が、いま、日ごとに、売れ残り、傷み、倉庫代を、食い、静かに、重荷へと、変わっていく。


罠は、もう、動き出していた。ハルバ自身が、積み上げた、強欲の山。その山が、これから、崩れ始める。誰の手も、借りずに。ただ、市場の、正直な、理によって。


わたしは、その、崩れの、最初の音を、静かに、待った。


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