Re:第6話「超効率の断罪②」
時間は少し遡り、ロックス商会の二代目主人ロイドとの交渉に戻る。
ロイドは、しばらく権利書を見ていた。
それから大地を見た。それから広間の惨状を見た。それから権利書に戻った。
「……これは、うちの商会が騙し取られていた権利書だ」
「そうだ」
「なぜ、あなたが持っている」
「密輸商人の倉庫から取り寄せた、場所は知っていたからな」
ロイドが眉を寄せた。
「……場所を知ってた?」
「長い話になる。要点だけ言う」
大地は椅子を引いて座った。
「俺はこの先何年かで起きることを全て知っている。お前の商会が今後どうなるかも含めて」
「……」
「協力してくれれば、商会は大きくなる。断るなら——お前の商会は腐敗貴族に食い尽くされる。どちらがいいか」
◇
交渉は一刻かからなかった。
ロイドは実務家だった。目の前の事実を見て判断する人間だ——大地はそれを知っていた。
「条件を聞こう」
「エルフィア領の流通を管理してもらう。不正な取引を排除する。見返りに、ヴァルテール家の後ろ盾と独占的な取引権を保証する」
「……それだけか」
「今は、それだけだ」
ロイドが少し考えた。目を閉じて大きく深呼吸をして目を空けた。
「……わかった。乗る」
「決断が早いな」
「書類を騙し取った密輸商人が今日ここで縛られている。あなたの言葉を疑う理由がない」
◇
話がまとまった頃、商会の奥から足音が聞こえた。
よく似ている——親子だな。
扉が開いた。
二十歳前後の青年が入ってきた。細い体つき。目が鋭い。状況を一瞬で読んで、固まった。
大地はその青年を見た。
(レイン・ロックスだな)
「父さん、何があったんですか」
青年——レインがロイドを見た。それから、荒れた店内を見回した。
「……この方は?」
「ヴァルテール家のオパリア嬢だ」
「……なぜ店が荒れてるんですか?」
「交渉の邪魔者を排除した結果だ」
大地が真顔で答えた。正直に答えた形だが——レインの目は、年齢相応ではなかった。何かを計算している目だ。
「……ヴァルテール家が、うちと取引を?」
「そうだ」
「条件は」
「お前の父親と話した」
「俺にも聞かせてください」
大地はレインを見た。
(この目だ)
レインが大地の実質支配下に入った時と、同じ目をしている。全てを見極めようとしている目。
「構わない。座れ」
◇
大地はもう一度、説明した。
流通の管理。不正取引の排除。ヴァルテール家との関係。終始レインは、黙って聞いていた。表情が読みにくいのも相変わらずだった。
「説明は終わりだ。何か質問は?」
レインが口を開いた。
「一つ聞いていいですか」
「何だ」
「あなたは——本当にヴァルテール家のオパリア様ですか」
大地は少し間を置いた。
「外側はそうだ」
「中身は」
「別の人間だ」
レインがしばらく黙った。
「……それでも、ヴァルテール家として動いているんですか」
「そうだ」
「なぜ?」
「オパリアの身体を返すためだ。返す前に先にこの領地の脅威を排除する必要がある」
レインが大地を見た。
長い沈黙だった。
「……わかりました」
レインが言った。
「俺も協力します。父上より細かく動けます」
ロイドが息子を見た。何か言いかけて、やめた。
大地はレインを見た。
(やはりこいつは使える。親子それぞれに方向性は違うがしっかりとした判断力がある。面白いな)
「当面の指示を伝える。やり方は任せる」
「わかりました」
◇
商会を出た時、日が傾いていた。
大地は馬車に乗りながら、今日の結果を整理した。
ロックス商会の確保。レインの早期確保。悪徳商人の初期排除。
(予定より早い)
本編ではロックス商会の整備に数年かかった。レインが大地の信頼を得るまでにも時間がかかった。
今回は——今日だけで、大半の基盤が整った。
(次は腐敗貴族だ。それが終われば——ヴィクトルへの証拠だ)
馬車が走り始めた。
大地は書類を開いた。
腐敗貴族の一覧。全員の名前と罪状を、自身の記憶から書き起こした書類だった。
「この調子なら数ヶ月で片が付く。やはりあの女言った通りだな、気に入らんが効率的ではあるな」
大地の口元が緩む。
馬車の御者チラリを見て小さな悲鳴を上げ二度と振り返らなかった。
【Re︰第7話へ続く】




