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 翌日、瀬尾に連絡を取って会いに行った。

 あの暗い廊下を暫く進むと明かりがつき、気づけば彼の部屋にいた。

「しばらくです」と彼は微笑んだ。自分は頭を下げて挨拶を返した。

「SEになる気になりましたか」

「いえ、そうではなく」

「そうですか。まぁ、座ってください」

 相変わらずその部屋は八方を数多の世界が取り囲んでいた。ソファに座って少しすると、自分もその一つの空間に何となく浮かんでいるだけなのだという気分になる。

 10年ぶりにここに来たが、瀬尾は多分その間も変わらず、ここで監視と言う建前を行い続けてきたのだろうか。その姿も、雰囲気も、何も変わっていなかった。

「巣造像のワールドクリエイトのおかげで監視する世界は増え過ぎました。



VRハウスに入る人も増えています。欧州やアフリカも大分システム化が馴染んで、箱街に入る人間が増えたようです。やがて全ての人がそこに入り、その人の想像によって創造された世界の主として存在するようになるでしょう。実世界はただの記憶粋となって、生命の実生活、精神の支柱となる物はデータの中に移るでしょう。といっても現状は何も変わりないですよ。私はただ人が望むものを管理しています。望むように」と瀬尾はこちらの心を読んだように言った。

「そうですか」

「それで、話とは?」

 事の経緯を伝えた。瀬尾は特に質問をしてくることもなく、深く腰掛け、右手をひじ掛けに乗せて軽く頬杖をついていた。全て話し終わると、彼は「そうですか」と一度頷き姿勢を直した。

「杉浦さんが気にされていることは分かります。人が全く反応を示さないというのは難しいですからね。そうない挙動です。あなたの言う通り、コピーの導き出した計算結果が行動に移せない物であった場合は、セカンド、サードの選択肢が取られ、人間に違和感を与えるような挙動を取ることはありません。であれば、あなたの奥さんに現れたものはコピーの不具合なのか、それもあなたの言う通り違います。では、どうでしょうか。その挙動は何なのでしょうか。分かりませんか、杉浦さん」

「ええ、私には」

「そうですか。不思議ですね。あなたでも自己のことになると印象によって判断に影響が出るということですね。答えはそのままですよ。それを受け入れられるかどうかです」

 自分はそれを聞きながら無意識に膝頭をさすっていた。その手に瀬尾の視線が向いている気がしてふと止めた。

「思考の問題だと」

「そうです。医者の言う通り。つまり、それは思考して、そのように振舞っていたということです。分かりやすく言い換えれば故意に演技している」

「何故でしょう」

 瀬尾は少し笑って答えた。「それはあなたのほうが分かるでしょう。一見、訳の分からないことをするのは人にはよくある事です。あなたが先ほど意味も無く膝頭を撫でていたように。そして、もう一つ言えるのはコピーはそれも摸倣する。単純な計算結果としてね」

「そうですか」

 それはどこかで予想していた一つの答えだった。しかし、考えることをしなかった。。瀬尾に改めて指摘されると納得できたが、やはり妙な感覚は残り、その正体については分からなかった。

「妻がコピーであるかどうか分かりますか?」

「最高度のプライバシー情報は通常、親族にも秘匿されます。しかし、それがあなたの精神状況に深く影響すると判断された場合は、システムは生存している人間の権利を優先して問い合わせに答えます。尋ねてみますか?システムに」

 瀬尾はスクリーンを開き微笑んだ。自分は首を振った。

「奥さんがコピーであるという事、気になりますか?」

「いえ、別に気にはなりません。ただ」

「ただ?」

「いえ、何でもありません」

「そうですか」


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