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「亡き少女の身体を借りて」―少女の魂を取り戻すまで―  作者: 島ながぁ
「Re:if」

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Re:第4話「計画と変数」

 翌朝、大地はアドリアンを執務室へ呼んだ。


「なんの用だ?」


 大地はエルフィア領の地図を広げてある場所を指し示した。


「エルフィア領東の町外れに、廃屋に偽装した倉庫がある」


「密輸品の保管場所だ兵士を向かわせて中の書類を回収しろ。それと――北部のこの街、農業倉庫だった廃屋」


 エルフィア領北の農村地帯を指で示す。


「違法孤児院として使われている。子供が閉じ込められている」


 アドリアンが眉を寄せた。


「……なぜ知っている?10年の経験というやつか?」


「そうだ、前に摘発したからな。両方とも今日中に摘発しろ」


「今日中だと!?証拠もなしにか!?」


 アドリアンは驚愕の表情で声を荒げた。


「証拠は調べれば出てくる。さっさとやれ。それとも、アメリアにお前の趣味の件を話そうか?アメリアなら喜んでやってくれるかもな?」


「――な!?」 


 唖然とした表情のアドリアンを横目に、大地は執務室を後にした。


◇


 昼過ぎ、大地は一人である場所へ向かった。


 馬車は使わず、徒歩で移動していた。腰に小ぶりな剣を持っていた。


(場所はわかっているから兵を向かわせてもよかったんだが。何かの手違いで死なれても困るからな)


(――あの女の言うとおり、一人で動いたほうが早い気がするな)


 前回の時、本人から聞いた情報だ。あの時は情報の精査から慎重に動いた。今回は違う。


 町外れの廃屋が見えてきた。


 見張りには男が一人いた。


(1人か――大したことないな)


 大地は見張りの死角から近づいて——剣の柄で後頭部を叩く。何かが割れる音がした。


 (加減はした)


 見張りの男は、糸が切れた操り人形のようにその場に崩れ落ちた。


 大地は廃屋の扉を開け中へ入っていった。


◇


 廃屋の中は薄暗かった。


 部屋の隅に子供が何人かいた。怯えた目で大地を見ている。


(あの小娘はどこだ?)


 子供達の中に、一人だけ様子が違う子供がいた。


 褐色の肌。淡い赤色の髪。燥色の瞳——怯えてはいるが、じっと周囲を観察している。


(――いた。間違いない)


「ルミナ」


 大地は少女へ声をかける。


 少女が驚いて飛び上がった。


「え!?な、なんで私の名前を——それに、その髪の色と目って、まさか――」


「お前に用がある。――来い」


「え、ちょっっとま——」


 大地は少女の腕を掴み。強引に引っ張った。


「待って!何なの!?」


「後で話す。お前達も全員ついてこい」


「は、はい」


 大地は部屋の隅にいる子供達へ声をかける。年長の子達が、突然現れた貴族の少女(大地)の姿に驚きながらも幼い子達の手を引いて、大地の後を続いて歩き出す。


「あなたオパリア!?どういう事!?」


「オパリアなのは側だけだ、中身はお前と同じだよ」


「説明してよ!なんなのよ!?」


 暴れるルミナを無視しながら。大地はルミナの服の襟首を掴み引きずり、子供達を連れた奇妙な一団となって廃屋から出ていった。


◇


 幼い子供を連れて歩く距離ではなかった為、大地は、辻馬車を貸し切りにして子供達と共に屋敷を目指して移動していた。


 道中ルミナはずっとパニックだった。


「放して!どこに連れていくの!?」


 縄で両手両足を縛られたルミナは喚き続ける。


「ヴァルテールの屋敷だ」


「なんで!?」


「使いたいからだ」


「使う!?使うって何!?ウス=イホン的な感じ!?」


「何を言っているんだお前は?」


 貸し切った辻馬車の中で、ルミナが叫び続ける。大地は窓の外を見ていた。子供達はオパリア(大地)を不思議そうに見つめていた


「あの⋯⋯俺たちはどうなるんですか?」


 子供達の中で年長の少年が大地へ恐る恐る質問した。


「どうなる?特に考えてなかったな⋯⋯アメリアかルビアに任せるか」


「何よそれ!?適当すぎない!?」


ルミナは思わずツッコミを入れる。小気味いい音が辻馬車に響く。


「あ――」


 貴族の少女を叩いたルミナという光景に子供達は一気に青ざめる。


「⋯⋯仕方ない。ルビアに直接交渉するしかないか。いや、アメリアなら協力してくれるか?しかし――」


 大地は独り言を呟きながら考え事に集中していた。


「無視するんじゃないわよ!」


「うるさい。今対策を考えているんだ、邪魔するな。一手間違えれば俺もお前もアメリアと制裁されかねないからな」


「何で私まで!?って――アメリア?うーん確かに、アメリアならやりそう」


 大地とルミナは二人して対策を悩み始めた。子供達は、困惑した表情で二人を見つめていた。


◇


 辻馬車が屋敷に着いた。到着してしまった。


 レオンが玄関で待っていた。何かを報告しようとして——ルミナを見て、固まった。


「……誰?」


「お前の書いた原作主人公のルミナだ」


「え?」


「中身はお前のファンだ」


 ルミナはレオンを見た。


 固まった。


 目が見開かれた。


「金の瞳、金の髪……もしかして」


 ルミナの声が、震えた。


「……レオン様……?それに書いたって――」


 レオンが大地を見た。


 大地はルミナの腕を離した。そのままレオンに向かって押し出した。


「自分のファンの面倒を見ろ」


「え——ちょっと待て、なんで俺が——」


「そのほうが都合がいいからだ。対応は任せる。俺はルビアと重要な交渉がある。――お前達、ついてこい」


 大地は子供達と共に屋敷に入っていった。


「シナリオが……めちゃくちゃだ」


 呆然としていたレオンがポツリと呟いた。ルミナがレオンの目の前に立っている。かすかに全身を震わせながら。


「……本物、ですか?本当に、雫⋯⋯先生?」


「……うん、この物語『――』の作者。雫だよ」


 レオンが観念したように答えた。


 ルミナの目に、大粒の涙が溜まっていた。


◇


 大地は、子供達を引き連れてルビアの部屋へ向かった。


 廊下を歩きながら、頭の中を整理した。


 (ルミナの確保は完了。次は——ロックス商会とバルトゥスだが、その前にこの問題を処理しなくてはな)


 ルビアの部屋の前に到着し、深呼吸をする大地。部屋の中から話し声が聞こえる。


(来客か――タイミングが悪いな。だがこの声――)


 大地は聞き覚えのある声に都合がいいと考えて、無作法だが扉をノックをした。


「話がある。入るぞ」


 返事を待たずに扉を空け放ち、中に入る。


「は!聞いていたよりもずいぶんな悪ガキね」


 ルビアの来客は、聞き覚えのある言葉を言いながら大地を見据えた。その瞳が仄かに光を宿している。


「アメリアがいるなら都合がいい。2人に交渉しに来た」


 大地は2人に交渉という名の説得と言い訳を始めた。


◇


 ――結論から言えば交渉は成功した。


 だが、代償は安くはなかった。


 淑女としての訓練が前回よりもハードになった。アメリアの“目“に、大地が淑女教育、淑女としての動き、表情がどこまでできていたのか。完全にお見通しだったからだ。


 その代わり、子供達はヴァルテール家の使用人見習いとして、受け入れてもらえることになった。


「見捨てるよりはマシ、か」


 執務室の机の上には、大量の書類が積まれていた。アドリアンが違法孤児院の摘発報告と合わせて、密輸商人の書類とバルトゥスの初期調査結果を置いていった。


(予想より動きが早いな、初期調査までするとは思わかなかった)


 大地は報告書を手に取り確認する。


 バルトゥスが使っている密輸ルートの一部。取引相手の商人の名前。まだ断片的だが——大地の記憶と照合すると、輪郭が見えてくる。


 (何年もかけて積み上げた証拠。今回はどれくらいで揃えられる?いや、この際記憶から書き起すか?――後から正規の書類で裏付けすればどうとでもなるからな)


 そう考えていると、廊下から声が聞こえてきた。


 ルミナの声、まだ騒いでいるようだ。それからレオンの、疲れ切った声。


 大地は書類をめくった。


 (あいつには後で事情を説明するか。今は使える状態にしておけば十分だな)


◇


 夕方、ルミナが執務室に来た。


 目が赤かった。泣いたらしい。しかし顔は落ち着いていた。


「……さっきは失礼しました。それと子供達の事も」


「別にいい」


「あなたが誰か——レオン様から少し聞きました」


「そうか」


 ルミナが大地を見た。燥色の目が、静かに大地を見ていた。


「田中さんは私に、何をさせたいんですか」


「主に情報収集と潜入だ」


「……具体的には」


「貴族の社交場に入り込める養子先をいくつか用意してある。そこから情報を集める。必要な時に動いてもらう」


「私を養子に——」


「お前の養父になりそうな人間は把握している。こちらで諸々の話はつける」


 ルミナが少し間を置いた。


「……なんで私のことをそんなに知っているんですか」


「1から説明するのか……先に言っとくべきだったか」


大地は大凡の説明を行った。大地自身の事。この世界での10年分の経験があること。ルミナとの協力関係について。


「――以上だ。理解できたか?」


 ルミナがため息をついた。


「……わかりました。やります」


◇


 ルミナが出ていった後。


 レオンが入ってきた。


 疲れ切った顔をしていた。


「……大地さん」


「何だ」


「ルミナが、俺のこと——本当に雫だって知って、いきなり全力で迫って来るんだが?」


「そうだろうな」


「対処法を教えてくれ」


「ない」


「ない!?」


「慣れろ。前は受け入れていたぞ?」


 レオンが額に手を当てた。


「……シナリオが完全に崩壊している」


「だろうな」


「なんで平然としているんだ」


「わかっていてやっている。最短ですべて終わらせる。先を知っていて時間をかけるのは非効率だ」


 大地は書類に目を戻した。


「非効率って――TASRTAかよ」


「近いものはあるな」


 大地は、少しだけ笑った。レオンは、ぼんやりとしばらく虚空を見ていた。


【Ri︰第5話へ続く】

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