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「亡き少女の身体を借りて」―少女の魂を取り戻すまで―  作者: 島ながぁ
「Re:if」

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Re:第5話「超効率の断罪①」

 ほとんどを記憶から書き起こした書類が、三日で揃った。


 バルトゥスの密輸ルート。取引相手の商人の名前。資金の流れ。本来なら何年もかけて集める情報だ。大地は全てを記憶から引き出し、アドリアンに渡した。


「これを証拠として使える形に整えてくれ」


「……この量を三日で?」


「記憶がある」


 アドリアンが書類の束を見つめる、それから大地を見た。その表情に呆れと諦めのようなものが伺えた。


「確かめるのに時間がかかる」


「構わない。俺はその間に動く」


「動く?どこへ行くんだ?」


「使える駒を回収しに行く」


 大地は書類を書き終えると、剣を手に執務室を出ていった。


◇


 当時のロックス商会は、エルフィア領の中心部にあった。


(まだ三代目のレイン・ロックスが継ぐ前——二代目が権利書を騙し取られた後の時期だったはず)


 大地は、アドリアンに回収させていたロックス商会の権利書を持って、一人で向かっていた。


 (三代目のレインに渡した権利書を、今回は二代目に渡し直接交渉する。それなりに使える人材の筈だ、多少使えなくてもレインがいる。問題はないな)


 街の一等地に建つロックス商会の建物前に到着した大地。


(思っていたより大きな商会だったようだな。狙われるのも無理はないか)


 大地が商会の扉を開けようとした——瞬間。


 中から怒鳴り声が聞こえた。


◇


 大地は、怒鳴り声を無視してわざと大きな音を立て、扉を明け放った。


 広間に、数人の男が集まっていた。


 商会の者と思われる2人。見るからに荒くれ者の男達が数人。それから——見覚えのある顔が二つ。


 一人は密輸商人だった。本来であれば後々アドリアンが摘発するはずの人物だ。


 もう一人は——バルトゥス。


 大地は扉の前で止まった。思わず目を見開く。その場の全員が大地へ目を向ける。


 (何かの取引の最中だろうか?まあ、どちらにせよ——)


「これは都合がいい」


 大地がニヤリと笑った。


◇


 最初に動いたのは密輸商人の護衛だった。


「あ?なんだ?このガキ」


 五歳の令嬢が一人で入ってきた。その一言に警戒したのだろう。剣を抜いた。


 大地はそれを横に流して、護衛の肘を逆に取った。


「――え?ぎゃあああ!!」


 肘が折れる音と共に逆に曲がり。悲鳴を上げながら護衛が崩れた。


 次の護衛が飛び込んできた。大地は床を蹴って間合いを外し——腰をつかみ勢いを入れて投げた。


「――へ?ぼへぇ!?」


 商会の床に叩きつけられた護衛は、上半身が床に突き刺さったような姿勢で動かなくなった。


 (多分、死んではいないな、ヨシ!)


◇


 バルトゥスが後退した。


「な——何者だ、お前は——」


「知っているだろ?オパリア・カスタ・ヴァルテールだ」


 バルトゥスの顔が引きつった。大地は気にせずに密輸商人に向き直った。


「お前の取引記録は全て把握している。証拠も押さえてある。今すぐ降伏すれば――」


「ふざけるな!子供が——」


 大地は書類を一枚取り出した。机の上に置いた。


「これを見ろ。お前の名前が書いてある。資金の流れ、取引相手、全部だ」


 密輸商人の顔が青くなった。


「……どこでこれを」


「お前が知る必要はない。原本は今頃、王国の調査機関に向かっている」


◇


 周りを見渡し、護衛が一人残らず全滅したのを見て震え上がる密輸商人。


「――わ、わかった。降伏する!だから殺さないでくれぇ!」


 密輸商人は、土下座するように縮こまり降伏した。


 残ったのはバルトゥスだけ。


 バルトゥスはゆっくりと壁際まで後退していた。必死に辺りを見回し逃げ道を探している目をしていた。


「バルトゥス」


 大地は低い本来の口調で話す。


「ヴァルテール家への工作、両親の殺害未遂への関与——全て把握している」


「証拠など——」


「ある」


 もう一枚、書類を取り出した。


「自供しろ」


 バルトゥスの目が泳いだ。


「……断る」


「そうか」


 大地は書類をしまった。


 (自供しないなら話が“説得“するしかないな)


 大地は、拳を握り一歩、一歩とバルトゥスへ近付いて行った。


◇


 アドリアンとヴィルトが商会に到着したのは、それから一刻後だった。


 商会の扉を開けた瞬間、二人は固まってしまった。


 広間に、荒くれ者が何人か転がっていた。


 壁や床に刺さった姿の男達がいる。


 商会の調度品は破損し散乱している。


 床に、縄でぐるぐる巻きで縛られた男が転がっていた。涙目の密輸商人だった。


 そして——壁際の椅子に縛り付けられたバルトゥスが、顔を腫らして意識を失っていた。


 原形をとどめていないとは言わないが——別人のような顔だった。


 大地が書類を整理しながら、二人を見た。


「ずいぶん遅かったな」


「……一体何が――いや、やっぱり聞きたくない!」


 アドリアンの声が少し上ずっていた。


「自供しなかったので、少し説得をした」


「説得……だと?」


 アドリアンとヴィルトは何とも言えない表情をしていた。


「加減はしたぞ?」


 ヴィルトが荒れた商会の中を見回した。転がった咽び泣く商人を見た。顔の腫れたバルトゥスを見た。


 それから、最後に大地を見た。


「……令嬢、これは私の剣術ではない」


「だろうな、俺もそう思う」


「……そうか」


 ヴィルトが何かを言いかけて、やめた。


 アドリアンが額に手を当てた。


「……アメリアに何を言われるか」


「加減は…したんだが?」


 大地の目は泳いでいた。


「わかった。もういい」


◇


 バルトゥスと密輸商人は王国の機関に引き渡された、後処理としてアドリアンが同行していった。


 大地は権利書を机の上に置いて、ロックス商会の二代目主人との交渉を始めた。


「ロックス商会に協力してもらいたい。条件はこの通りだ」


 大地は条件を書き留めた書類を机に置いた。ロックス商会の主人――ロイドは、書類へ目を通し、広間の惨状を見回した。それから大地を見た。


「……断れないな」


「そうだろうな、店を壊してすまない」


◇


 帰り道、大地は馬車の中で書類を確認していた。


 (バルトゥスと密輸商人の件は片付いた)


 本編では何年もかかったことが——今日一日で終わった。思わず口元が緩む。知らない者が見れば卒倒したであろう凶悪な微笑みだった。


 (次は——腐敗貴族だな。それとロックス商会の整備を進めるか)


 馬車が揺れる。――大地はふと白猫の事が気になった。


「そういえば、アイツはどこに?」


 あのひねくれた白猫——魔法を使った時には現れなかったな。いつも魔法を使うたびに纏わりついてきていたのに⋯⋯大地は記憶を頼りに魔力の感覚を研ぎ澄まし、精霊を――白猫を呼び出そうとした。


 だが――何も起きなかった。


 (?……呼び出せない。まだオパリアの身体が幼いからか?まぁいい)


 それだけ思って、書類に戻った。


【Re︰第6話へ続く】

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