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「大丈夫」と丸く黒い瞳が、グラスの向こうからこちらを覗いている。
「ん?」
「ずいぶん長いこと寝ていたよ」
「そうか」
「入ってたの?」
「ゲームをやってた。最悪だったよ」
「あんまりストレス値をあげないほうがいいわよ」
「あぁ」
「寝る?」
「あんなに寝たのにまた寝るの?」女の問いに重なるように、扉の前に立っていた子供が甲高い声で鳴いた。
「お父さんは体調が悪いのよ」と女がそちらを向いて自分をかばった
「あぁ、寝るよ。回復するまで」自分は謝るわけでもなく、了解を取るわけでもなく、ただ子供に対して2度頷いて、そして、またグラスを被った。息子の不満そうな顔が最後に残った。
スリープモード
レム睡眠 記憶なし
そして起きる。窓から夕陽が差し込んでいる。
「起きた?」と今度は子供が最初に自分を見つける。
「おぉ」
「よく寝れるね」
「あぁ。今日はやけに絡むな」
「暇なんだよ。勝負しようぜ」
「ちょっと待ってくれ、なんか食ってから。母さんは?」
「寝てる」
「そうか」
「ご飯、冷蔵庫に入ってるよ」
「うん」
意味の分からないニュースを流しながら、飯を食べた。
息子は正面に座ってジッとそれを待っていた。そして食べ終わると「ねぇやろうよ」と自分の腕を引っ張った。
「あぁ、いいよ」
ソファに座り、互いにヘッドセットをつける。ゲーム世界に意識が潜る。周りの壁が開いて、鬱蒼とした木々が広がる。
「森か」とレーダーを見ながら歩く。しばらく辺りをスコープで観察する。落ち着きのない子供はこちらが何もしなくても、すぐに気配を表す。それをただじっと待っていればよかった。
※
「もう一回やろう」
3戦の約束だったが、3連敗して、子供はいきり立っていた。
「ん?」
「もうやめときなさい。遅いわよ」女がいつの間にかVR空間に入って来ていた。
「いいじゃん。次で終わらすから」
「ダメ」
「ねぇ早く」
「ダメって言ってるでしょう」
「1回やるのなんて15分くらいしか、かからないじゃん」
「そう言ってるとキリがないでしょ」
「自分達だって、キリなくいつまでも寝ている癖に」
※
夜中、青い水の中の寝室。
「あの子最近言うこと聞かなくなってきたね」
「そうだな。ちょっと面倒だな。少しいじるか?」
「それは」
「あんまりベースメントをいじりたくないんだろ?」
「うん」
女は小さくため息をつく。
「子供が生まれて。何かが変わるかと思った。でもやっぱり思ってたのと違う。結局、あの子が私達を満たしてくれるわけでもない。そのままずっと続いて、何となく別れていきそうな気がする」
女は少し顔をこちらに傾ける。
「現実であれば違うのかな。もう逃げ場のない世界であれば、何か変わるのかな」
「どうだろうな」
「移してみる?現実に」
返事はしなかった。
「あなた、コピーになってる?」
「それは聞かない約束だろう」
「何となく気になって」
「君を愛している。ここにいるのが一番幸福なんだ」
「そう。私がコピーか、聞かなくていいの」
「あぁ、そういう約束だろ」
その後、生殖行為をして眠った。




