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捨てられた会計令嬢、実家の粉飾ごと縁を切って辺境へ嫁ぎます ~数字は嘘をつきません。あなた方と違って~  作者: ヲワ・おわり


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第22話 要るものを、別の道で

全70話完結予定です。毎日5話、7:10/12:10/17:10/20:10/22:10に更新します。

面白い、続きが気になると思っていただけましたら、評価・ブックマークで応援していただけると励みになります。

翌朝から、わたしは、二つの仕事を、同時に、始めた。


一つは、慌てて値上がりに乗ろうとする、辺境の人々を、落ち着かせることだ。放っておけば、皆、不安から、高い品に、我先にと、飛びつく。そうなれば、値は、さらに、跳ね上がる。ハルバの、思う壺だ。


「奥方様、うちの蔵の、麦を、放出なさると?」ギースが、驚いて、聞き返した。「敵が、買い占めているときに、大事な備蓄を、手放すのですか」


「はい」わたしは、頷いた。「ただし、売るのでは、ありません。町の店に、いつもの値で、卸します。値上がりした品と、並べて。すると、どうなると思いますか」


ギースは、少し考えて、はっと、目を見開いた。


「いつもの値の麦が、そこにあれば……誰も、高いほうを、買いません」


「そのとおりです」わたしは言った。「人が、高値に飛びつくのは、それしかない、と思うから。でも、いつもの値の品が、目の前にあれば、慌てる必要が、なくなる。買い占めは、みんなが不安になって、高くても買うから、成り立つ。その、不安の火を、消してしまえばいい。備蓄を、火消しに使うんです」


「ただし」わたしは、一つ、条件をつけた。「一人が買える量は、決めます。一家族、この量まで。でないと、目端の利く者が、いつもの値で、まとめ買いして、高いところへ、こっそり、売りさばく。それでは、また、値が、乱れます。安く放出するときこそ、行き渡るように、順番と量を、きちんと、決めるんです」


蔵から、麦と塩が、町の店へ、いつもの値で、並べられた。効き目は、すぐに、現れた。人々の、我先にという焦りが、すっと、引いていった。いつもの値で買えるなら、慌てて、高い店に、走ることはない。ハルバが吊り上げた値は、買い手を失って、宙に、浮いた。


「奥方様のところの麦は、いつもの値だ」。そんな声が、町に、広がった。マレナが、頬を紅潮させて、報告に来た。


「みんな、安心してます! 『奥方様がいるなら、飢えることはない』って。高い店に走ってた人も、戻ってきました」


「まだ、安心は、早いわ」わたしは言った。「これは、火消しよ。備蓄は、無限では、ないもの。放出しながら、その裏で、次の物を、確保しておかないと。片手で、火を消しながら、もう片方の手で、水路を、掘る。両方を、同時に、やらないと」


とはいえ、人々の顔から、飢えの恐怖が、消えていくのを見るのは、悪くなかった。数字の采配が、まっすぐ、人の安堵に、つながっていく。この手応えだけは、何度、味わっても、飽きなかった。


もう一つの仕事は、もっと、大事だった。再建に、どうしても要る、木材と、鉄。これは、備蓄では、足りない。外から、調達しなければならない。だが、いつもの市場は、ハルバに、押さえられている。


「別の道を、探します」わたしは、地図を広げた。「ハルバが押さえたのは、この、大きな街道沿いの市場です。でも、辺境の裏手には、小さな領が、いくつも、あります。そこと、直に、取引をします」


「そんな、小さな領に、木材や鉄が?」ヴァレンが、訝しんだ。


「あるはずです」わたしは、近隣の領の、産物の記録を、指した。「たとえば、この、北の小さな領。ここは、林業が、盛んです。でも、売る先が、遠くて、木材が、余り気味だと聞きます。ハルバは、こういう、小さすぎる相手は、相手にしません。手間の割に、儲けが、薄いからです。大きな商会が、見向きもしない、小さな余りものを、こちらは、ありがたく、いただきます」


「向こうが、拾わない場所を、拾う、ということか」


「はい」わたしは、微笑んだ。「大きな網は、目が、粗い。大きな魚は、獲れても、小さな魚は、するりと、こぼれ落ちる。わたしたちは、その、こぼれ落ちた、小さな魚を、集めます。一つ一つは、小さくても、集めれば、要る分には、足ります」


わたしは、ギースに、近隣の小領との、橋渡しを頼んだ。ヴァレンは、荷を運ぶ道の護衛に、手勢を、割いてくれた。そして、わたしは、それぞれの領へ、書状を、したためた。余っているものを、相応の値で、買わせてほしい、と。安く買い叩くのでは、なく、相手にとっても、ありがたい取引になるように。


数日後、最初の返事が、届いた。北の林業の領から。ぜひ、木材を、売りたい、と。売る先が、なくて、困っていた、という。


「うまく、いった」ヴァレンが、少し、驚いたように、言った。


「相手も、困っていたからです」わたしは言った。「こちらは、木材が、欲しい。向こうは、木材を、売りたい。困っている者同士が、手を、つなぐ。それだけのことです。ハルバは、値を吊り上げて、相手を、困らせることで、儲けようとする。でも、困らせて得た利は、相手が、離れれば、消えます。困りごとを、解いて得た利は、相手が、また、来てくれる。どちらが、長く続くかは、明らかです」


そうして、辺境には、ハルバの網を、すり抜けた、細い、けれど確かな、調達の道が、一本、通り始めた。木材が、届く。鉄が、届く。値上がりした市場を、通らずに。ハルバの買い占めは、辺境に、届く前に、宙を、つかんでいた。


だが、この細い道を、太くしていくには、まだ、足りないものが、あった。人と、物が、辺境を、通りたくなる仕組みだ。せっかく、裏の道を、つないでも、辺境が、通りにくい土地のままなら、この道は、細いまま、枯れてしまう。


わたしの目は、地図の、一つの点に、留まった。辺境の、入り口。人と、物の、出入りを、握る場所。


関所だ。あそこの、仕組みそのものを、作り替えれば――辺境は、通り抜けたくなる土地に、変わる。


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