第12章
藤代と櫻井は交際こそ始まったものの、学校でのお互いの接し方には難しいものがあった。藤代は櫻井の所ばかりに行く訳にもいかず、櫻井も藤代の所に行くと、周りから不自然がられてしまう。2人とも、非常に行動がしづらくなってしまった。しかし櫻井は、そんな現状も平気で我慢が出来た。藤代と交際しているという事実だけで、彼女は満足しており、学校生活は仮の姿だと思っていた。そのため学校で1人で過ごしていても、これまでと何も変わらないため、何の苦も無かった。
一方、藤代は歯痒い思いをしていた。学校でも櫻井と仲良く接したかったからである。とはいえ、それが難しくなってしまった事は理解していた。そして櫻井が1人でいても苦ではない事も分かっていた。
「ちーちゃん、私は不服よ。」
少し遠出をして大きなショッピングモールに来ていた2人は、モール内にあるカフェでスイーツを食べていた。
「何が不服なの?」
「せっかく付き合ってるのに、学校が不自由過ぎる。」
「まあ、ゆみちゃんにとってはそうかもね。」
「嫌味じゃないよ?嫌味じゃないからね?ちーちゃん、よく毎度1人でいられるよね。」
「嫌味だなそれは。」
櫻井は目を細めてホットコーヒーを啜った。
「仕方ないよ。ゆみちゃんが私と過度に仲良くしてたら不審がられる。」
「むう。何とかならないかな。」
「私達の関係をオープンにしない限り、無理じゃないかな。」
「する?」
「えっ。」
「嘘。ごめん。無理だよね。分かってる。忘れて。」
藤代は目の前に置かれた巨大なチョコレートパフェにスプーンを入れてすくい、それに食い付いた。
「それにしても大きなパフェだね。食べ切れるの?」
「余裕。」
「すごっ。」
その後、2人はゲームセンターに向かった。藤代がプリクラを撮ろうと提案したためだった。プリクラコーナーには様々な種類のプリクラ機が並べられており、土曜日にも関わらず、制服を来た女子高生が何人もいた。
「プリクラって、今こんなに種類あるの?」
「そうだよ。加工とか凄いんだから。」
「どれがいいの?ゆみちゃんは。」
「正直、私もよく分かんないだよね。撮る時は友達が選んだやつに入るだけだから。じゃあ空いてるあれにしよ。」
そう言うと2人は空いているプリクラ機に小銭を入れ、撮影ブースの中に入った。
「えっ、どんなポーズで撮るのこれ。」
「指示されるから大丈夫!それに従って!」
「表情はどうすれば⋯。」
「笑っときゃいいの!」
「動かない方がいいよね?」
「ちーちゃんは初めて写真撮るの?」
機械アナウンスが流れ、撮影が始まる。ドタバタしながら、2人は仲良く初めてのプリクラ撮影を終えたのだった。
ショッピングモールでのデートを終え、駅までの道を2人は並んで歩いていた。
「手、繋ぐ?」
藤代がひょこっと櫻井の顔を覗き込んできた。突然の誘いに櫻井は喜んだが、大きな心配事があった。
「でも誰かに見られたら⋯。」
「今更?」
「ここまではほら⋯たまたま会ったで通るから⋯。」
「大丈夫だよ。私、手繋ぎたいよ?」
藤代にそう言われて、櫻井は断る事など出来なかった。覚悟を決め、右手をゆっくりと上げると、藤代が左手でその手を握った。そして指を絡めてきた。
「恋人繋ぎ、って言うんだよね、確か。」
「は、恥ずかしいね⋯。」
「言っとくけど私、手汗凄いから。ごめんね。」
「え。」
「ははは。嘘だよ。」
そのまま2人は手を繋いだまま駅へと向かった。改札を通り、駅のホームで電車を待つ間も、2人は手を繋ぎ続けた。やって来た電車に乗ると、偶然か、人はそれほど乗車していなかった。空いていた席に座ると、繋がった手は藤代の太ももの上に置かれた。時間はちょうど夕暮れ時だった。
「ゆみちゃんは、どうして私なの?」
「どういう事?」
「どうして⋯私の事が好きになったの?ずっと聞きたかったの。」
尋ねられた藤代は少しの間黙り込んだ。櫻井は藤代の顔を見た。
「可愛い。」
「う⋯うん。」
「面白い。」
「⋯うん。」
「優しい。」
「⋯。」
「私の知らない事を知ってる。」
「⋯も、もういい。分かったから。」
藤代は櫻井の右手が熱くなるのを感じた。櫻井は恥ずかしそうに、顔を横に向けていた。
「ちーちゃん、こっちおいでよ。」
「⋯うん。」
櫻井はゆっくりと藤代の肩にもたれ掛かった。藤代も、櫻井の頭に自分の頭を優しく寄せた。何も話さず、2人は2人だけの時間を穏やかに過ごした。櫻井は目を閉じて、藤代の温もりを感じた。彼女はただただ幸せだった。
秘密の交際は、その後も続いた。




