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翌日、杉浦が会議室に入ると丸坊主の木村がちょこんと座っていた。
「おはようございます」
「おはよう」
「綺麗にいきましたね」と自分の頭をなでながら木村の頭のことを杉浦は言う。
「おう、この方が楽でいいよ」
そこに相川と警部も入ってきた。
「おはよう」
「おはようございます」
「お前どうした?木村」と平松が言う。
「刈ってきました」
「本当、お前は」と警部は何か言おうとしたが、結局面倒なのか「まぁ、いいか。皺もいつかやれよ」と諦めた。
コール音がして、回線がつながった。テーブルに人が浮かびあがる。12名まで確認できるが、それ以外でも視聴している者はおそらくいるのだろう。
会議は滞りなく進み、そして思っていたよりもあっさりと終わった。大半の時間は参加者の紹介と木村の事件の説明に費やされ、後は最初から決まり切っていることの確認作業という感じだった。唯一盛り上がったのは、少年のカウンセリングを記録しやすい様にVR空間で行うという話になった時に木村が猛反発したことだ。周りには軽くあしらわれたが、木村は大層興奮して警部は大層辟易していた。
そして、少年を観察対象にするという事と、その経過とカウンセリングの結果を随時、今回設立した調査委員会に報告するという決定がなされて会議は解散した。
「結局、彼らは何をしたいんです」ホログラムの人間たちが消えると木村がぼやいた。
「だから、システムにまだこういった事例の判断基準がないからだな。経過を観察して、基準を定めるための情報を収集しようということでだな」と警部が答える。
「何が言いたいのか、よく分からないですよ」と木村。「皆、システムに要請されるまま動いているだけで、自分が何をしているのか分かってないんじゃないですか」
「お前の理解力がないだけで、皆は分かってるんだよ。相川、説明してくれ」と警部は自分からは説明せず相川に促した。
「簡単に言えば。少年にとって対象のAIがどういう存在だったのか。親だという認識なのか、生命だという認識なのか、物だという認識なのか。これらの認識の差によって大きく今後の処置の内容が変わるのです。人間の親と変わらない認識を持っているのなら、現法律上で行為自体は犯罪になりませんが、その思想は殺人者と変わりがないとされて思想治療の対象になりえます。これは、動機や行為の経緯にもよりますが最大の危険度と認定された場合です。
それとも、AIを所有物だと認識して自分の持っている人形を壊すようにただ破壊しただけなのか。もしそうであれば監視の必要すらありません。
本件は対象のAIが保護者のコピーという特殊性も相まって、少年がAIだと認識していない、またはAIだと認識していたが、少年にとってAIというものが人の存在価値と変わらないものだった可能性があります。それは少年の心理を研究しないと分かりません。まず、行為の動機を深く調査する必要があるのです。それに、少年の発見時にVRプレイが見られますから、AIの影響とは別に、VRの影響に関しても考えられなければなりません」
「色々なことが複雑に絡まってんだなぁ」と警部は芝居がかって満足したように頷いた。
木村はしかめ面で頭を撫でて結局よく分からなそうな顔をしていた。
「まぁ、この件に関してはお前の仕事はここまでだから。あとは杉浦と相川の仕事さ」
「何故です。私も会議に出席したのですから、委員会のメンバーでしょう」
「俺達は委員会のメンバーではないさ。言われたことをやって報告をするだけ。お前には事件の説明をしてもらっただけ。もうこれ以降お前の出番はないのさ」
木村は何か言い返そうとしたが、何も言う余地がなかったのか、結局、少し不自然な間を作ったあと、不満そうに部屋を出ていった。
警部はそれを見送って、肩をすくめた。
「しかし、少年の許可を取るというのが難しそうですね。強制検査ということになれば、自然主義団体も煩いでしょうから、任意にしたいと言うのは分かるのですが」相川が難しそうな表情で言った。
「なに、そんなの杉浦はこなれたもんだ。お前もついてってよく見ておくといい」
警部は適当なことを言う。とりあえず、杉浦は苦笑いを浮かべる。




