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 歩いていると吐き気がして何度も嘔吐した。鼻血が垂れてきて、こすると指の皮膚が剥がれて落ちた。体中が熱ぼったく、頭を掻くと手には髪の毛が大量についてくる。

 動こうと思っても関節の反応が鈍く、足取りは重かった。それでも、何とか家の近くまでついた。しかし、そこで思い直してバク爺の所に向かった。正直な所、バク爺の事をこの時まですっかり忘れていた。

 バグ爺はもう眠っていた。自分は勝手に二階で寝むった。背を付けると皮膚が張り付き剥がれて痛むので椅子にうずくまるようにした。眠れたかどうかは分からないが、どちらにしろ意識は大分薄かった。

 日が刺してきて、一階に降りるとバク爺はいなかった。川に出るとバグ爺が、また流木を集めていた。

「よう」とバグ爺は自分に手を振った。

 川には時折、死体が流れてきた。しかし、バク爺はそんなこと気にならないようだ。

 人生最後になる日に人形の股を必死にさがすバグ爺。そして、一緒になって探す自分。

 なんだか、おかしな気分になる。こんなおかしいことはあるだろうか。虫もこらえきれず素直に笑った。

 おかしいもんだ。人生は。こんなに面白いことが他にあるのだろうか。虫にも自分にも皮肉はなかった。ただ、楽しかった。

「これだよ」とバク爺は飛び上がった。黒い枝を右手に握っていた。気づいていないが、それはおそらく誰かの骨だった。

 二人して走って家に戻り、股を大傑作に括り付けた。

 そうしてまた外に出て、バグ爺は人形と踊り始めた。

 何を聞いてるだろう?何が聞こえる?

 自分は座ってそのダンスを眺めていた。


 暫くすると、こちらにも雪が降り始めた。自分はなんとなくジングルベルを鼻歌で歌った。

 よぎる情景。ジングルベルが流れる中、母と父の顔、プレゼント。父親にコテンパンにやられるゲーム、あれ、笑ってる、皆が。笑ってることもあったっけ。これは記憶か、それとも幻想か。

 雪が強くなる。色々なものが混じって、薄れていく景色。

 バグ爺は冷たく動かなくなった。上着をかけて人形を抱かせてやった。


 俺もバグ爺と変わらない。ずっと、何もない音の中をくるくる回っていた。自分にしか聞こえない音の中で踊っていた。

 サイレンが響き。吹雪の中から昨日の少年が現れた。昨日と同じような目で、俺を見ていた。

「ログアウトしないの?」子供は言った。

「ログアウトはないさ。ここが俺の世界だよ」

「どうしてそんな風に見るの?」

「どこかで見たことある顔だ。お前名前は?」

「キゴウ」

「そうか。俺と同じ名前だな。まぁ珍しい名前じゃないか」

 自分は何故かその子に親しみを感じていた。

「心のどこかでゴーストが親父かと思ってた。強いまま親父はいなくなったから。いつか戦って勝てたら、また話せるような気がしてた。今気づいたよ、そのことに。親父はどうしてる?」

「死んだよ」

「そうか」

 どういうわけか自然と笑っていた。。

「お前も親父も深刻過ぎるよ。もっと楽しめ。そんなに悪くないさ。どんなことも」


 背景が緑になっていく。全てが緑になっていく。雪も少年もバク爺も消えて。

 小さい頃に見たSF映画のメイキング映像。少年がジャングルを美しい妖精や動物達と歩いている。しかしそれは合成で、本当は少年は一人で歩いていた。何もない緑を背にして。楽しそうな演技をして、嬉しそうな顔をして、それを見た時の事を思い出した。

 別にいいさ、それでも。

 キゴウは最後にせせら笑った。愛しい虫と一緒にくすりと笑った。愛しい人生だった。


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