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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第26話 払っているのは、誰か

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

ハルバが、手を組んだ相手の名は、すぐに、知れた。


グラス伯爵。辺境の、隣にほど近い、有力な貴族だった。王都にも、顔が利き、地方に、大きな影響力を持つ。その伯爵が、このところ、辺境のことを、あちこちで、悪く言い始めた、という。あの辺境伯は、素性の知れぬ女に、領政を、任せている。危うい土地だ、と。


「なぜ、グラス伯爵が、うちを」ヴァレンが、眉を寄せた。「これまで、ろくに、付き合いも、なかった相手だ」


「付き合いがないのに、急に、悪く言い始める」わたしは言った。「それ自体が、おかしいんです。人は、ただでは、動きません。誰かに、何かを、もらったから、動く。伯爵が、急に、うちの敵に、回った。なら、伯爵に、何かを、渡した者が、いるはずです」


「わたくしめも」ギースが、心配そうに、口を添えた。「気になる噂を、耳にいたしました。グラス伯爵様は、このところ、あちこちの寄り合いで、辺境の交易を、締め出すよう、他の領主様がたに、働きかけておられるとか。『あの辺境の安い関所は、界隈の商いの秩序を、乱す』と」


「秩序を、乱す」わたしは、思わず、繰り返した。「安くして、人を呼ぶ。それの、どこが、秩序を乱すのでしょう。……乱れて、困るのは、これまで、高い道で、儲けていた者だけです。つまり、ハルバと、その仲間だけ。伯爵は、ハルバの言葉を、そのまま、自分の口で、しゃべっている」


その一言で、ヴァレンの目つきが、変わった。伯爵の口を借りて、ハルバが、しゃべっている。そう考えれば、辻褄が、合う。


わたしは、集められるだけの、噂と、記録を、集めた。グラス伯爵の、暮らしぶり。領地の、大きさ。そこから、上がるはずの、おおよその収入。そして、伯爵が、最近、使っている金の、派手さ。


二つを、並べると、はっきりと、合わなかった。


「伯爵の羽振りが、良すぎます」わたしは、ヴァレンに、示した。「新しい屋敷、大きな宴、王都での、派手な社交。この暮らしには、伯爵の領地から上がる収入では、まったく、足りません。なのに、金は、回っている。ということは――どこか、外から、金が、注ぎ込まれています」


「ハルバが、出している、と」


「ほぼ、間違いなく」わたしは頷いた。「表向きは、貸し付け、か、何かの、名目でしょう。でも、実態は、抱き込みです。金で、権威を、買っている。ハルバは、資本を、出す。伯爵は、その金で、権威を、使って、辺境を、追い詰める。資本と、権威が、手を、結んだんです」


わたしは、その、金の流れを、頭の中で、たどった。ハルバから、グラス伯爵へ。伯爵から、辺境への、圧力へ。剣を、抜かずに、権威という、別の刃で、辺境を、囲もうとしている。


「厄介に、なりました」わたしは、正直に、言った。「商会一つなら、お金の話です。こちらの、土俵でした。でも、貴族の権威が、加わると、話が、変わります。税を、通しにくくされたり、他の貴族に、うちとの取引を、避けるよう、圧力を、かけられたり。お金では、買えない壁が、立ちはだかる」


ヴァレンの顔が、険しくなった。「では、勝ち目は」


「あります」わたしは、言った。「権威は、強い。でも、その権威を、支えているのは、ハルバの、お金です。土台は、お金なんです。お金で、買った権威は、お金が、途切れれば、崩れます。伯爵は、いま、ハルバの金で、大きな顔をしている。でも、その金は、伯爵のものでは、ない。借り物の、力です。借り物の力で、踏ん反り返る者は、貸し主に、逆らえません」


「それに」わたしは、少し、声を落とした。「気になることが、もう一つ。伯爵が、ハルバから、金を、もらっているとしたら。それは、伯爵にとっても、弱みです。有力な貴族が、一商会の金で、動かされている。そんなことが、公に、知れたら、伯爵の、名に、傷がつく。……つまり、伯爵とハルバは、手を組んでいるようで、互いに、首根っこを、握り合っている。仲間割れの、種を、初めから、抱えているんです」


「仲間割れ、か」ヴァレンが、低く、呟いた。


「今すぐでは、ありません」わたしは言った。「でも、追い詰められたとき、金でつながっただけの仲は、いちばん先に、ほどけます。血でも、義理でもない。損得だけの絆は、損になった瞬間、切れる。……覚えておきます。この綻びは、いつか、効きます」


言いながら、わたしは、一つの、確信に、近づいていた。ハルバは、伯爵に、金を、渡している。渡した金は、必ず、どこかに、記録として、残る。表向きは、綺麗に、取り繕っていても、これだけの額を、動かせば、必ず、帳簿の、どこかに、不自然な、膨らみが、出る。その膨らみを、たどれば、癒着の、糸の、根元に、行き着ける。


わたしは、伯爵と、ハルバの、間に流れる金の、痕跡を、探し始めた。取引の記録の、断片。噂で聞いた、金額。日付。一つ一つは、小さな、切れ端だ。だが、その切れ端を、丹念に、つなぎ合わせていくと、うっすらと、一本の、糸の形が、浮かんできた。


そして、その糸を、手繰り寄せて、いったとき。


わたしの手が、止まった。


糸の、途中に、見覚えのある、名前が、あった。


王都の、子爵家。ダルク子爵家。


――かつて、わたしの、婚約者だった、リオネルの、家。


なぜ、あの家の名が、ここに。辺境の敵である、ハルバと、グラス伯爵。その、癒着の糸の途中に、なぜ、遠い王都の、わたしを捨てた家が、絡んでいるのか。


偶然、だろうか。けれど、数字は、偶然を、嫌う。同じ糸の上に、二度、同じ名が、現れたなら、それは、もう、偶然では、ない。わたしの、過去と、辺境の、いまの敵が、思いがけない、一本の糸で、つながり始めていた。


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