第四章 アーミール・信仰
第四章 アーミール・信仰
鮫が大気を泳ぎ空気に水面が見える。渦上に回りながら空気に巻き込まれる人間を食らい、少しづつ景色が赤く滲んでいき、鮫が去って行く時には綺麗な夕景に染まっている。
残った人間は肉片を集めて墓に備える。石造りの墓は少し沼に浸水している。沼の奥では冠をつけた王と老婆がこちらを見すえ、その奥底では鮫が泳いでいる姿がぼんやり見える。
ふと沼に手を伸ばす男の手を女が止める。
「どうするの」女が首を振る。「馬鹿なことしないで」
男は手を引く。墓の横に積まれている銛で人間の肉片を突くとその近くに備えられている壺に差しこむ。引き抜くと肉片は黄色く濡れている。歩いていき篝火に近づけるとそれは燃え上がる。
その銛を沼に捨てる。沼も燃え上がり大量の黒煙を吐き出す。煙が空を埋める。気づけばそれは大量のカラスとなる。カラスは何匹か降りてきて、地上の肉片をついばむ。あたりは夜となり、カラスは森に向かう。
森から女がわらわらと出てくる。カラスがそれを追いかけ、女とカラスの叫びで騒音に包まれる。カラスが女を上空へ引きずっていく。そして、女は大量の鳥にたかられ黒い塊になり見えなくなる。
空から白い卵が落ちてきて割れる。それがいくつも落ちてくる。卵の中から白い赤子が出てくる。逃げ延びた女はそれを抱えて家に戻る。
カラスはどこかに去り、朝焼けが地面を焼く。
焼ける日差しが男の皮膚をさす。女が寄ってくる。体に幾つも傷を負っている。
「あなたはそこで時間を進めるだけでいい。時間は男にしか進められない」
男は銛の先を撫でる。
風が吹き、沼がブクブクと泡立ち、水量を増していく。空気を泳ぎ、また鮫が人を食いにくる。
「つまらない」男は呟く。しかし、目の前の女はもう鮫に食われて頭がない。
辺りはオレンジ色になっている。男が歩いて行って鮫に銛を突き刺す。鮫は腹に穴が空き地面に落ちる。
紫の血が滴り落ちる。鮫はまな板の鯉のような目で沼の上をジタバタと跳ねる。
辺りの鮫が一斉に男に襲い掛かるが、男の近くに来ると途端に重力に憑りつかれ地面に落ちて鯉になる。滑稽な姿だった。
男は目をつむった。
そして、目を開く。




