第85話 鍛冶場3
「まあ、最初の客にはちょうどいいな」
「はい?」
「あんたら二人にちょいと依頼を頼みたい」
「依頼ですか?」
「ああ。あんたたち二人がしばらくこの町にいるならな」
「シロキさん。どうします?」
「どうするも何も、まずは内容を聞いてからだな。聞いたら後に引けないタイプの依頼なら聞く前に辞退するほうがいいと思うけどな」
変なしがらみが発生するタイプの依頼は御免だ。
正直に言えばアドの正義感を刺激するようなものも避けたかったりする。実力に見合わない依頼は引き受けたくない。
「心配いらねえよ。単にうちの娘の客になってもらいたいってだけだ。もちろんタダでいいぞ」
「タダ! それなら」
「よし。やめておこう」
「ええ?! 何でですか? タダですよタダ!」
「うまい話には裏があるっていうからな。タダなんてもっとも信用ならない言葉だろ。大体一流の剣士の武器を作りたいっていう話ならともかく、俺たちの武器を作ってどうしようっていうんだよ」
そんなことを言えばリンガンさんを怒らせるかもしれないが、怪しい話を断る口実になるならそれもいい。
「待て待て、とりあえず話を聞いてけ」
俺が断る気満々だという様子に慌ててリンガンさんは依頼の理由を話し始めた。
リンガンさんが言うにはこの店にオーダーメイドに来る客はいるのだが、当然ながら未熟な娘を指名する者はいない。このままだと、刀をただ打つだけの自分本位の鍛冶屋になりかねないことを危惧しているとのことだった。
「なんでまた指名がないとダメなんですか? 別にこだわる必要はないんじゃないですか?」
「そりゃあ、技はいくらでも教えられるさ。ただの切れ味のいい刀ならいくらでも作れるようになる。だけどな。そのままじゃ客の要望には応えられねえ。今のまま育つと極端な話、嬢ちゃんに「これが私の最高傑作だ」なんて言いながら大太刀を渡しかねん」
「それは困りますね」
「空間収納の肥やしになるな」
いくらいいものでも扱えなければ宝の持ち腐れにしかないだろう。
「さすがにそれは極端な話だけどな。技術が先立つといろいろ見えなくなっちまう。客がこれじゃあだめだといっても、自分の腕に自信を持っちまうと聞き入れられなくなっちまうのさ」
「言いたいことは分からないわけでもないけど。なんで俺たちに? 依頼するならだれでもいいんじゃないですか?」
特注品の刀を求めてきた客相手に娘にも一本作らせてもらえばいい。手間が増えるというならその分だけ本来の品の値段を割り引くなりすればいい。
「自分の目で見て何が足りないか判断しなくちゃならねえんだ。腕が立つ客に頼むと太刀筋が見えなくなっちまう。その点二人ならちょうどいいレベルだ」
ここの刀は質がいいからか目玉が飛び出るような金額だったりする。まだまだ新人の俺たちくらいの実力の客はほとんどいないだろう。
「ただそういった事情を抜きにしてもお前さんの武器だけは作らせたいな」
「俺の?」
アドと俺ではなく。明確に俺だけを指名してきた。なぜ? という疑問にリンガンさんは答える。
「理由はどうあれ、お前さんは娘の刀を認めだんだ。これ以上最初の客にふさわしいやつもいないだろ。どうだい? 引き受けてくれるか?」
理由は分かった。聞いた内容に特にトラブルが起ころ要素があるようには思えない。
「細かい部分はきちんとする必要はあると思いますけど私は引き受けていいと思います。そうだギルドを通せば大丈夫ですよ」
「そんなことができるのか?」
「できますよ。討伐や採取と比べれば珍しい物ですけど、それなりにある依頼ですよ」
そういった依頼を取り仕切るギルドが間に入るなら、トラブルが起こる可能性も低いだろう。
「わかりました。その依頼引き受けさせてもらいます」
「契約成立だな。よろしく頼む」
「こちらこそお願いします」
そうして契約が成立したはずだったのだが、
「いやだね。あの中から私の刀を選ぶような能無しに打つ刀はない」
当の本人には全くやる気がないようだった。




