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境界付近で布を被った人間が倒れていた。それを剥ぐとヴィゴが眠っていた。村の人間達と同じように。
その暫く先で、重ねられた人間達の灰があった。小さい二つの子供の燃えがらと、体躯のいい男の燃えがらがだった。
私はマリアとエリア2に入った。そこから行く先に迷った。エレベーターを使い、ひどく懐かしい箱街の家を目指すことにした。しかし扉の前に立ってもエレベーターは起動しなかった。
マリアの手を引いて歩いた。エリア2を何時間もかけて横切り、エリア1に入った。
不思議なことにエリア1でも人の姿が目に入った。そして、少しづつそれは増えて、いつの間にか溢れていた。人がビルからあふれ出てきていた。まるで蟻が巣から這い出てくるように。皆どこか異様な表情をして。そして異様な行動をとる者もいた。
大きい音がなり、同時に閃光が周りのビルの輪郭を赤く照らした。振り返ると、頭上でまた光が弾けた。私と娘は呆然とそれを見上げた。花火だ。
光を背にして騒々しい人ごみをかき分け、家がある箱街を目指した。はぐれぬよう娘の手を強く握り、焦点を失くした人間達の波に逆流していく。
やがて高く積み上げられた箱の群れが見えてくる。人の波も薄くなる。
「もう少しだ」
花火の音は止んでいた。辺りも静かになっていた。
箱街の境界に差し掛かり、地面が滑らかな黒いラインになった。
その時に見た光景は、最初目の錯覚かと思った。上空に連なる箱達が静かにこちらに近づいて来た。数秒、それを眺めた末に、辺りを見渡し、そして異様なことが起きていると終に認識した。
箱が沈んでいく。音も立てず、地面の中に吸い込まれていく。箱街が消えていく。
続いて、自分の周りにある建物が沈んでいった。振り返るとエリア1の建造物も地中に飲み込まれていく。
溢れ出た人々を地表に残し、その住処が消えていく。しかし人々は気にも留めていない。呆然と花火を見ている。
何か夢を見ているような感覚になった。そこにいて、それを別の世界から眺めているような。
気づくと意識が身体から離れてしまっていた。状況は見えるが体が何も動かない。体の動かし方が分からなくなった。
やがて箱は地中の中へ全て消え失せた。取り残された人々が一人、一人と崩れ落ちていく。地面に抜け殻、転がっていく。
自分の思考も遠くなる。私も彼等と同じように、もうすぐ停止するのだろうか。
暗くなっていく意識の中で、娘の手をもう一度握ろうとした。
せめて最後にもう一度、その顔を見ようとした。




