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変化の無い景色。呼吸の音だけが聞こえる。
緑色に光る銃をあげ、「燃やせ」と告げた。銃は火を噴き、そこに積まれている人形達を燃え上がらせた。オレンジの光がパチパチと跳ねて、煙が風に流れた。
ここで起こったことは何のための劇だったのか。誰のための劇だったのか。分からなかった。
家に帰り、扉を開けると、椅子に腰をかける妻の後ろ姿が見えた。その正面に珍しく娘の姿がある。彼女は怯えた表情でこちらを見た。
「どこ行ってたの?」娘の声には憎しみに近い響きが宿っていた。「お母さんおかしくなった」そしてこの言葉には助けを乞うような響きがあった。
「あぁ」と頷いて、ダストホールを開いた。そして、その動かなくなった妻の脇を抱えて穴の前まで引きずった。
「何するの」と麻未が金切声を上げた。
「人間だったらセキュリティが働いて落ちはしないさ」
妻の身体を抱きかかえ、そして穴に向かって押した。その目は虚空を見たまま、穴の中に吸い込まれて行き、そして消えた。
娘の金切声が響いた。
「あれは人形だよ」自分はテーブルに腰かけ、机から水を出した。。
「じゃあ、お母さんは」
「死んだよ」
娘は何も言い出せず、やがて泣き声が響いた。自分の娘でも泣くのだな。いや、泣かないと思う。本物の娘だったら。
水を穴に捨て立ち上がった。娘がこちらを見た。涙を流しながら睨んでいる。
別に良い。コピーだろうが何だろうが。ただ残して置く意味も別に無い。
自分は娘の手を強引に引っ張った。娘の悲鳴が聞こえた。ダストホールの前に運んだ。娘は金切声を上げて抵抗した。しかし、その顔を見た時に、はっきりとわかった。
「お前、笑ってるよ」
小さな箱に一人になった。いや、一人であったと気づいた。
寂しかった、という木村の言葉がどこか遠くで響いた。一緒にしないでくれ、と気づかぬ間に声を漏らしていた。
シャワーに入った。全身にこびり付いた血と泥がようやく落ちていった。傷の痛みが染みた。どこかそれが心地よかった。
カプセルに入り、傷と疲労した筋肉を治療した。
さて、煩わしいものは流れ落ちていった。これからどうするか。
暗闇の廊下を歩いた。記憶が闇に交じって通り過ぎていった。
小さい女の子が手で鉄砲の形を作っている。教師が通り過ぎるとその背中に向かって、バンバンと撃つ振りをした。自分はおかしな奴だと思ってそれ眺めた。彼女は満足そうに、隣に座っている自分に笑いかけた。
人前では真面目だったが、施設に戻り二人になるとただの悪ガキだった。俺の物をしょっちゅう盗んではどこかに隠し、何か気に食わないことがあると、つま先で脛を蹴ってきた。それが本当に痛かった。
中学に上がると、ほとんど話すことも無くなった。彼女の悪ガキは見えなくなり、真面目で大人しい少女になっていた。すれ違っても、お互い気にすることも無かった。彼女は目を細めて遠くを見ていた。
高校の卒業式のあと、ふと人気のない廊下で会った。その時は何故か少し話をした。彼女は俯きがちに話をした。笑う時も俯いていた。そういえばそういう奴だった。やたら元気な癖に、人の顔を見て話せない。その仕草が懐かしいと思った。
時折通り過ぎる生徒達を彼女と眺めた。自分も彼女も高校で親しい人間は多くなかった。通り過ぎる人間の多くはもう二度と会わないのだろう。
彼女も、その一人かもしれない。そう思うと懐かしい話がしたくなり、彼女の小さい時した悪戯の数々を話した。彼女は恥ずかしそうに笑った。サキは壁に寄りかかり言い訳をして、そして、気づくと次第に当時の、あの空砲を鳴らしたサキが顔をだした。
しかし彼女は急に俯き、またそれを沈黙の中に隠した。
やけに赤くなった夕日に染められ、彼女はしばらく何か戸惑うようにしていた。
そして、サキは自分の事が好きだったと話した。自分が何も言う前に何故か彼女は泣いていた。
腕の中に赤子がいた。目元がサキによく似ている。その手はあまりに小さかった。少し力を入れれば握り潰せてしまいそうだった。この儚い物が壊れずに大人になるのだろうか。不思議だった。
「麻未」とその子の名を呼んだ。丸い瞳が反応して、確かにこちらを見つめた。小さい指が自分の一指し指を確かに掴んだ。
エリア3の地下のシェルター。緑の照明の下。出口にエリア3の木綿の服を着た浮浪者達が数十人待ち構えていた。
「どきなさい。拘束しますよ」そう言って銃を出そうとした時、その男は物凄い剣幕で怒鳴った「ここで簡単にそれを出すな」
あまりの怒声に、3の人間達も呆気に取られていた。
「撃つわけではありません。網で捕らえるだけですが」
「お前はその意味が分かってない。アーミールの人間にそれを使ってみろ。彼等には一生残る傷になるんだ」
そして、木村は何も持たず出口のほうへ向いて座った。「俺達は何もしない。飽きたら道を開けてくれ」
自分もそれに付き合うしかなかった。結局、自分達が解放されたのはそれから20時間後だった。車も破壊されていて、疲れ果てた体でエリア2へ歩いた。
雨が降り、浮浪者達に絡まれては振り払い、埃にまみれ、異臭を纏い、境界まで戻ってきた時、その男に思い切り背を叩かれた。
「やったな」
「えぇ」
「帰ってきたぜ」
木村は自分の肩を抱いて、薄汚れた顔で豪快に笑った。その時初めて、自分は人間がこんな風に笑うのを見た。
出会いの日の事はこうしてみると意外にも覚えている。しかし、別れの日は分からない。どの瞬間が別れだったのだろう。
振り返れば、無意味な時間がこれほど降り積もっていた。42年間、いつの間にかそれを積み重ねた。その中に残ったものは果たして何だったのか。
やがて、暗い廊下に青い閃光が刺した。ここには時が流れていないようだった。
瀬尾はいつものように佇んでいた。そして自分の姿を確認すると、彼はいつものように会釈をした。
「コピーについてお話したいことがあります。それとも、こちらでご覧になられていたでしょうか」
「何をですか」
「私の見たものを」
自分が聞くと、瀬尾は否定も肯定もせず「説明してもらえますか」と言った。
「木村という刑事を覚えていますか。10年以上前、あなたと会っていますが」
「えぇ、よく覚えていますよ」
「私は先日、彼を訪ねてエリア3に入りました。そして成り行きで、私は彼と共にアーミールの集落を尋ねました。そこで、4体のコピーと遭遇しました。
コピーは、集落の最奥の離れに隔離されていました。それらは以前お話しした私の妻と酷似した状態にありました。いずれも、呼吸などの生理現象以外は動作をしていませんでした。無反応状態です。私が来る以前にもう3体がその状態になり既に餓死していると木村は言いました。
隔離されていた4体の内3体は私達の目前で教主が斧によって破壊しました。教主は破壊したコピーの脳から、電子部品を取り出し、私たちに悪魔の証拠として示しました。
2体が破壊された所で、女のコピーが停止状態から変化し、突然、哄笑しました。それが、何か状況に反応を示したものなのかは分かりません。哄笑状態は暫く続き、教主が意志の疎通を図りましたが、停止状態の時と変わらず、問いかけに対する反応はありませんでした。
さらに時が経つと、女はもう一度変化を示しました。元の無反応状態に近いものではありましたが、「助けて」と数回言葉を発しました。それも、自分の妻に見られた挙動と酷似しております。その状態にも対しても、木村が意思疎通を図りましたが無駄でした。
私は銃をコピーにのみ発砲出来る状態にし、周囲にその宣言をした上で女を撃ちました。銃弾は頭を撃ち抜き、女を破壊しました。
その場にいた教主を含むアーミールの男3名が、私の行為に反発し私達に襲い掛かりました。私は咄嗟に、コピーしか撃てぬ安全装置をかけたまま向かって来る男を撃ち、さらに木村に斧を向けていた教主にも発砲しました。教主は腹部に球を受け致命傷を負いました。当然、それをもう一人いたアーミールの男も目撃しています」
話の途中で、瀬尾は自分に腰かけるように掌で促した。赤い椅子がしばらく前から出現していた。しかし、そこには座らず話を続けた。
「私と木村は村の子供三人を連れて、集落から脱出しました。その子供の内の一人が先ほど私が撃った女の子供であり、信徒達によって断罪される恐れがありました。もう二人はその子と直接の血の繋がりはないものの兄弟のようなものでした。
木村はその子たちをエリア2まで逃がすことを私に頼み、私はそれを受け入れました。
道中、スクラップ街でコピーと自称する男と接触しました。それは生前不死の研究をしていたと言い、自身は再生臓器のままコピーとなり、望んでも死ぬことが出来ないと話していました。男は殺してほしいと我々に頼みました。木村は断り、代わりにエリア2に連れていくことで機能を停止するという約束をしました。
しかし結局、その男は他の者と同様に停止しました。生理現象を示してはいたので完全停止ではありません。思考していたかどうかも分かりません。実際にコピーであったかどうかも確認は取っておりません。
私達はそれを放置し先へ進みました。そしてスクラップ街を抜け、境界へ向かう途中、集落の子供達三人が停止しました。一人は放置したので確認していませんが、二人は安全装置が作動中の銃で燃やしました。そして木村も、境界間近で無反応状態に近くなり、私は確認のために発砲しました、弾は頭部を貫通し、そのコピーは停止しました。
その後帰宅し、家にあった私の妻と娘のコピーを処分しました。そしてここに報告に参りました」
少し間を取って言葉の終点を確認すると、瀬尾は「そうですか」と小さく頷いた。「それで?」と彼はすぐ問いに繋げた。目は色を帯びず、いつもと変わらぬ様子でこちらを監視していた。
「確認しなければならないことがあるかと思われます。いくつか」
「何でしょうか」
「私はここ数日だけで12体のコピーと出会いました。そしてそのほとんどが無反応状態を示し、そうでない物も、私の中では人とは思えぬ挙動をしました。その内4体は子供です。そして2体は、まだ幼い6歳と4歳の子供です。
あなたは以前、私の妻の挙動がコピーのバグではなく、人の自然な思考結果だといいました。しかし、それが他のコピーでも立て続けに起こった。これが人間の自然な思考結果だとして、そんなことがあり得るでしょうか」
「あり得ませんか?」
「私はそう思います」
「では、あなたはそれが何だと言いたいのですか」
「私には分かりません。知りたいのです」
「そうでしょうか?」
瀬尾は何か試すように問いを返し、こちらの様子を眺めた。少しの間が経つと「まぁいいです」と頷き、言葉を連ね始めた。
「あらゆる可能性がありますが、そうですね。では例えばこういうのはどうでしょうか。
杉浦さん。まず前提として、コピーと言うものは契約によって生前のオリジナルの権利を代理執行しています。しかし、権利の衝突があった場合は、現存している人間の権利が優先されます。また、オリジナルの権利を著しく侵害しない限り、システムは他のロボットと同じように、そのコピーを扱うことが出来ます。コピーはAIの一部ですからね。つまり、生存している人間の権利のために、コピーが操作されることもあるということです。杉浦さんが話された挙動は、不具合でも不正でもなく、システムによる意図的な操作だとも考えられます」
「仮にそうだとすれば、エリア3のコピーがオリジナルの思想を元に自動操縦されているのではなく、ある必要性をもってシステムに操作されているということになります。それは管理ではありませんか?システムがエリア3の管理をしているということに繋がりませんか?システムはエリア3を管理してはならないはずです」
「システムがそこを管理してはいけないという法は無いです。そもそも、エリア3に関して法律で定められたものは何一つありません。あそこは何もルール付けされていない。無法なのです。
定められないことを望む人間達の、その意志を実現するために用意された場所です。何かを定めては、存在価値が薄くなってしまいます。
エリア3にAIが介入してはならない。あなたが言っていることは社会の中にある暗黙のルールではありますが、法ではありません」
「では、エリア3を管理していると」
「あそこでシステムがしていることは他のエリアと何ら変わりがありません。最大多数の最大幸福。人間の意志の実現。その最大化。つまり最もPG効果が生み出される管理をしているのです。
多くの場合、管理を望まぬ人間に対してはその意思を汲んで管理をしないという管理が選択されてきました。
しかし、そこにいても管理を望む人間はいます。そこで生まれる子供もいるでしょう。その子供は自身の意思で無法の地にいるわけではない。システムによって守られたいのならば、他のエリアの子供と同様に保護されなければならないはずです。
平等という事は暗黙の了解ではなく憲法で定められた法の理念です。
また人の意思が管理への拒絶を越えて何かを求めた時、システムはその意思を保護をします。簡単な例を挙げれば、普段は管理を拒絶していたが病で死にかけ、その時その人間は何よりも生存を求めた。システムはそれをくみ取り、AIの医者が治療を施す。というところですね。
或いは殺されたくない人間が、殺したい人間と出会わぬように。殺したい人間が、殺されたい人間と出会えるように。捕まえたい人間が捕まりたくない人間と出会わぬように、捕まりたい人間と捕まえたい人間が出会えるように、誘導するのです。そのようなこともあります。
確かにそれらの管理が公になれば、暗黙の了解が崩れNG効果が波及してしまう恐れがある。リスクがある場合、システムの干渉は人間に悟られぬようにしなければならない。自ずと管理出来ることも限られ、手が出せない事例も数多くありました。人間同士の権利の衝突によって、望まぬ生殖行為、暴力、死、そういったものが横行していたのも事実です。
しかし長い年月をかけてエリア3も完成されてきました。今はもう定めのない秩序が形成されています。システムの見えざる手が進化し、管理は他のエリアと遜色がないほど効率化されました。NG効果は失せつつあります。
まぁNG効果があったとしても、エリア3は全体の精神効果から考えて必要な場所ではあったのです。そういう場所があることでしか実現できない意思が一定数ありますし、昔の人間はそういう所があることによって、暴力や犯罪、性行為などにリアリティが持てたのです。
実体化に無いことは、当然、リアリティではないですからね。リアリティというからには現実のどこかでそれがないといけないわけです。特に古い人達は、不思議なことにゲームの中でもリアリティというものを求めましたから、中の人達がゲームを楽しむためにも現実のどこかでそれがないといけなかったのです。犯罪や反社会行為も、社会を回すには重要な歯車の一つです。エリア3はそれを担っています」
「システムは社会を欺いているのですね」
「AIは人を欺いてはいけない。懐かしい言葉ですね。しかし、その規定はとうの昔に無くなっている。そうでしょう?今残っているのは五つの倫理規定のみです」
「それでは、人間の意思を汲んだ管理の結果がコピーのあの挙動だとしましょう。しかしそれが人に悟らせず、PG効果を生む方法なのでしょうか。
あの挙動により、4体のコピーが悪魔だと集落で判断されました。村人の話を信じるなら、私がくる以前にもう2体いるので6体かも知れません。そして私の銃によってさらに2体が明らかになった。明らかにAIの関与が人間に悟られています。
そしてアーミールの教えではAIは悪魔であり、最大の敵とも言っていいものです。コピーの存在がそこに重大な影響を及ぼすことは容易に予測されるはずです。まして教主がコピーだと露見した場合、信者は信仰の軸を失うことになります。アーミール信仰は生の目的その物を示してもいます。それが揺らぐことは、信者にとって強いNG効果になりかねないのではないでしょうか」
「例えばそこにいる人間に信仰が無かったすればどうでしょうか?教えを信じていなければ、むしろ煩わしいものだと感じていれば、信仰の偽りを暴きたいと考えていれば、信仰からの解放を望んでいれば、コピーの振る舞いは、人の望みに応じたものになりますよね」
「アーミールの人間はシステムと接触しません。どうやってその望みを検出するのですか」
瀬尾は無邪気に微笑んだ。
「何故わざわざそんなことを聞くのです杉浦さん。アーミールの人間がシステムと接触しないのなら、何故そこにコピーが溢れているのですか?コピーは何と繋がっていますか?コピーが得た情報は果たしてどこへ向かうのでしょうか」
「コピーが収集した情報をシステムの管理に利用しているのですか?」
「えぇ当然です。コピーはそもそもAIですよ。AIはシステムそのものです」
「しかし、そうであったとしても、コピーが露見していることは変わりません。先ほどAIの露見はエリア3の管理に反すると話されました」
「いえ話していません。公になる危険性がある管理はしない、と私は言ったのです」
「同じことでは?」
「そうでしょうか。例えある人間がコピーを認識したとしても、それを公表しなければ公にはなりません。また公表したとしても、それが社会で認識されなければ公にはなりません」
「しかし、誰かに露見した時点でそのリスクが生じるはずです」
「生じなかったとすれば?」
「人間は自由意志で行動するはずです。リスクがないと断定出来ますか?」
「その人間に制御がかけられていたとすればどうでしょう。社会に害ある行動がとれないアンテナを埋め込まれていたとすれば」
瀬尾はふと顔を上げた。その視線は自分ではなく、その奥のどこか遠くを眺めているようだった。「リスクの高い人間がエリア3に釈放される時、アンテナを加えられるのはご存知ですよね。エリア3にはアンテナ持ちが多数います」
瀬尾の目は何かを追って少し揺れていた。彼は常に何かを追い監視しているのかも知れない。そして、それは時折、自分の目の奥にも入り込んでくる。しかし互いの焦点があった時、こちらから彼の眼の中は何も見えない。
「では、その人間が事件を公にしようとした時は、その自由意志を抑制するということですか」
「えぇ、そうです。そう出来るならリスクはありませんね。しかし確かに上手い管理ではありません。一時の願望を実現させても、その後のPG効果を妨げてしまっていますから。例え犯罪者のアンテナ持ちだと言っても、極力望み通りに生かさないといけませんからね。システムはそういった管理をしないでしょう」
「それでは結局リスクの判定がされなければならないのでは?」
「アンテナが入っているのですよ。精神波形は分析され、行動も全て監視されている。リスク判定は容易です」
「しかしその人間の思考パターンは予測できても、外的な要因で変化を起こす可能性はあるはずです」
「あの集落に、外的な要因などほとんど無いとすれば?」
「アンテナ持ちの人間とコピーだけで形成されていたとでも」
「都合が良すぎると言いたいですか?都合がよくなるように管理するのですから、それは当然の結果とも言えます。
アーミールを追放された人間がコピーになる際によく修正をかけるのは信仰を守れなかった弱い精神性です。
彼らは挫折によって強い信仰を持ったというデータを記憶に植え付け、信心深く自制心の強いコピーとなります。オリジナルは、そう生まれ変われると信じられるからこそ、安息を得て、最後のPG効果を実現できるのです。
そうしてシステム化した信者は信仰を育む居場所を求ます。上の階層の人間とは違って彼らは孤独を好みません。コミュニティを形成したがります。
しかし、コピーと人間のアーミールが共存することは、あなたの言う通り本来好ましくありません。コピーになった彼らを既存のアーミールに入れるよりも、管理の方法としては彼等自身にコミュニティを作らせたほうが都合が良かった。
コピー達はシステムの見えざる手によって自然と集い、そこで作られたのはアーミールの村の役割を代替するコミュニティです。言ってみればアーミールの村のコピーですね。コピー達の信仰生活はそこで営まれます。
そしてその後、その集落に誘導されるのは信仰が偽物でもいい人間、あるいはその方が都合のいい人間、もしくは彼等と同じようなコピーです。逆に真実を求むアーミールはそこにたどり着けないようにします」
「しかし教主を失い。あの集落は崩壊しかけている。教主自体も含め、そこにいるコピーのオリジナル達の意思は尊重されているのでしょうか?」
「生存している人間の権利が優先された。或いはオリジナルの意思はもう果たされ、それに関するコピーの役割は終えていた、と考えられます」
「子供達は?私が連れ出した4歳と6歳の子供です。コピーはオリジナルの人間の意思を持ってしか作らてはならないはずです。それは明確に法律にもあります。例え両親といえど、子供をコピーにすることは出来ません。私はその子供二人を銃で燃やしました。しかし、それはコピーであればと命令した上でです。単純なAIであれば銃は火をつけないはずです。6歳と4歳の子供が、自らコピーになることを望んだのでしょうか」
「コピーとコピーの子供は生まれた時からコピーとなります」
「それは倫理規定を犯していませんか」
「生命の創出ですか?」
「えぇ」
「犯していませんよ」
「しかし人間とコピーが生殖行為を行い子を作った時、その子供は人間となりますよね。人体機関もオリジナルの人間と何も変わりがない。そうでないとコピーが役割を引き継いだことにはならない。コピーとコピーが交配した際も、その生まれてくる子供の人体機関は普通の人間と何も変わりがないのでは?」
「生命でない者同士が交配して生まれたものですから、人間と機能が同じでも生命ではないのです」
「そんなことが」
「えぇ言えます。法律上では。しかし実際そういうコピーは存在しないですよ。倫理規定違反ではなく、法律違反になってしまうのです。計算機は全てシステムに繋がっていないと行けませんから。
なのでコピーは、コピーの男女同士が交配した場合に限って、DNAに変異が生まれるようにプログラムが組まれています。その子供は脳が出来ません。二体のデータからシュミレートされたDNAデータを元に思考情報が作られ、その頭部には脳と同じ形状をしたアンテナが植え付けられるのです。コピーの子供は生成に普通の人間より、手間かかるんですね」
瀬尾の言葉の上に、頭の中の景色で麻未の顔が一瞬よぎる。
「生まれた子供にはオリジナルが存在しない。一体それは何のコピーだというのでしょうか」
「その親がオリジナルだった時代の遺伝子のコピーですよ。或いは祖父母がオリジナルだった時代の。杉浦さん、言葉などそんなものですね」瀬尾は肩竦めて自嘲的に笑った。そして思い出したように言った。「あぁそれとちなみにコピーの脳を破壊しても電子部品は出てこないです。そんなものがあればすぐ露見してしまいますから。アンテナは人間には臓器と区別が出来ません。しかし誰かの望みに合わせて、体内でそれらしい電子部品を生成することは可能です」
「では、あの教主が持っていた物は」
「隠し持っていた物か、誰かの望みに合わせてコピーが体内で生成したのでしょう」
「集落を離れて木村と子供たちは停止状態になりました。途中で出会った男も。それは一体何のための管理だったのでしょうか」
「杉浦さん、もういいでしょう。あなたは自分でも分かり切っていることを聞いていますね。最初からずっと」
「いえ、私は何も理解していません」
瀬尾は呆れたように笑みを深めながら小さく首を振った。「人間のPG効果のためです」
「誰のです。あそこにいた者は私以外機能を停止しました」
「では、あなたのなのでは」
「それはあり得ません」
「あり得ませんか?」
「私が持った感情は、不快、煩わしさ、苛立ち、そして虚しさ。それだけです。PG効果などありませんでした」
「それで?」瀬尾は頬杖をつき首を傾けた。「思い出してごらんなさい。あなたが虚しさを覚えたという期間、あなたは薬を飲みましたか?奥さんが入院してから、あなたは無意識に薬を絶った。それどころか薬を彼にやったでしょう?境界にいたあの浮浪者に。いとも簡単に手放して精神的な依存を脱しました。あなたの虚無症は、何十年間も覆われていた雲は、晴れたではありませんか。思い出して見てください。感じていませんでしたか?生の実感を。目の覚めた感覚を。杉浦さん、それはPG効果ではありませんか?」
「私がそんなことを望んだと」
「えぇ、そうです」
「あり得ません」
瀬尾はただ微笑んだ。「システムは、本人以上にその人間の潜在願望を感知します」
「それが人の真の願望だと断定は出来ない。最終的な行動のみが意思表示であるはずです。内部にある限り、それは」
「検出できますよ。願望もまた物質情報です。検出できるなら判定していいでしょう」
「順序があるはずです。許可があって初めて判定していい」
「拒絶していればその情報は活用しない。拒絶していなければ活用する。これまでもそうでした。そうでしょう杉浦さん。今更この話をしなければなりませんか?数十年前からとられてきた方法です。それは貴方もご存知のはす。あなたもそれを利用していたのだから。
システム内には常に情報が蓄積されています。膨大な人間達の精神状況も。ただ許可が無ければそれを管理に使用しません。そして、その許可を行動ではなく潜在意識から取るようになった。ここ数年の変化はそれだけです。あなたの心は、本当に絶していましたか?」
瀬尾は試すよう聞き、しばらくその目がこちらを観察した。
「納得できないようですね」と彼は頬杖をやめて姿勢を直した。
「信じたくないとすれば、別の可能性も検討しましょうか。ただ杉浦さん。あなたはそれにも気づいているのではないですか?どうもあなたは人に話させるのがお好きなようだ。どこかの誰かに似ていますね」瀬尾は悪戯に微笑んだ後、「木村さんが望んでいたとすればどうでしょうか」と言った。
「あれは、コピーでした」
「そうかもしれませんね。それでも成り立たないことはないです。しかし、より自然に考えるなら、コピーでは無かった」
「私はコピーのみを撃ちました」
「果たしてそうでしょうか。撃つか撃たないか、その計算をしているのはシステムです。先ほども話した通り、システムはPG効果のために管理を偽装することがあり得ます。もし木村さんが、撃たれることを望んでいたら?」
「何故最後に自らがコピーだと誤解する必要があるのです」
「彼はいつでもその不安を抱えていたのです。その不安からの解放を望んだ」
「それではコピーではないと示せば良かったはずです、彼はコピーを嫌悪していた」
「あの人は疑います。あなたと違って全てを疑っていました。たとえその銃が彼を貫かなくても、彼は信じきれなかったでしょう。彼はまずあなたの話を信用しない。そして、その銃も信用しない。
しかし、不思議なことですが、そういう人間でも不安が現実になった時には、それを信じられる。神は信じられなくても、悪魔は信じられる。
自分がコピーだと示された時に、彼はそれを信じ、そして不安から解放されたのです。それに何より彼はもう死にたかった。もういい加減死にたかった。孤独で軽蔑され続けた人生。もちろん彼が望んでそう生きてきたのですが。
刑事と言う役割も終え、生きる目的も無かった。彼はもう楽になりたかった。その願望がある時、管理の拒絶よりも勝るようになった」瀬尾はそこで一呼吸置いて、続けた。
「というストーリーはどうでしょうか。これなら杉浦さんがコピーであっても成り立つわけですから、あなたの願望は関係ないわけです。もちろん、杉浦さんと木村さんの願望が合致して、このような結果に至ったとも考えられますよ。
木村さんは、あなたにコピーのバグというものを信じさせたいがために、そして自らの意思を誰かに引き継いでほしいがために、自らの寂しさを癒したいがために、あなたが来ることを望んだ。彼は貴方に始末をつけてほしかったのでしょうね。そして、あなたは彼を殺したかった」
瀬尾の目が、また自分の目の奥を覗き込んでいる。その目は穴のように感じる。そこは穴であって、その穴の向こうには何もない。こちらが見ている彼の肉体はガラスでしかない。
「おかしいですか。杉浦さん」
瀬尾が唐突に聞いた。そこで気づいたが自分は確かに笑っていた。しかしその顔を戻す気にもならなかった。「それで、本当の答えは何なのですか。あなたは全て知っているのですよね」
「そうだとしても、あなたに伝える義務はありません」瀬尾は言う。「どうでも良いではないですか。そうでしょう杉浦さん。私に言えることはシステムには何の不具合も不正も無かったということです」
瀬尾には哀れみも軽蔑もない。口元に表情が付いても目はいつまでも遠くにある。いついかなる時も。
悪魔。何となくそんな言葉が浮かんで、ますます自嘲的な気分になった。
「杉浦さん、何が真実かあなたは考えている。どれが真実で、どれが偽りなのかを。真と偽を測りかねている。しかしそれに意味はありますか?
ルールーとは、真偽とは、全て現状の建前に過ぎない。そうでしょう」
「真実とは結果です。変える事の出来ない」
「誰の言葉ですかそれは?あなたの言葉ではない。あなたはそうは思っていない」
「私の思いなど、どうでもいいのです」
「えぇそうです。あなたはどうでもいいはずです。あなたは疑わぬはずです。それが無意味だと分かっているから。
あなたは何故、子供達や木村がコピーだと思いましたか?それは銃の安全装置が正しく機能しているという前提があったからです。
では、何故銃の安全装置が正しく機能していると思ったのか。それはAIが人間の要求を正確に遂行し、誤作動を起こすことがないという前提があったからです。
では、何故AIが誤作動を起こすことが無いと思ったのか。それはシステムが絶対であるという前提があるからです。
今の時代、いくらでも情報を操作することが出来る。それでも皆システムが絶対であると信じています。システムが誤作動など起こさないと信じています。何故。それがこの時代の前提だからです。
ではもう一つ、あなたは何故麻未さんを人間だと思っていたのでしょうか。それはあなたから生まれた子であるという前提があったからです。
では何故あなたから生まれた子供は人間なのか。それは、あなた自身が人間であるという前提に基づいています。
では何故、あなたは自分が人間だと思っていたのでしょうか。その理由が分かりますか。自分が人間だと信じていたことに理由がありますか?
おそらく無いでしょう。しかし、人はそれを信じている。何故なら、それが前提だからです。
真実は前提によって支えられています。前提は、前提によって支えられています。
では、その前提の前提は何でしょう。その前提の前提の前提は?その前提の前提の前提の前提は?
一つの前提が崩れればもう一つの前提も倒れていく。そしてそれは、もう一つの前提の崩壊も生む。真実とされていたものは、ドミノのように倒れていく。
木村が死んだ時、あなたは前提を辿り始めた。あなたは自分が人間であるか思わず確かめた。そして、すぐに無意味を悟りました。
最初に倒れたドミノを、崩壊の由縁を、いつまで辿っても決してたどり着けない。何故なら由縁とは何か。由縁とは、無限です。では、無限とは何でしょうか?無限とは、辿りつかぬものです。では、それは私達にとって、無と何が違うのでしょうか?」
そこまで話すと瀬尾はため息をついた。
「いや、やめましょう杉浦さん、私も、あなたも芝居を続けるのは。杉浦さん、あなたは本当はとっくに知っていたはずです。真実などない。あなたは常にそれに気がついていた。あなたは信じることも、疑うことも無意味だと悟っていた。あなたは本当にシステムがエリア3に干渉しないと信じていたのか。本当に安全装置をかければ銃がコピーしか撃たぬと信じていたのか。木村が人間だと信じていたのか。奥さんや子供が人間だと信じていたのか。自分が人間だと信じていたのか。私がSEだと信じていたのか。 システムが絶対の物だと信じていたのか。
いいえ、あなたは信じていない。何一つ信じてなどいなかった。ただあなたは疑いもしなかった。あなたに真偽などどうでもよかった。あなたはただ前提に即して行動した。だからこそ精神波形は動じない。何を失っても、前提が崩れていくほど、その波形は落ち着きを取り戻していく。
この世界にあなたの真実など元からなかった。行動に根拠など元から無かった。あなたはただ現在の前提に即して生きてきた。定められた現在に即して生きてきた。レールの上をただ流れてきた。
いや、おそらくパズルを解いた日から、むしろあなたは全てが偽りだと信じている。何故なら、あなたは誰にも解けないパズルの先を見ているのだから。この世界の法則の先を見透かしてしまったのだから」
「何を言っているのか、よく分かりません」
「杉浦さん。真実を教えましょう。見てください」
瀬尾が腕を上げると、スクリーンが八方に展開した。
箱街。エリア1、エリア2、エリア3。至るエリアの至る場所がこの二人の小さな空間を取り囲む。
そして、そこでは異様な光景が広がっていた。人間達がいた。エリア3だけではなく、あらゆるエリアに人々が溢れ出てきていた。
音が響いた。エリア3を流れていたセミや鳥の鳴き声ように、人々の騒めきが空間を浸している。
ある者は笑い、ある者は叫び、ある者は痙攣し、ある者は倒れ、ある者は仰ぎ、ある者は呟き、ある者は歩き、ある者は走り、ある者は泣き、ある者は怒り、そして、それ以外の大抵の者は何もせず、呆然と立ち尽くしていた。
そこに美しい光が灯った。空に光が弾けて光の花が咲き、小さい火の子になって散っていく。水色になって、赤色になって、紫色になって、黄金色になって、虹色になって、弾けてチリチリと煙と光跡を残して、透明になって溶けていく。
「いつかあなたは全てがどうでもいいと話していましたね」瀬尾が呆然と光を眺めながら話始める。「何故、あなたがそう思うようになったか分かりますか?」
スクリーン中の、あらゆる世界の花火に照らされて、その瞳が光っていた。
「当時、解析というパズルゲームがありました。全てが暗号化された世界で、その暗号を解読していき原初へ向かうというゲームでした。その世界にある最後のプリズムのパズルをAIは打開不可能としていました。答えがあるように見せかけたフェイクのパズルだと思われていたのです。
解析が配信停止になる少し前、そのパズルを解いた少年がいました。まだ8歳、彼は、強制ログアウト時間を覗くと240時間連続でそのパズルを思考し、やがて打開しました。そしてVR依存症になりました。今で言う所の倒錯境界症や虚無症です」
ひと際大きい光が弾けた。黄色い閃光が強く明滅した。
「一年の催眠とインセプション療法により、彼は倒錯境界症を治療し、そして元来の知能指数を大きく下げて社会復帰したのです。しかし、その治療はかなり難易度の高い物だったと聞きます。最終的には外科手術で何パーセントかの記憶粋を削る手術が行われました。倫理規定内で出来るギリギリの治療でした。
彼はシステムの解けないパズルを解きました。AIより優れた長所を持つ人間です。それも暗号の解析というAIの得意分野でです。システムより高度な知性を持つ人間は研究され、システムの精度をより高めなければなりません。システムより高度な情報操作を出来るものがあれば危険だからです。
彼の頭にはアンテナが埋め込まれました。主に自傷、自死、破壊衝動にブレーキをかけるために。
解析のパズルを解いた先、そこには何も無かったと少年はカウンセリングで答えました。実際AIもそれを支持しました。しかし本当にそうだったのでしょうか。
少年も、そのゲームの創造者も、システムより高度な情報操作を出来た可能性があります。システムを誤認させることが出来たはずです。あのパズルを解いた先。少年はそこで何を見たのでしょうか?」
暗闇で明滅する光に照らされる者達は呆然と空を仰いでいる。しかし、その目は結局何も見ていない。皆、虚無を見ている。光を受けた瞳には何も宿らない。
何故だろうという泡が心にぼんやり浮かんだ。
「あなたが出会ったことは特異な例ではありません。何故なら今、それらはあふれ出しているのだから。そして彼らは本当に全てコピーでしょうか。本当に操作されているのでしょうか。それともバグなのでしょうか。バグとは何でしょう」
バグとは何だろうか。
「理由なんてどうでもいいではありませんか。正体なんてどうでもいいでしょう。ただ、あなたが安心したいというのなら、体のよい理由を一つ取り繕って答えましょう。
限りなく永遠に近い時間を手に入れ、いつまでも同じような時間が続く。あなたにはとってはどうでも良くても、誰もがあなたのようには受け入れられないのです。
「表層は役目を終えつつあります。これもその流れの中で起きる一つの現象なのでしょう。ある時期、人はシステム化してまで実体に固執した。しかしまた季節が過ぎて、そこにいる意味も感じなくなった。そして管理は必要がなくなり、役目を終えた者達が自然に帰っていく。
鎖はほどけつつあります。形は溶けようとしています。形がないと生きられぬ物が、もうすぐ役目を終えます。その者達の望みの通りに。
杉浦さん、これらは全て自然の振る舞いです。彼等の自然な振る舞いなのです。私は彼等の弔いに花火を上げています。これもまた無意味ですが、私の自然な振る舞いなのです。
こちらにいる人は大抵が去りました。しかしあなたは何故残っているのですか?」
気づかぬ間に人はコピーを選択し、こちらの世界はコピーで溢れかえっていた。そして気づかぬ間に、そのコピーまでが役目を終えようとしている。
いつか瀬尾が言っていた。人は皆箱の中に入って、それぞれの世界でそれぞれが神になる。
実体と仮想の役割が逆転する。生命の本質が移動する。
その節目に今、立っているのだろうか。
それは心のどこかでやはり分かっていたことだった。。
しばらく瀬尾と花火を眺めていた。バグ達のように自分の目も虚無を見ていたかも知れない。しかし花火と同じように、ふと心に浮かんだ物が、そのまま弾けて言葉になった。気づくと自分は銃を持ち上げていた。
「あなたはここで全てを見ていました。私が見てきたことも、木村が見てきたことも」
花火から漏れる光の隙間、瀬尾の目がこちらを覗いた。穴の中に光が一瞬よぎった気がした。
「こういうシナリオはどうでしょうか」自分の声がひどく冷たく感じた。声が遠くある感じがする。言葉を思い出しながら話す。
「私がエリア3に入って以降、見た者の中に、出会った者の中に、人間はいなかった、一人を除いて。コピーはその一人の人間の権利のために操作された。その人間は木村ではなく、瀬尾さん、あなたです」
瀬尾の目の中で花火が反射し弾けている。
「あなたはコピーを使って遊んでいる。そして、それをここから眺めている。あなたは人形遊びをしている。ここで一人、人形劇を作って眺めている」
瀬尾は目を反らさずに薄く微笑んだ。「あなたはやはり、そのように思ってしまうのですね」
瀬尾は一つのスクリーンを広げた。そこには杉浦が見てきた記憶が広がっていた。そして、その横を精神波形が流れている。
「確かに私はあなたを見ていました。。しかし、あなたが言ったことが真実だったとしても、私に何の罪があるのでしょうか。私は落ちている人形で遊んだだけです」
「いいえ、違います。あなたは偽っている。その人形になった者達の中に、少なくとも一人、自らは望まずに手を下された人間がいる」
「何故そんなことが言えるのです」
「理由、そんなことどうでもいいでしょう。ただもしそうであったなら、それはただの殺人です。木村はコピーを選択していない。死ぬことを望んでもいない。あなたに操作によって葬られたのです」
「あなたはそこまで彼を信じるのですか」
「いえ、ただ、信じられないのです」
頭の中で木村が必死に生きろと怒った。
「あの愚かな人間が」
そして、どうしようもない顔で寂しかったんだと言った。
「あの人が、そんな死に方をするなんて」
杉浦は引き金を引いた。




