↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「亡き少女の身体を借りて」―少女の魂を取り戻すまで―  作者: 島ながぁ
「Re:if」

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
33/36

Re:第7話「記憶という証拠」

 王都への面会申請が通ったのは、数日後だった。大地は単独で王都へ向かっていた。


 馬車の中で書類を確認している。記憶から書き起こした証拠の束——ヴィクトルの資金の流れ、バルトゥスへの指示の内容、両親の襲撃への関与。全てを紙に落とした。


 (原本はない。しかし、量と精度で圧倒出来る)


◇


 王妃リンナは応接室で待っていた。


 長い黒髪。落ち着いた美貌。前と変わらない——いや、大地にとっては「前」という概念がずれている。この世界線では初対面のはずだ。しかし大地には全てわかっている。


「ヴァルテール家のオパリア嬢ね」


「そうだ」


「随分と若いのに、一人で来るのね」


「護衛は不要だ。時間を無駄にしたくない」


 リンナが少し目を細めた。少し笑った。


「果物の名前なのに食えない女、と思っているでしょう?」


 大地は少し間を置いた。


「……お互い様だな。子供の姿をした捻くれ者だと思っているだろう?」


「フフフ⋯⋯貴方とは仲良くできそうね」


 リンナは笑いながら姿勢を正した。大地はゆっくりとため息を吐いた。


◇


「本題に入る」


 大地は、持ち込んだ書類の束を机の上に置いた。


「ヴィクトルへの証拠だ。資金の流れ、エルフィア領への工作、両親の襲撃への関与——全部ある」


 リンナが書類を手に取り、一枚ずつ、静かに読んでいった。


 途中で、手が止まった。


「……これは、どこから」


「記憶から書き起こした」


「記憶?」


「説明は省く。今は使えるかどうかだけ判断してくれ」


 リンナがしばらく書類を見た。


「……使える。精度が異常に高いわね」


「そうだ」


「証人は」


「俺だ」


「あなた一人では——」


「本人を捕らえれば後から補完出来る。今すぐヴィクトルを動けなくしたい」


 リンナが大地を見た。


「……急ぐ理由は」


「少し表立って動きすぎた。このまま放置すれば、別の手を打たれる。その前に潰しておきたい」


◇


「ヴィクトルは今どこにいる」


 大地が聞いた。


「王都の邸宅よ。今日は在宅のはず——」


「場所を教えてくれ」


 リンナが少し止まった。


「……何をするつもり」


「話をしに行く」


「一人で?」


「一人で十分だ」


 リンナが大地を見た。


 しばらく沈黙が続いた。


「……私も動く。少し時間をちょうだい」


「問題ない」


「待ちなさい——」


 大地はすでに立ち上がっていた。


「場所だけ教えてくれ」


 リンナがため息をついた。


「……王都北区、石畳の通りの突き当たり。赤い門が目印よ」


「ありがとう」


「絶対に無茶をしないでよ」


「する気はない」


 大地は振り返らずに扉へ向かった。


「一人で動いた方が速い……言った通りだったな」


 応接室に一人になったリンナは呟いた。


「記憶、ね…⋯記憶の中の私は不味いことを言ったみたい。でも、面白い人ね。それに、私は嫌われてたみたいね」


 リンナはクスクスと笑っていた。


◇


 ヴィクトルの邸宅は、王族関係者として当然だが、確かに大きかった。赤い門。石造りの壁。護衛が数人。


 大地は門の前で止まり、門の中を眺めながら確認する。


 (護衛は十人程度か。全員片付けてから入るか)


 大地はゆっくりと歩き出し、門に手をかけた。


◇


 一刻後。


 邸宅の中は、静かだった。


 庭の噴水は崩れていた。廊下に護衛が転がっていた。応接室の扉が吹き飛んでいた。花瓶が割れていた。絵画が傾いていた。


 ヴィクトルの邸宅は完全に崩壊していた。


 邸宅の主、ヴィクトルは応接室の隅で、椅子ごと倒れていた。


 意識がなかった、白目をむいたまま、顔は蒼白を通り越し土気色に。


 そして、足元が——濡れていた。


 大地は、ヴィクトルを眺めていた。


 (何で気絶したんだ?)


 目が光ったのかもしれない。あるいは光らなくても、この状況で十分だったのかもしれない。


 大地にはわからなかった。


◇


 アドリアンとリンナの近衛兵が到着したのは、さらに半刻後だった。


 扉を開けたアドリアンが、止まった。


「……何があった?――やっぱり聞きたくない!」


 アドリアンは耳を塞ぎ顔を背ける。聞かなくても予想できてしまう。というか見ればわかる。またやったのかと。


「説明した通りだ。懇切丁寧に説得しただけだ」


「説得……ってなんだ?」


 アドリアンは、遠い目をしながら廊下を見た。転がった護衛を見た。吹き飛んだ扉を見た。倒れたヴィクトルを見た。


 長い沈黙。


「……加減は」


「ちゃんとしたぞ?誰も死んでいないだろう?」


 何故か誇らしげな表情の大地にアドリアンは何も言えなかった。


「……そう、だな」


 アドリアンが額に手を当てた。


 リンナが入ってきた。


 リンナは状況を一目見て——口元を押さえた。肩が震えている。


「リンナ?」


「……ごめんなさい」


 リンナが笑いを堪えながら言った。


「笑ってはいけないとわかっているのだけど——」


「本人に失礼ではないか?」


大地は、口元を抑えながらリンナに注意をした。


「だって⋯⋯あのヴィクトルが⋯⋯足元が——」


 リンナが顔を背け吹き出した。


 アドリアンは大地へ目を向けた。


「……ヴィクトルの尊厳は」


「知らん」


「⋯⋯そうだな」


 アドリアンがまた額に手を当てた。


◇


 ヴィクトルは近衛兵に引き渡された。金庫から見つかった証拠書類はリンナの手に渡った。


 大地は馬車でエルフィア領へ戻っていく。馬車の中で、大地は書類をまとめていた。


 (バルトゥス。密輸商人。腐敗貴族。ヴィクトル——全員片付いた)


 前は何年もかかった。今回は——数ヶ月だった。


 (次は——禁忌魔法だな)


 大地は窓の外へ目を向けた。王都の街並みが流れていく。


 (レオンの設定ではそれらしい魔法や設定は無かった。ルビアに話を聞くしかないな。改変の仕組み。魂繋ぎの詳細を――)


 やることはまだある。しかし——少し、空白ができた気がした。


 (それにしても――今回は一度も出てこないな。オパリアは……確かにいる筈)


「影すら出ないか⋯⋯何故なんだ?」


 大地は、自身の中の不安を抑え込むように書類に目を落とした。


【Re︰第8話へ続く】

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。