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「亡き少女の身体を借りて」―少女の魂を取り戻すまで―  作者: 島ながぁ
「Re:if」

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Re:第3話「全員集合」

 執務室に全員が座った。


 父アルベンと母ルビアが並んで座っている。アドリアンがその向かい。レオンが入り口の近くの椅子に腰を下ろしていた。レオンは警戒した猫のような目を大地へ向けている。


 大地は執務用の机の前に立った。


「まず俺のオパリアとして過ごした10年を話す。長くなるが、口を挟まず最後まで聞いてくれ」


◇


 大地は説明を始めた。


「まず最初に、俺はオパリアではない。別の人間の魂がオパリアの身体に入っている。生前、別の世界で死んだ田中大地という人間だった」


「その上で——オパリアとして10年間、この身体で過ごした記憶がある」


 アルベンとルビアが息を呑んだ。


「10年……?」


「お前たちは——オパリアが5歳の時に死んだ。先程の賊に偽装した刺客に襲われて」


 部屋が静かになった。


「今回は間に合った。お前たちは生きている。だがそれが良い事なのかは、わからない」


◇


「そして、なぜまた5歳のオパリアに戻ったかも、わからない」


 大地は続けた。


「理由は不明だ。ただ——記憶は全部ある。10年間分の何時、どこで、何があったか、この領地がこの先どうなるかも含めて」


「この先、とは」


 アドリアンが言った。


「エルフィア領とヴァルテール家が辿るはずだった破滅の未来だ」


 アドリアンが眉を寄せた。


「具体的に言ってくれ」


「両親の死後、後見人の座に着こうとしていた人間がいる。末端だが両親の死を画策した一人だ。腐敗貴族や違法な取引を行う商人達はそいつを通して領地の実権を奪い、最終的にはヴァルテール家を潰す計画だった」


 ルビアが顔を青くした。


「……バルトゥスのこと?」


「知っていたのか?そうだ」


「証拠は」


「今回は最初から動く。証拠はこれから揃える——というより、どこに何があるかは全部わかっているからな。集めること自体は比較的簡単だ」


◇


 レオンがずっと黙っていた。


 大地はその視線に気づいていた。


 普通の四歳の目ではない。何かを考えながら聞いている。


「(なんでそこまで……本当に10年後から来たのか?)」


 レオンの口が、かすかに動いた。声は出ていなかった。しかし大地には読めた。


(知っている目だ)


 しかし大地はあえてソレには触れなかった。


(一時的とはいえ。娘を失った両親の前だからな。混乱を増やす必要もないな⋯⋯)


◇


 大地の説明は一通り終わった。


 アルベンが口を開いた。


「……信じがたい。しかし」


 大地を見た。


「あの魔法と剣は、信じるしかないな」


「そうだ」


「アメリアに習ったと言ったな。ヴィルトにも」


「そう言った」


「二人のことをよく知っているか」


「よく知っている。アメリアの”目”の事もな」


 アルベンが視線をルビアに向けた。ルビアが小さく頷いた。


「……わかった」


 アルベンが言った。


「信じるよ。我々は何をすればいい?」


◇


 解散したのは、一時間ほど後だった。


 アドリアンはすでに動き始めていた。「バルトゥスの動向を調べる」と言って出ていった。オパリアの母ルビアは「禁忌魔法について私も調べる」と言って書庫へ向かった。父アルベンは護衛の再編成に取りかかると言った。


 大人達全員が動いていた。


(早い、魔法と剣の腕を見せたのは正解だったな。それとも、俺の目的を話した事が良かったのか?)


 信頼とは違うのかもしれない。――だが、動いてくれるならそれでいい。


◇


 廊下に出ると、レオンが待っていた。


 壁に背をつけて、腕を組んで。大地を睨見つけるように金の瞳を向けていた。


「話がある」


「俺もだ」


 二人は書庫へ向かった。


◇


 書庫の扉を閉めた。


 レオンが大地を見た。その顔には困惑を不安が滲んでいる。


「原作の内容を——どこまで知っている」


 探るような声だった。


 大地はレオンを見た。


「おおよその流れは把握している」


「どこで聞いた。生前か?」


「お前から直接聞いた」


 レオンが固まった。


「お前が原作者・雫本人だということも」


「……」


「オパリアのモデルが田中虹《こう》だということも」


 長い沈黙が落ちた。


 レオンの顔から、表情が消えた。


 大地はそのまま続けた。


「俺の妹の話を、お前は素材にした。それは知っている。今さらそれを咎めるつもりはない。俺が必要なのは——お前の持つ原作知識だ。物語の大凡の流れ、黒幕等の敵の詳細は知っている。魂繋ぎ以外の、他の禁忌魔法の設定や原作の――人物以外の設定資料があるなら詳細を知りたい」


「……」


「嫌か?」


 レオンがしばらく黙っていた。


 それから、息を吐いた。


「いきなりすぎて、ついていけないんだ」


 静かな声だった。


「ただ——一つだけ聞いていいか」


「何だ」


「大地さんは——、本当に消えるつもりなのか」


 大地は少し間を置いた。


「それが筋だ。何度も言ったが――いや、今のお前には言ってなかったな。俺は既に死亡した人間だ。子供の身体を奪ってまで生きることを、俺自身が許容できない。それだけだ」


 レオンが大地を見た。


 何かを言いかけて、やめた。


「……わかった。少し時間をくれ。詳細をまとめるから」


◇


 大地は書庫を後にした。


 廊下は静かだった。窓の外から2つの月が廊下を照らしている。


 大地は歩きながら、頭の中で整理していた。


 全員に話すべきことは説明できたはずだ。どこまで信じたかわからないが、動いてくれた。今はそれだけでいい。


 (次は密輸商人達とバルトゥスだな)


 今回は時間をかける気はない。さっさと身体をオパリアへ返して、このお遊戯を終わらせる。それだけだ。


 ――だが、何故戻ったんだ?


【Re︰第4話へ続く】

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