Re:第9話「夢の中の真実」
オパリアの母、ルビアが術式の準備を整えたのは、数日後だった。
子供部屋に紋様が描かれた。魂繋ぎの改変術式——魂を引き離す効果のみに絞ったものだ。
大地はその文様の中心に立った。
「――始めるわ」
ルビアが言った。
「ああ」
◇
術式が発動し始めた。
床の紋様が光る。足元から流れが来る。
しかし——何かが違った。
流れが、細い。
あの時感じた感覚より、はるかに細い。まるで——通り道が狭すぎる。
(身体が小さすぎるのか?いや、何か別の──何かが重なっている感覚がある)
ルビアが眉を寄せた。
「……ダメね」
術式が収まった。
ルビアが大地を見た。
「この子の身体が——耐えられない。術式に対して負荷が大きすぎる。何故か分からないわ⋯⋯それに何か別の重なりを感じる」
「別の重なり?何だ?」
「ごめんなさい。そこまではわからないわ」
「お前のせいではない。身体の幼さは想定はしていた。だが――別の重なり、か」
大地は紋様の外に出た。
(肉体的な差が影響する事は想定してなかったな。5歳の身体では無理か。あの時は15歳だったな。)
「やはり15歳程度にならなければ安定は難しいか?」
「肉体的負担を考えると、おそらくそのくらいの年月が必要になりそうね。――ただ、重なりが何か分からなければ分離は難しいわ」
(別の方法を考えるか?)
◇
その夜、大地は早く寝室に入り横になった。
眠りに入る前に、意識を集中した。
(オパリア。いるなら——出てきてくれ)
明かりを消し目を閉じた。
◇
夢の中は、白かった。
真っ白い書庫に大地が立っていた。オパリアの身体で——田中大地として、という感覚だが。
誰かいる。話し声が聞こえてくる。
(二人いる?どういう事だ?)
◇
白銀の髪。金の瞳。
自分と同じ顔をした少女が二人。
一人は5歳のオパリア。しかし——もう片方は少しだけ大人びていた。17歳前後といったところか。
(俺がいた時よりも成長している?それになぜ2人いるんだ?)
「……なぜここにいるんだ?」
大地が言った。
5歳姿のオパリアは大地に気が付くと少女の後ろに隠れた。
「……この人が大地さんよ」
大人びた少女のオパリアは5歳のオパリアへ語りかける。5歳のオパリアは少し顔を出して大地を観察しているようだった。
「これは――想定していたよりも、ややこしい事になっているな」
大地はため息混じりに呟いた。
◇
「それなりに元気そうだな。」
何故かは分からない。少しだけ安心した。
「元気――うん。元気だったよ。話したいことがあるの」
オパリアが言った。
「この状況についてか?それとも、俺についてか?」
「……どっちも、かな」
大地は少し間を置いた。
「……わかった。教えてくれ」
◇
「俺がここにいる理由から教えてくれ」
大地が言った。
「分離は成功したはずだ。その後何があったか教えてくれ」
「あなたが消えた後——」
オパリアが言った。
「私は……ちゃんと戻れたよ。身体も、記憶も。ただ——大地がいなくなったことが、どうしても、少し寂しくて」
少し間を置いた。
「王宮の書庫で、禁忌魔法の本を見つけた。『繋がり辿り』という巻き戻しについて書かれた魔法を見つけたの。それで、もう一度呼び戻せるかもしれないと思って——」
「使ったのか」
「使おうとした。でも、うまくいかなかった。術式が途中で暴走して──」
「暴走の原因はわかるか?」
大地が言った。
「わからない。でも──」
オパリアは口元に手を添え、考える。
「術式が失敗したとき、何かが干渉したような感覚があった。それから——気づいたら、私は5歳の自分の中にいた」
「ここに二人がいる理由はそれか」
「たぶんそう。最初は何が起きたかわからなかった。でも徐々に理解した」
大地は少し考えた。
「俺は別れたあと、向こうのルビア──お前の母親と少し話しをした。その時、最後に詠唱した術。この世界のルビアが言うには転移の術だと言っていたな。おそらくは干渉したのはそれだろう。干渉によって暴走した術式と組み合わさって——」
「大地を引き寄せた」
「ある程度筋は通る筈だ、確証は無いがな」
◇
「繋がり辿りか──」
大地が確認するように話す。
「お前はこの世界線のオパリアと重なっている。つまり今、この身体には——」
「三つの魂がいる」
オパリアが言った。
「この世界線のオパリア、私、そしてあなた」
「……厄介だな」
「そうね」
少し沈黙。
「ごめんなさい」
オパリアが言った。
「お前が謝ることではない」
「でも——」
「お前がそうしたくなったんだろう。好きにすればいい」
大地は少し間を置いた。
「確認することがある。【繋がり辿り】とはどういった術だ?」
「……繋がりのある魂を、1度だけ呼び出して話をする事ができる──と魔法書にあったの」
「繋がりか──向こうのルビアも言っていたな」
「一度、ルビアや全員に説明する必要があるな」
オパリアが言った。
「私のことを?」
「このままにはできない。お前もここのオパリアも戻してやる」
「どうしてそこまで言い切れるの?」
「簡単なことだ。俺は既に死んだ──だが大人だ、大人は子供を守る。そういうものだろう?」
大地は、少し遠くへ目を向けていた。
◇
「魂の分離はそこまで問題ではない筈だ。だが、準備に時間がかかる。おそらくは俺が分離した時と同じ15歳位にはなるだろうな」
オパリアがしばらく黙っていたがぽつりぽつりと呟いた。
「……傍にいてほしかった」
静かな声だった。
「ずっと一緒にいたから。10年間側に。大地がいなくなってから——何かが、欠けたままだった」
大地は何も言えなかった。
「ごめんなさい、こんな面倒を——」
「面倒とは言っていない」
「……え」
「解決はできる。問題ない」
オパリアが大地を見た。
少し目が赤くなっていた。
「……大地らしい、変わらないね」
「そうか」
◇
夢が薄れ始めた。
「オパリア」
大地は少女へ語りかける。
「明日、説明の時に出てこれるか?」
オパリアが頷いたのを確認すると背を向けて歩き出す大地。
「わかった。では、またな」
「大地」
「……ありがとう。また来てくれて」
大地は少し間を置いた。
「来たくて来たわけではない。来てしまった、というのが正確だ」
オパリアが少し笑った。
「……そうね。でも——私は、また会えてよかったよ」
白い空間が、消えた。
「よかったよ、か……まぁ、悪くはないな」
目が覚めた。
天井が見えた。
(お遊戯、とは言えないな。複雑過ぎる)
大地は起き上がった。
窓の外が、明るくなり始めていた。
(全員に説明と共有する必要があるな。それからルビアの魔法知識を元に計画を立て直す。結末は変わらない2人を戻す。)
手早く着替えをすませた大地は、書き起こした書類を手に取って歩き出した。
【Rr:第10話へ続く】




