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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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33/61

第33話 出し手は、選べる

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

ハルバの、要求は、非情だった。


辺境が、背負った、借金の、残り全額を、今すぐ、一度に、返せ。返せなければ、契約通り、担保の、鉱山と、関所を、差し押さえる。そういう、通告だった。


「無茶だ」ヴァレンが、通告の書状を、握りしめた。「一度に、全額など、返せるわけが、ない。向こうも、それを、承知の上で」


「承知の上で、言っています」わたしは、静かに、頷いた。「これは、返せ、という要求では、ありません。返せないだろう、と、見越して、担保を、取り上げる、口実です。首輪を、いよいよ、引く気です」


部屋に、重い、空気が、垂れ込めた。ギースの顔が、青ざめる。せっかく、立て直した辺境が、この一撃で、根こそぎ、奪われる。誰もが、そう、感じていた。


だが、わたしは、諦めて、いなかった。


「一つ、抜け道が、あります」わたしは、言った。「借金は、返さなければ、なりません。でも――誰から、借りるかは、こちらが、選べます」


「どういう、ことだ」


「今の借金を、ハルバ以外の、誰かから、借りたお金で、返すんです」わたしは、説明した。「借り換え、と言います。ハルバに、一括で、返す。その、返すお金は、別の、健全な、出し手から、借りる。そうすれば、ハルバの、首輪は、外れる。借金は、残りますが、相手が、変わる。人を、食い物にする商会から、まともな、貸し手へ。同じ、借金でも、まるで、違います」


「そんな、都合のいい、貸し手が、いるのか」ヴァレンが、訝しんだ。「この、大商会を、敵に回してまで、辺境に、金を、貸す者が」


「いま、なら、います」わたしは、卓の上の、鉱山の、収益の見込みを、示した。「一年前なら、いませんでした。死にかけの土地に、金を、貸す者は、いない。でも、今の辺境は、違います。鉱山が、動き、関所が、賑わい、毎月、確かに、黒字を、出している。この、稼ぐ力を、担保に、すれば、貸してもいい、という相手は、いるはずです」


わたしは、三つの、当てを、挙げた。


一つは、近隣の、小さな領。辺境との、直の取引で、信頼が、できている。共に、ハルバの、横暴に、苦しめられてきた、仲間でもある。


二つは、良心的な、商人たち。ハルバの、やり方に、うんざりしている、まともな、商人は、少なくない。辺境が、ハルバに、一泡、吹かせるなら、手を、貸したい、という者が、いる。


そして、三つ目。わたしは、ロザリンドを、見た。


「会計院の、お墨付きが、あれば」わたしは言った。「辺境の、帳簿が、正しいという、公の、証明に、なります。それは、何よりの、信用です。正しい記録を、持つ土地は、安心して、金を、貸せる。あなたの、査察の、結果が、辺境の、いちばんの、担保に、なります」


ロザリンドは、少し、考えて、頷いた。


「会計院は、金を、貸す機関では、ありません。ですが、査察の、結果を、公にすることは、できます。辺境の、記録に、不正なし、と。それを、聞けば、貸し手は、動きやすく、なるでしょう」彼女は、静かに、付け加えた。「私情では、ありません。正しい記録が、正しく、報われる。それも、会計院の、務めの、うちです」


その、言葉が、決め手に、なった。


わたしは、動いた。近隣の領へ、良心的な商人へ、書状を、送り、鉱山の、収益の見込みと、会計院の、査察の結果を、示して、借り換えを、持ちかけた。返事は、思ったより、早く、そして、前向きに、返ってきた。


一つの、大商会から、一括で、借りるのでは、ない。複数の、健全な、相手から、少しずつ、分けて、借りる。誰か一人に、首輪を、握られない形に。それが、わたしの、組んだ、借り換えの、形だった。


「なぜ、わざわざ、何人にも、分けるんだ」ヴァレンが、尋ねた。「まとめて、一人から、借りたほうが、話は、早いだろう」


「早いですが、危ないんです」わたしは、答えた。「一人から、全部、借りれば、その一人が、また、ハルバのように、首輪を、握る相手に、なりかねない。大きな貸し手は、大きな力を、持ちます。でも、十人から、少しずつなら、誰も、一人では、辺境を、締められない。もし、一人が、意地悪を、しても、他の九人が、いる。……借金は、背負うものですが、背負い方にも、賢い形と、危うい形が、あります。一つの、太い縄より、細い縄を、たくさん。一本、切れても、落ちない」


ヴァレンは、その考え方に、感心したように、唸った。同じ、借金でも、組み方一つで、首輪にも、命綱にも、なる。それが、数字を、読める者と、読めない者の、差だった。


そして、期限の、日。わたしは、ハルバの、使者の前に、借金の、全額を、耳を、揃えて、差し出した。


使者の顔が、みるみる、こわばった。返せるはずが、ないと、思っていた金が、目の前に、積まれている。


「これで、辺境の、借金は、完済です」わたしは、静かに、言った。「担保の、鉱山も、関所も、辺境の、ものです。もう、あなた方の、証文は、ただの、紙切れです」


「……どこから、この金を」使者が、絞り出すように、言った。


「お金の、出し手は、あなた方だけでは、ありません」わたしは、言った。「健全な、相手を、こちらで、選びました。人を、食い物にしない、まともな、貸し手を。……ずいぶん、長いあいだ、この辺境の、首を、絞めてくださいました。おかげで、健全な、お金の、ありがたみが、よく、わかりました」


使者は、何も、言い返せず、去っていった。長年、辺境を、縛ってきた、ハルバの、首輪が、ついに、外れた、瞬間だった。


「外れた」ヴァレンが、信じられない、というように、呟いた。「あの、借金が」


「外れました」わたしは、深く、息を、吐いた。全身から、長年の、重みが、抜けていく。「これで、守りは、固まりました。……ここからは」


わたしは、顔を、上げた。目に、これまでとは、違う、光が、宿っていた。


「攻めます。今度は、こちらから」


守り抜いた、辺境の、次の一手。それは、ハルバが、最も、得意とし、最も、頼ってきた、あの、買い占めそのものを、逆手に、取る策だった。


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