第86話 何を目指すのか
能無しに打つ刀はないと、にべもなく断られたわけだが、俺はあまり気にしていない。冒険者としても未熟であるし、武器を見る目がないというのもまた事実。怒ってもしょうがない。
そんな俺とは対照的に怒りをあらわにしたのがリンガンさんだった。
「ああぁん。リンダ。ようやく店に置けるもんを作れるようになったようなひよっこが、客に対してなに生意気なこと言ってんだ」
「いいたくもならぁ。あそこに並んでるのは私の手の届かない『高み』だ。あれを他の物よりいいというのは、月より団子のほうがデカいというようなもんだ。そんな阿呆の相手をする暇があったら鉄を打ったほうがましだ」
「おめえ、客を見なくてどうすんだ」
「親父こそ何言ってんだ。鍛冶屋が鉄を見なくてどうするってんだい? 客見て腕があがるっていうんならいくらでも見るさ。さあ。親父殿。刀を打つのと客を見るのとどちらが私の腕が上がるんだい?」
「そりゃあ、刀を打つほうが身になるが……」
「なら話は終わりだ。無駄な時間を過ごす気はないね」
そう言って話を切り上げてしまう。全く話を受け付けないといった様子にリンガンさんは深いため息をついてこちらに向き直る。
「すまねえな。変な話を持ち掛けた上にこんな風に断ることになっちまった」
「職人気質というかなんというか……。将来有望ですね」
仕事に熱意をもって取り組めるというのはある種の才能だ。ただ生きるために仕事をするのとは違った熱がこもる。俺はその熱に当てられたのだろう。ただ。
「変な所を目指さなきゃいいけどな」
「お前さんもそう思うかい?」
「シロキさんどういうことです?」
「そうだなぁ」
どうやって説明したものかと少し考え、できるだけわかりやすいように話始める。
「物を作るということや何かを成し遂げるということのためには、知識や技術その他能力を積み重ねていく必要がある。冒険者であれば、魔物の知識をそろえ、腕を鍛え、仲間を集めるわけだ」
「リンダさんはそうやって準備をしているんですよね。何かいけないことがあるんですか?」
「目指しているのが『強い冒険者』か『いい冒険者』なのかがちょいと問題だな。『強い冒険者』になるために自らを鍛えるのことが間違ってるなんてことはない。けど冒険者の仕事はそれだけじゃないだろ? 素材の採取もすれば、護衛の仕事だってする。それが『いい冒険者』ってもんだ。強さだけを求めれば、行き付く先は戦闘狂のようなものにしかならんよ」
無論強さを追い求めることイコール戦闘狂とは限らないが、強さしか見えていなければ、ろくなことにしかならないだろう。
「鍛冶屋だって同じだろ。腕を磨くことばかりに執着してたら、何を切るものなのか何のために切る物なのか分からなくなるだろうな。最悪人を切ることを目的にするかもな」
「私の刀が人切包丁に成り下がるって言いたいのかい?」
俺の話が聞こえていたようでリンダが不快そうに近づいてきた。
「可能性の一つを言っただけだよ。そうならない様に師匠が経験を積ませようとしているわけだしな」
それを無下にするならどうなるかは知らんと言外に含ませる。
「いいだろう。その挑発に乗ってやるよ。文句のつけようのない刀を作ってやる。ちょいと待ってな」
そういって先ほどまでの作業場に戻っていった。先ほどまでの作業の片付けに入ったようだ。
「あいつを焚きつけてくれて助かった。どうにも俺の言うことをききやしない」
「正式な依頼としてはまだですけど、『娘の客になってもらいたい』っていう依頼なら、やる気にさせるのも依頼のうちかと」
だから先ほどの話は聞こえるように声を大きめにしていたり、分かったようなことを言って彼女を挑発していた。断られても構わない。というかすでに断られた後なので失敗しても心証が悪くなるだけで、もう会うことがなくなるのだから問題ない。
もっとも成功してしまったので、心証が悪いところからのスタートになる。
「前途多難だよなぁ」
もう少しうまくやれればと、人付き合いの苦手な自分を呪うのだった。




