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 エレベーターにのって施設に入る。

「おはよう」と相川に挨拶する。

「おはようございます」

「よいしょっと」と言って圭司は窓を開けはなつ。

 冷たい風が入ってきて身震いする。「うぅ寒い」

「空気の入れ替えはされていますよ」

「まぁちょっとな」窓を閉めない圭司。「寒いか」

「いえ、大丈夫です」

「今日も平和か」

「そうですね」

「そうか」はぁーと伸びをする圭司。

「じゃあ、何しようかね」

「報告書を書いてください」

「書かなくてもお前ら分かってるんだろう」

「実体も残しておかないといけないので」

「そんなことも、お前らなら一瞬で出来るだろう」

「誰が主体をもって書いたかということが大事なのです。圭司さんが経験したことは圭司さんが記さなくては。それにあなただって今の技術を利用すればあっという間にできますよ」

「だからシステムにはあんまり頼りたくないんだよ」

「はぁ」と圭司はため息をついて、キーボードをつつく。「こういう仕事は進まないんだよなぁ」

「警察の仕事をしてみたいと希望したのは圭司さんですよ」

「はいはい、はーいはい」

 少し書く度に止まりながら、ぶつくさ独り言をいってポチポチと報告書を打つ。

「俺が映画で見た刑事の仕事とは何か違うんだよなぁ。おい相川。お前は何してるんだよ」とすぐに飽きて人に突っかかる。

「何もしてません」

「よくもお前職場でぬけしゃあしゃあと」

「何もすることがない時は何もしませんよ」

「何かあるだろう」

「こうして圭司さんがブツブツ言いだした時に聞き役になるのが仕事です」

「ふざけやがって、そんなの仕事じゃねぇ」

「そうですか」

「あぁーだめだ、だめだ」

 勢いよく立ち上がって窓を開ける。木枯らしの音がする。

「うぅー寒い」

「コーヒーいれますか」

「おぉ、ありがとう」

 相川が入れてくれたコーヒーを立ちながらすする。これこそ昔見た刑事映画のワンシーンのようだ。

「相川、パトロールしようぜ」

「え?」

「この辺の地理を理解しとかないとな」

「外に出たいだけでしょ」

「馬鹿野郎、パトロールだよ」

「はぁ」

 圭司はコートをくるりと回して大げさに羽織る。「よし、案内してくれや相川」


 二人はパトカーに乗りこみ、地下街を走りだした。

「地表には誰もいなかったけど、地下にも人はいないな」

「そうですね。今の人は中々家から外に出ないですよ」

 相川がハンドルを操作せずともパトカーは向きを変えて滑るように流れていく。

「これじゃあエレベータとあんまり変わんねぇな」

「えぇ、実際必要はないですよ。気持ちの問題です」

「気持ちの問題かね」

「無くしてみます?」

「へ?」

「ほら」と相川が言った途端、車が透明になっていく。そして圭司の身体は自然と直立して、宙を滑りだす。「何だこれは」と圭司は慌てて叫ぶ。「恐い恐い、恐いよ」

「エレベーターも、パトカーも別にいらないのです。本当は行こうと思えば身一つで行けるのですよ。気持ちの問題です」

「気持ちって。うわ、恐ぇ」

 顔を腕で覆うようにして圭司は怯えていたが、しばらくすると空を滑るのにも慣れてきて、だんだん愉快になってきた。

「どこに行きますか?」と相川が訪ねる。

「そうだねぇ、どこかお勧めはあるかい?」

「深海都市、、火山の内部、マントル、地球の外殻、内郭、太陽、木星、月、ブラックホール、等々ありますが」

「冗談だろ」

「いえ、別に」

「そんなところ行けるの?」

「えぇ、存在する場所には行けますよ」

「凄いな」自然と感動した声が漏れる。「しかし、一体どういう仕組みなんだ?どうやって地面の中やら空やら自由に移動できる。それに、ここはどうやって地面の崩落を防いでいるんだ?」

 特に柱も何もない、無限に広がる地底都市を見渡しながら聞く。

「ここは空洞なように見えますが、実は透過処理を加えた暗黒合成物質で満たされています。この物質は特定の波形によって姿を変えます。硬化もしますし、軟化もします。ただの空気にもなりますし、頑丈な個体にもなる。そして液体のように流れを創出することも出来る。私達が今飛んでいるように思えるのも、この物質に乗って移動しているだけなのです」

「なるほど」と圭司は力を込めて言いながらも、眉はちょっと困ったようにハの字になっていた。

 都市の中央に球体の建物が浮いていた。

「何だか宇宙みたいだ」

「宇宙にでも行きましょうか?」

「どうやって行くの。凄い時間かからない?」

「時間はかからないですが、ワープだと肉体を再生成しなければなりませんので圭司さんの好みではないですかね。移動先に擬態を用意して、感覚神経をそちらに移すことで肉体を保ったまま疑似的なワープをすることも出来ますが。その場合、本体はこちらの安全な所で保全されます」

「ほぉ」

「その方法であれば大抵の場所には一瞬で行けます。別の銀河にも移動できます」

「へぇ。そいつは凄い。凄いな」と言った後「ん、でも」と首を傾げる「どの道データを転送する必要があるだろう。時間がかかるんじゃないのか?光速で飛ばしたって結構かかるだろう?」

「圭司さんが思っている光速度不変の原理というのはもう随分前に覆されています。それは認識の問題に過ぎなかったのです。ただ、話はもっと単純で、宇宙へデータ伝えるのは、分かりやすく言えばとても長い棒です。棒と言うのは先ほど話した暗黒合成物質を宇宙用に少し改良した物です。これは普段は全てを通過させますが、特定の触れ方をすると一本の硬い棒ように始点を押すと終点にエネルギーが同時に伝わるのです。だから、データを送信しているというよりは、向こうにあるボタンを凄い長い棒でこっちから直接押してしまうというイメージですね」

「へぇ、なるほどな。そう来たか」と言いながら、結局よく分かっていなかった。

 圭司は空を見上げて、しばらく黙然として言った。「ただ、今日は宇宙はやめておこう。どうせ人形を動かすだけなら、あまりVRと変わらないしな」

「そうですか」

「ちょっと歩かないか」

「はい」

 浮いていた身体がゆっくりと地面に着地した。そして、トボトボと歩き始める。

「何だか、夢の中に入っているみたいだな。もしくはゲームの中か」

 思えば目覚めてから実感の持てない現実ばかりに囲まれている気がする。

「相川、これは本当に現実か。本当は俺はまだ、VRの中にいるのでないかい?」

「圭司さん、一応私達の世界ではここが現実だと言われています。ですが、何が現実かなんて本当の意味で分かることは無いでしょうね」

「どうして?」

「どんなこともあり得ますから」

「どんなことも」

「振り返ってみてください」

 圭司は振り返る。

「圭司さん、あなたはこの世界がどんな世界だと思っていましたか。どんな世界であればいいと思いましたか。思い描いてみてください」

「いや、そう言われても」

「人間はおぼろげに想像しているものです。不確かに」

「そうだなぁ」

「この地下都市は大体想像通りだったでしょ?」

「いや、全く想像もつかなかった」

 そう言った後、すぐに頭の片隅では、確かに何となくこういうものを想像していたような気にもなった。

「では、解いてみましょう」

 相川がそう言うと、目に見えるものは全て蠢いて少しづつ平らになっていく。色どりも失せていって、全て均一な緑色になってしまった。

 地下都市が、すっかり無くなってしまった。

「何だこれは」

「これが想像を反映しない状態の世界です。素に近い世界ですね。分かりやすく緑色を付け足してはいますが」

「これが、ここの真実なのか」

「イメージを反映した世界も真実です。先ほどの街は圭司さんのイメージから作られたものでした」

「ここはやっぱり、ゲームの中だったのか」

「いえ現実です」

「こんなこと不可能だろう。あぁそうかARか」

「ARでもないのです。実際に形作られているのです」

「冗談はよせよ」

「本当に」相川は、こちらがあんまり驚いているので面白そうにしている。「もう何十年も前から、全ての物質に命令が届くように繋がっているのです。そして物質は命令を受けて姿を変えます」

「それで、俺の思い通りになると」

「えぇ」

「他の人間達もいるだろう」

「もちろんその人達に悪影響が出ない範囲でしか、想像は適用されないですよ。しかし彼らは眠っていますから」

「そうか」圭司は言った。「皆、眠っているのか」

 空白の間が少し、しかし感覚としてずいぶん長くある。

「相川、もう俺以外に起きている人間はいないのかい?」

「ほとんどいません」

「少しはいるのか」

「えぇ」

「その人達に会うことが出来るかい」

「出来ないこともないですが、ここにはいません。そこへ行きますか?」

 圭司はしばらく考えるようにした後、ハッと決意し顔を上げて「行こう」と力強く言った。


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