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 AIの母を、一度破壊した時、自己所有物の損壊として犯罪にはならなかったが、精神の不安定と保護者不在ということでしばらく保護観察下に置かれた。人形とはいえ、母の形をしたものを壊した時の感触は残っている。特に虫はその話が好きで、ことあるごとにそれを言う。

 その時、自分とよく話していた警察は、「心を開く」とか「人を信じる」とか言ったが、そうしたくても、どうすれば出来るのか分からなかった。小さい時から、自分の中には虫と自分しかいない。それ以外は閉ざされていて開きたくても開くことはない。

 人を不快にさせないように生きているうちに、それ以外の振る舞いが出来なくなった。自らを晒してはいけないという強迫観念がどうやら自分にはあるようだった。それが無意味だとも知りながら、身に沁みついた長年の所作は感情と思考を支配して逃れられなくしている。扉の鍵は遠い昔に母さんが持って行ってしまった。それを壊す勇気も力も自分にはなかった。

 虫は言う。「人の性にするなよ。俺をこんなところに閉じ込めて、本当の偽物はお前だったのに」

 精神治療が進み少し落ち着いてきた頃に、治療を早く終える代わりにAIの母を自分の管理者として修復した。それから一年間また一緒に暮らした。15歳になってからは別々に住んでいるが、メールのやりとりはしている。

 母のメールにはよく俺の覚えていない幼い時の時の思い出がつらつら綴られている。


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