第88話
ずいぶんと間が空いてしまいましたが、久しぶりに更新させていただきます。
他作品更新したり、サボったり、サボったり、新規短編を作ろうとしたものの完全に没にしたり、サボったりとしていましたが、更新再開です。
場所を居間に移し、昼食をごちそうになることにする。
「狭いとこだが、気にせず座ってくれ。どこでも大丈夫だ」
「それじゃあ、お邪魔します」
確かに狭い。
「四斗樽が四つもあるとは。どんだけ飲むんですか……」
膝上ほどまである樽が全部で四つあり部屋を圧迫していた。二つずつに重ねておいてあるため部屋を場所は取っていないのだが、高さがあるため迫力がある。
ともかく、入り口に近い位置に座らせてもらうことにする。奥にある樽の横にリンガンさんが座り、その隣にフウマさん。一つ間をあけてアド、俺。最後に樽となっている。
重ねられた樽の隣に座ると壁があるようなで、圧迫感がある。
「これ全部飲んだんですか?」
「四つとも空の樽だよ。このばか亭主がいつまでも酒屋に返しに行かないから残ってるのさ」
「おいおい、母ちゃん。俺だけの責任じゃねえだろ。母ちゃんも工房の奴らも飲むんだから同罪だろ」
「あんた他の人の四倍は飲むじゃないの。あと配達分の浮いた金の分いい酒にしてくれっていったのはあんただよ」
「買いに行くときにもっていけばいいんじゃないですか?」
アドが至極まっとうな指摘をするが、奥さんは首を横に振る。
「酒屋の前を通るときに思い付きで買ってくるからたまる一方なのさ」
「もういいじゃねえか。客がいる前で話すことじゃねえだろ」
「だったら客に樽を見せない様に、ちゃんと返しておくことだね」
リンガンさんが奥さんに完全に言い負かされている。ただしちゃぶ台の上には当たり前のようにお酒が置かれている。旦那に甘いのか、それともドワーフ故に酒がそこにあるのは当たり前なのかはわからない。
そして、当たり前のように飲むわ。飲むわ。飲むわ。
料理もそこそこに、あっさりちゃぶ台の上のお酒は空になり追加のお酒も飲み続ける。
「凄い強いですね。俺が知る中で一番飲んでますよ」
「俺は確かにドワーフの中で一番飲むな。それでも俺はこの町では二番目だな」
「これで二番目ですか」
「一番は飲むのはあほ領主だ。こんな小さな樽単位じゃなくて、蔵にある醸造用の樽の単位で飲みやがる」
「まさに桁が違いますね」
「そのくせ、樽一つ飲み干していまいちだななんて言いやがる。味が分かってねえよ。蔵元もそのせいで腐造を出したっていう話だし、本当にいい迷惑だ」
「あー、長介さんの所ですか?」
「そうだ。あそこの蔵に寄って来たのか?」
「ええ。寄ってきました」
「あそこの酒はうまいんだよな。酒を買ってきていないか? 持っているなら、すこーし飲ませてくれんか?」
「そういえば買ってきてなかった。もったいない」
料理と一緒にいただいたが、買ってくるのは忘れていた。
「そうか、残念だ」
「ですがとっておきの酒はありますよ」
俺の出す日本酒をこっそりと出してリンガンさんに提供する。
「お、こいつはいい香りじゃないか。だが、かなり薄めてあるな? ここまで薄い酒はこっちではあまりないな」
「わかりますか。向こうでは日本酒は加水して適度に飲みやすい濃さに調整しています。酒に強い種族なんていないので、人の飲みやすい濃さに調整してあります」
「なるほど。ではいただこう。……うむ、薄い。薄いが悪くない。飲みやすいいくらでも飲めそうだ」
リンガンさんの反応はあまりよくない。少々悔しくなる。
「では、こちらはどうですか?」
もう一度こっそりと酒を注ぎ、リンガンさんに提供する。
「む、こっちは蒸留酒か?」
「ええ。とっておきの奴です」
「え? シロキさん。蒸留酒は昨日イチゴで使い切ったんじゃないですか?」
「あー、まあ、残ってたやつだ」
「じゃあ、私にも昨日のお酒を出してくださいよ。薄めて飲みます」
「あいよ」
収納からビンを取り出し、イチゴのサングリアもどきを注いだ後、水で割ってアドに渡す。
「イチゴの匂いがいいですね。甘い匂いです」
香りを堪能してちょびりと口に含む。
「うん。おいしいです。私でも美味しく飲めますよ」
「そいつはよかった。飲みすぎるなよ」
「拙者にも分けてもらってよいで御座るか?」
「シロキさんに日本酒もらってください。これはあげません」
「アドが冷たいで御座る。シロキ殿、日本酒をいただいてもいいで御座るか?」
「いいですよ」
フウマさんを落ち込ませているが、「これはあげない」というだけである。
将来的に自分が漬け込んだ果実酒は飲んでもらおうと思っているのだ。純粋にそちらを飲んでもらいたいのであって、悪気はないのだろう。
アドは相当気に入ったのか飲み続けてすぐに酔いつぶれてしまった。
「ずいぶんとまあ、飲んだもんだ。気に入ってくれてうれしいんだが、次からは酔いつぶれない量に調整してやらないといかんな」
ただ、アドに内緒でフウマさんに聞きたいことがあったのでちょうどいい。
「フウマさんに一つ聞いておきたいことがあったんです」
「なんで御座るか? この美味しい日本酒の代金分は話すで御座るよ」
「アドはなんでこんなに弱いんですか?」
「ほう? それはいったいどういった意味かね?」
フウマさんからふざけた様子が消える。
「フウマさんはずいぶん強い。俺なんかよりずっと。剣術を教えることも、魔物を倒す手伝いをしてレベルを上げることも可能だったはずだ。なのになんでろくな支援をしていなかったのか疑問なんですよ」
フウマさんからの支援が、武装をいくらかだけだというのが腑に落ちない。
「ふむ、アドを守ってもらった以上。話しておくのが筋か。君が納得いくよう話すとしよう。少し長くなるがいいかな?」
「ええ」
「まず、アドは今でこそずいぶん勇敢。無謀ともいえるほどの行動力を示すが、昔は今とは正反対に臆病な子だった」
「臆病?」
「ああ。あの子は小人族の母親の危険察知能力を色濃く引き継いでいてね。街の外にいる魔物におびえて過ごしていた。よく気のせいだとあやしなだめていたよ」
確かにアドの危険察知の能力はかなり高いように思う。街中に侵入してきたプチコボルトにいち早く気づいたのはアドだった。自信なさげだったのはそうやって気のせいだと言われてきたからか。
「そんなアドを勇気づけるために、両親は勇敢な冒険者のお話を聞かせていた。竜を倒す女冒険者や盗賊を捕まえる騎士のような冒険者。私の話もずいぶんとした。それがまずかったのだろうね。胸の内に冒険者へのあこがれを強く抱いてしまっていたようだ。ひっそりと抱いたその思いを両親が知ったのは学校を卒業する直前だった。両親は冒険者になることを反対したが、アドは街を飛び出し小物ばかりのクランに入ってしまったよ」
「アドはあなたを頼らなかったんですか?」
「感情的に反対をしてしまったせいでアドからの信頼を失ってしまっていてね。せめて良い装備をと、クナイなどをこっそりと差し入れをするだけにとどまったよ。」
「それがあのクナイと手裏剣ですか」
「その通り、純粋にアドのための差し入れだったが、あのクラン内で使っていたら、きっと取り上げられていただろう。そうなればアドは冒険者の薄暗い面を知り、家に帰ってくるんじゃないかという打算もあった」
けれどそうはならなかったと。
「俺の打った武器をそんなことに使うな。あほ忍者」
「すまないね。だけど本当にアドのための武器なのも間違いないから許してくれ」
リンガンさんは武器の扱いに不満をこぼし、フウマさんは素直に謝った。
「しかし、あの子は賢かったよ。ひどいクランだと分かっていて武器のことは隠していた。そしてうまく立ちまわっていた。それでも限界がきてクランを出ることになったようだがね。そうして君と出会った」
俺と出会うまでのアドを勝手に知ってしまって少々アドには悪いが、知ることが出来てよかった。そう思う。
H31.2.15 修正
樽を二つから四つに修正
樽の大きさを具体的に四斗樽に修正




