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「一番悲劇的なのは、この地区の奴らだったな。中途半端にシステムも魂も信じている」研究室でケイは話だした。

「これからはスピリチュアルケアが大事になるって先生が話していたよ。エリア2の多くの人間は気づかずとも魂というものに自己を確認し、精神の支柱にしていたからって。

あと、さっき街頭で演説している人がいたよ。この世界に生まれた人間には、この世界の魂が宿るって。それを信じなさいって。自然主義者の考え方と何が違うんかね。まぁ実際、自然主義に走った奴らも結構いるみたいだな。山本っていたろ。アイツに至っては家族でアーミールに入ったらしい」

 ケイは少しいたずらな笑みを浮かべた。

「まぁ、仕方ない。俺たちは実際中途半端で矛盾した所に住んでたさ。これを機に俺もVRゲームをしてみようかな。これまでは視聴だけだったけど。VRゲームをプレイすると喜びを失うってさ、馬鹿みたいに言われて実際馬鹿にもしていたけど、家の親ももうそんなこと言えないだろ。ここがVRゲームそのものなんだから。それとも、またなんか上手い理由を見つけて難癖つけてくんのかな。魂はここにあるのだから他の世界に入っては駄目です、とか言ってきたらどうしようかね」

 自分もケイに合わせて、ほくそ笑んだ。

 ケイは言う。「理由なんて結局関係ないんだな。結局怖いだけさ、理由は後付けだよ。でも、ここを作った世界はどんな所なんだろうな。こことあんまり変わらんのかな。それとも、まるっきり違うのかな」

「どうだろうね。ゲームの中では、大抵どこの世界も似てるけど」

「まぁ確かにちょっと見栄えとルールが違うくらいだな」

 ケイは「ふぁ」と欠伸を挟んで続けた。「しかし、そっからここに入ってきてるやつもいるんだろ。そいつらは今まで何喰わん顔で黙ってたんかね。それとも、話してもこの世界の奴らには聞こえないのかね」

「どうだろうね」

「そいつらは知ってるんだろうな。ここをどうにでも出来る言語を」

「うん」

「まぁ、俺達も本当は知ってるのか。その言語の計算結果なのだから。知っていても、どうすることは出来ないけど」

「そうかもね」

「でも、わざわざこんな所を作って入って来るくらいだから、実体界もあんまり面白くはないのかな」

「確かに。そうかも」

「しょうもないな。秩序は暴力で、平和は牢獄で、退屈は地獄。神様も地獄におられます」

「何のセリフ?」

「俺のセリフ」

「かっこいいね。さすが」

「馬鹿になって言っても、お前に馬鹿にされるとムカつくわ」ケイは鼻で笑った後「出来た、これでいいや」とスクリーンから手を離した。その中では、廃墟のビルが森のように鬱蒼と立ち並び歪んで揺れていた。

「なんか暗そうな話だね」

「たまにはホラーもな。今日夢で見たんだよ。こんなの」

「へぇ」

「お前のは?」

 自分がスクリーンを見せると、ケイは「センス無いわ」と一言で批評を言った。彼はいつもそれだけ言う。

「帰ろう」

 スクリーンを閉じ、席を立ち、部屋の電気を消した。

 エレベータに乗った時にケイが聞いてきた。「お前強かったんだろ治療前は。もうやらんのか?」

「別に、どっちでもいいんだけど」

「やれよ」とケイは言った。「どうせやるんなら、お前とやるほうが楽しいわ」

 彼はそういうことを恥ずかし気もなく言える男だった。

「夏休みはゲーム三昧かね」

「そうかね」

「ゲームやるようになったらメール送るわ」

「うん」


 家に帰り、久しぶりに巣造像を起動した。

 ケイの言った通りになり、夏休みはほとんどゲームだけで時間を流した。正直に言うと治療前どうやってプレイしていたかはあまり覚えていない。ほとんど一から出直しのような形で強くなるのには時間がかかった。苦戦した挙句、最後の一週間でようやく予選を抜けた。

 ゴーストを見かけることは無かった。やはり大会には参加していないようだ。ケイからのメールも来ることは無く、彼とゲームをすることは無かった。

 学校が再開して、研究室のメンバーは早速酒会を開いた。

 酔っ払いながらケイと話していた。彼は結局ゲームをする気にもならなかったらしい。ただ、自分の試合の様子はよく眺めていたという。

「お前、だんだん動きよくなってきたな」と彼はやけに上から目線で言った。どの口で言ってんのと柳がつっかっかっていた。

 夏休み明け、研究室のメンバーは3人ほど減った。両親と実体界にログアウトしたとか、エリア3に落ちたとか、色々噂は聞いたが実際の所はよく分からなかった。それに元々、ケイと柳意外とはそこまで親しくもなかったのであまり関係が無かった。

 人が去って行っても残った残骸達と変わりなく暮らす。好きなものを食えばおいしく。風呂に入れば暖かく、人と騒げば楽しく、一人になれば寂しく、これまでと何も変わらない暮らし。

 何もかも知っても何も変わらないものだ。その時はそう思っていた。


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