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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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27/70

第27話 根は、一つ

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

ダルク子爵家の名が、なぜ、辺境の敵の、糸の上に、あるのか。


わたしは、それを、確かめずには、いられなかった。個人的な、感傷では、ない。もし、あの家と、ハルバが、つながっているなら、それは、辺境の戦いに、直に、関わってくる。


わたしは、記憶を、たどった。かつて、あの子爵家の帳簿を、遠目に、見たことがある。婚約者だったリオネルの家は、社交界で、羽振りが、良かった。だが、その内実は、火の車だった。わたしは、辺境に来てから、ふと、疑問に思っていた。あの家は、なぜ、あれほど、傾いていたのに、あんなに、派手に、暮らせていたのか。


いま、その疑問が、ハルバという、一つの名を得て、形を、なし始めた。


わたしは、辺境に流れてきた、王都の商人筋の噂と、記憶に残る、あの家の帳簿の、断片を、突き合わせた。子爵家の、不自然な借入。その、返済の、奇妙な条件。そして、辺境が、ハルバから、背負わされた、あの、返せない借金の、条件。


二つを、並べて、わたしは、息を、のんだ。


同じだった。


「利率の、上がり方。担保の、取り決め。返済が滞ったときの、罰の、仕組み。……そっくりです」わたしは、ヴァレンに、二つの写しを、示した。「まるで、同じ人が、同じ型で、書いたみたいに。子爵家を、追い詰めた借金と、辺境を、追い詰めた借金。この二つは――同じ、手口です」


「似ている、というだけでは、ないのか」ヴァレンが、慎重に、尋ねた。「金貸しの、証文なんて、どれも、似たようなものでは」


「いいえ」わたしは、二つの写しの、ある一行を、並べて、指した。「ふつうの証文には、ない、変わった一文が、あります。返済が、三月、滞ったら、担保を、金でなく、事業そのものに、差し替える。この、独特な、言い回し。子爵家の証文と、辺境の証文、一字一句、同じです。こんな、癖のある文が、たまたま、二つの家で、そっくり、なんてことは、ありません。同じ手が、書いた証拠です」


わたしにとって、証文の、言い回しは、人の、筆跡と、同じだった。書き手の、癖が、出る。そして、この二通には、同じ、癖が、刻まれていた。


「同じ、商会が、両方に」


「ええ」わたしは、確信を込めて、言った。「ハルバは、辺境だけを、狙っていたのでは、ありません。飢えた土地、傾いた家。弱った相手を、見つけては、優しい顔で、返せない金を、貸す。そして、時が来れば、まるごと、呑み込む。同じことを、大陸の、あちこちで、繰り返している。子爵家も、その、獲物の、一つだったんです」


そこまで言って、わたしは、あることに、気づいた。


子爵家は、傾いていた。なのに、派手に、暮らせていた。それは、ハルバが、金を、貸していたからだ。返せないと、わかっていて。貸した金で、子爵家は、見栄を、張る。張れば、また、金が、要る。要れば、また、借りる。雪だるまが、転がる。ハルバは、それを、承知で、貸し続ける。子爵家が、抜け出せなくなるまで。


「二重の、罠です」わたしは、言った。「表向きは、子爵家に、金を、貸している。でも、その裏で、貸した金が、返らないように、わざと、仕向けている。貸すことと、返させないことを、同時に、やっている。……子爵家の、粉飾も、たぶん、ハルバが、手を、貸しています。傾いた家計を、綺麗に、見せかけて、まだ、借りられる、と、周りに、思わせるために」


わたしは、かつて、自分が、夜通し、縫っていた、あの家の帳簿を、思い出した。表の、華やかさを、保つために、裏で、必死に、辻褄を、合わせていた、あの縫い目。あれは――ひょっとしたら、わたしが、知らないうちに、ハルバの、罠を、深くする、手伝いを、していたのかもしれない。


その考えに、背筋が、冷えた。わたしが、綻びを、縫えば、縫うほど、家は、まだ大丈夫だと、思い込まされ、さらに、借金を、重ねていく。わたしの、誠実な仕事が、皮肉にも、あの家を、より深い、罠へと、押し込んでいた。


「アデル」ヴァレンが、わたしの、青ざめた顔を、見て、言った。「どうした」


「……いえ」わたしは、首を振った。「わたしは、あの家で、帳簿を、直していました。良かれと思って。でも、その裏に、こんな、大きな罠が、あったなんて、気づきもしなかった。悔しいんです。数字を、読めるつもりで、いちばん、大事な、絵図が、見えていなかった」


「気づけたはずが、ないだろう」ヴァレンが、静かに、言った。「あんたは、あの家の、綻びを、縫うことしか、任されていなかった。全体の、絵図を、見せてもらえる立場じゃ、なかった。……見えなかったんじゃない。見せて、もらえなかったんだ」


その言葉が、少しだけ、胸の、つかえを、ゆるめた。そうだ。わたしは、道具として、使われていた。全体を、知る立場には、いなかった。けれど――いまは、違う。いまなら、全体の絵図を、この目で、見られる立場に、いる。


「いまなら、見えます」わたしは、顔を、上げた。「同じ、筆跡。同じ、抜け道。子爵家の、粉飾も、辺境の、借金も、グラス伯爵の、癒着も。ばらばらに、見えて、根は、一つです。ハルバという、一本の、太い根。それが、あちこちに、枝を、伸ばして、弱った家を、土地を、静かに、締め上げている」


点と、点が、つながった、その瞬間。恐ろしさと、同時に、奇妙な、高揚が、あった。敵の、全体像が、初めて、見えた。見えれば、狙いを、定められる。


「わたしたちが、戦っているのは」わたしは、静かに、言った。「辺境一つの、問題では、ありません。もっと、大きな、根と、戦っているんです。……でも、それは、いい報せでも、あります。大きな根ほど、断ち切ったときの、倒れ方も、大きい」


だが、その真相は、あまりに、重かった。一晩で、抱えきれるものでは、ない。わたしが、その糸の重さに、沈みかけていたとき、窓の外から、賑やかな、太鼓の音が、聞こえてきた。


辺境に、収穫の、季節が、来ていた。


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