第87話 知り合いの知り合い
まず先に俺の刀を作ってもらうことになった。アドにはすでに扱いやすい武器を持っているし、何より挑発したのは俺だ。
それゆえに、アドにはリンガンさんと冒険者ギルドに行ってもらって、依頼を通してもらっている。その間に俺の刀づくりに必要な採寸などをすることになった。
なったのだが。
「これいつまで振ってればいいんだよ」
すぐに採寸は終わり、次に刃を潰した刀をひたすら振り続けていた。
唐竹。袈裟斬り。逆袈裟。突き。
指示されるままに振り続ける。
レベルが上がっているので筋力的には問題ないが、室内での素振りは圧迫感があってやりづらい。
「ん、もういいよ。時々いい素振りをするけど、どっかの道場から修行も半ばに抜け出してきたんじゃないだろうね?」
「いや、お世話になった人が剣の達人ではあったけど、本業ではなかったみたいだからな」
自衛ができるように鍛えられたが、ゴコウさんは本格的な弟子として育てようとは思っていなかっただろう。むしろ、薬剤の技術のほうを重点的に教えられたように思う。
「ふうん、だからか。うちの親父が加減を間違ったわけだ」
「どういうことだ?」
「うちのおやじくらいになると、佇まいだけで流派や剣の師匠が見えてくるのさ。変にそこら辺が見えちまったから警戒したんだろう」
「なるほど」
俺がへっぽこでも後ろにゴコウさんの姿が見えたら警戒もするか。
「それにしても遅いな。ギルド何てすぐ近くなのになんでこんなに時間かかってんだか」
「ギルドはそんなに近いのか?」
「そりゃあ、工房出てそのまま真っすぐ進んだらすぐだからな。ギルド何てどこもおんなじ建物だからすぐにわかる。いつもと同じ依頼を出してるはずだから手間も書かないはずなんだが、ってようやく帰って来たのか」
ちょうど玄関口のほうから扉が開く音が聞こえてきた。
「シロキさん依頼を引き受けてきましたよ」
「時間かかったな。ってなんか疲れてないか? トラブルでもあったのか?」
現れたアドの表情は刀を振り続けた俺よりも疲れているように見える。
「いえ、特に何か問題があったという訳じゃあないです。いるかもしれないのを忘れていただけで」
「ハローで御座るよー」
アドの背後に巨漢の忍者が立っていた。こちらは嬉々とした様子だ。
「余計なこと言わないでよね」
「委細承知で御座るよ」
嫌っているわけではなさそうなので、そんなに邪険にするものじゃないとも思うが。まあ、自分が幼いころを知っている相手というのはやりにくいのだろう。
「依頼のほうは問題なく受けてきました。ただ、刀に関してはシロキさんの分だけということに決まりました」
「あん? どういうことだい? せっかくやる気になったってのに」
不満そうにリンダが口をとがらせるが、リンガンさんがそれを制する。
「嬢ちゃんの刀はもうあるんだよ。そこの忍者がすでに依頼していたんだよ。店に飾ってある小太刀だ」
「それってアドが選んだ奴ですか?」
飾ってある小太刀は一振りしかなかった。
「そうだ。理由はどうあれ、嬢ちゃんは自分の刀を選んでいたわけだな」
「おいおい、親父殿。客を見ないで作って大丈夫なのかよ」
リンダはさっきまでの話と違うと言いたげだ。
「この忍者の見立てがかなり的確だったからな。微調整でどうにでもなる。下手な見習いに見立てさせるよりもよっぽど客に会った注文だったよ」
「はいはい。どうせ私は下手な見習いですよっと。そんじゃあ親父も戻ってきたことだし、しばらく工房に行かせてもらうよ」
そういってリンダは奥に引っ込んでいった。その後ろ姿はどこか嬉しそうだった。
入れかわりにリンダに似ている女性が入って来た。
「あんた、もう昼めしの時間だよ。いつまでも来ないから呼びに来たよ」
「そんな時間だったか」
「リンダはもう行ったよ」
「……いや、あいつが行ったのは鍛冶場だ」
「あんたなんで止めないんだい。せっかく作った飯が無駄になるじゃないか。全くこの鍛冶バカどもはしょうがないね」
「客がいる前でいうことじゃないだろ」
「客ってフウマさんかい? いまさら取り繕うような仲じゃないじゃない」
「他の二人は別口だよ。一応」
「そうなの?」
フウマさんと俺たちを一括りに見ていたらしい。
「えっと、一応知り合いです」
「で、御座るよー」
アドとフウマさんが肯定する。俺はというと知り合いの知り合いという状況故に肯定しずらいので軽くうなずく程度にしておく。
「なら、フウマさんたちに昼飯を食べて行ってもらいな。どうせあの子の分が余るくらいなら増やしたほうがいいからね」
それだけ言ってさっさと戻っていく。どうやら料理を追加しに厨房に戻っていったようだ。
「ということになったが、二人は食べてくか? というか、食べて行ってくれ。このまま帰したら母ちゃんに怒鳴られる」
特に予定もないので問題ない。
アドも同じ意見の用だったのでうなずいた。
「拙者は? 拙者には聞かないで御座るか?」
「どうせお前は誘わんでも食っていくだろ」
「無論でござるよ」
「そんなことを堂々と答えるな」
そういうリンガンさんの口元には笑みがこぼれており、そこから二人の親しさがうかがわれたのだった。




