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オーリンズの戦い・Ⅰ

 エルヴィンの視界いっぱいに広がる長机を囲うように座る銀河帝国海軍第七師団所属の五人の旅団長とその参謀らはいずれも新しい上官を品定めするような視線を絹色の髪の青年提督に向けて投げかけていた。

 彼らが不安がるのは無理もない。正面にいる敵の数は倍とも見積もられ、過去幾度も輸送作戦は失敗しているというのに次にやってきたのが軍人らしい雄々しさとはまるで無縁な弱冠二五歳の指揮官とあれば。

 アウグスタはそう思いながらエルヴィンを見たが、彼は部下が何を考えているかなど全く意に介する様子がなさそうだった。

 現在第七師団を構成しているのは五個旅団。主力艦たる戦列艦を揃えた第五、第二二、第二七装甲旅団、通報艦が属し艦隊の護衛を務める第四八偵察旅団、他に第七兵站旅団傘下の補給艦や工作艦、救難艦、電子戦闘艦、戦闘支援艦ら補助艦艇を入れてその総数は五一二四隻。その数は各旅団の定数を大きく割り込み、これまでの戦闘での損耗ぶりが伺える。ここにエルヴィンが直率する第十七装甲旅団の戦列艦一四六一隻を加えても一個師団の規模には到底達しない。

 「ネーリング少将」

 開口一番エルヴィンは一人の旅団長の名前を呼んだ。

 「貴官の旅団を直ちにオーリンズ星系に出動させろ」

 突拍子もない命令に、第四八偵察旅団長ヴィルヘルム・フォン・ネーリング少将は当惑の色を浮かべて返答もできずエルヴィンを見返すことしかできない。

 「しかし閣下、艦艇をこれ以上消耗させ切ってしまっては今後の作戦続行は不可能です」

 「分かっている。損失を出すような作戦は考えていない」

 おおよそ軍人らしからぬ言い草ではあった。

 「偵察旅団の稼働可能艦でオーリンズ星系に向かう。他の部隊はここで戦力の回復に努めろ」

 「ご意図を伺っても?」

 乱暴な命令に対して明らかに怪訝な顔つきで第七兵站旅団長リューデマン少将が問う。

 エルヴィンにとっては説明も面倒な話だが、説明してやらねば凡百の幕僚連中には意味が分かるまい。最大限の親切心で、彼は口を開いた。

 「軽艦艇でオーリンズ星系に進出して威力偵察をかける。連邦軍とて哨戒部隊を相手に戦艦を動かしてくるようなことはない。局地的な小規模戦闘で勝利を重ね、敵本隊を決戦に釣り出す。敵主力を我が本隊で誘引する間に輸送艦隊が迅速に惑星に物資を投下して撤退する」

 話している内に自分の言葉に熱がこもったのをエルヴィンは感じた。例え場所がどこであっても、誰が相手であっても、戦場に立つ時彼は高揚を感じる。自分はこの時のために生きているかのような、熱い血が若々しい全身の隅々にまで行き渡るような感覚と共にエルヴィンは説明を終えた。

 「閣下の仰りようは分かりますが、そう敵が注文通り動いてくれますか」

 疑念を隠さず、参謀長シェーア大佐が言い返す。

 「それは貴官らの気にするところではない」

 平然とエルヴィンは言い返した。部下たちが彼の思考を理解し、崇敬する必要はない。命令すれば彼らがその通りに動くだけの権限さえあればよかった。

 唖然となった旅団長や参謀たちに、立ち上がってエルヴィンは再び口を開いた。

 「差し当たり要求するのは偵察旅団の出動だけだ。師団主力を動かすときは改めて指示する、それまでは麾下の部隊をいつでも出撃可能な態勢に整えておけ」

 それを会議の結びとしてエルヴィンは机上のデータパッドを手に取り、部屋を足早に退出した。師団参謀長シェーア大佐ら師団司令部の幕僚たちも取り残され、室内を暴風が過ぎ去ったかのように呆然と座っている。

 「ちょっと、乱暴すぎない」

 小走りにエルヴィンの隣に歩み寄ってアウグスタは問うた。

 「言葉を尽くして説明しても時間の無駄だ。実績で見せつけた方が早い」

 「それは分かるけど、それだけじゃ到底納得されないよ」

 「それがどうした」

 エルヴィンは歩みを止めず言い放った。

 命令そのものは明確だった。

 だがそれを理解できた者がいただろうか。置き去りにされた人間の考えに司令官は思い至っただろうか。

 もっともエルヴィンの性格をよく理解するアウグスタにとっては彼の脳内構想が他人と共有できる類の整合性の取れたものではないことくらいは想像がつくのだが。


 「ネーリング少将」

 旗艦ケーニヒのハンガーデッキ。短距離移動シャトルに乗り込もうとしたところで赤毛の大尉から声をかけられ、ネーリングは足を止めた。

 「副官か」

 「先ほどは師団長が失礼を」

 少将はタラップにかけた右足をハンガーデッキの床に戻した。

 「あれは会議というものではない。一兵卒ではない我々には司令官は意図を説明する義務があるはずだ」

 「長尺の説明を嫌がる人です。ですが無為に友軍を犠牲にするような人ではありませんから」

 ネーリングの指が顎へと動いた。

 「知ったように言うものだ」

 「多少は存じておりまして」

 赤毛の女副官ははにかんだような表情を作った。

 「疑いはありますでしょうが、彼はアーミテイジでもその前の戦いでも最小限の犠牲で戦略目標を達してきました。どうかその実績をご信頼ください」

 「それはこの先の師団長の行動次第だ」

 再びネーリングはタラップに足をかけた。

 「大尉、貴官の言は覚えておく。だが誰もが納得しているわけではない」

 「分かっております。しかし最も危険が高い閣下にはご理解を賜りたく」

 「参謀本部も貴官らを信用はしていないようだが」

 そう言い残してネーリングは閉じるハッチの向こう側へと消えていった。

 わざわざそう言い残したのは何か意味があるはずだ。アウグスタはそう受け止めた。参謀本部が一体彼らに何を吹き込んだというのか。私たちを明確に敵視している存在が、軍の上層部内には存在するらしい。

 見えざる敵に警戒する必要がある。この世界でエルヴィンを守れるのはただ一人、アウグスタしかいないのだから。

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