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魔法使いになりました ~酒とケーキの魔法使い~  作者: 鯨七号
第三升 異世界都市スメント
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第77話 苦手なもの

 酒蔵を後にして向かった先はスメントの首都。村からはそう遠くなく、朝に出て昼過ぎに着くことができた。

「相変わらず、人が少ないな」

 羽が生えていたり、角が生えていたりと、マルケアの町でもそういった者は結構いたのだけれど、その比率はスメントのほうが高い。

 しかしまあ、河童とか唐笠お化けとか見ると妖怪のほうが人の姿から大きく離れている。ひょっとしたら、昔の日本のほうがこちらの世界より異形の特色が強かったんじゃないかとすら思う。

「妖怪の本拠地ですからね。異世界から来た妖怪が好きなように暮らしていますからね。ナゴヤは異世界から来た人間が好きなように作った町です」

「つまり、こっちのほうが古くからの情報はある訳だ」

「ナゴヤで情報収集するのと同等の情報が入るかもしれません」

「なるほど。当てがなく東に向かっていたわけではなかったわけだ」

「一応、シロキさんが北のほうに行きたいなんて言っていたのもこちらに向かった理由なんですけどね」

「? どういうことだ?」

「フォーの村やマルケアのあたりからだと北にある山脈が危険地帯なので回り込む必要があるんですよ。本当はナゴヤ方面に行けば近いんですが、私の都合でこちらに向かっていました」

「まあ、それはしょうがない。別に北に行きたいなんて言うのは米があるかもしれないっていうだけだからな」

 米がここらにもあると分かった以上わざわざ北に行く必要もない。

「じゃあ、ひとまずお昼にしましょうか、シロキさんにとって懐かしい味に出会えるはずですよ。こっちの世界では苦手な人ばかりで全く浸透しなかったんですけどね」

「へえ? 何だろうな?」

「何でかあの村では見かけなかったんですけど、有名な名物ですからここならどこの店にもあるはずですよ。ここにしましょうか」

 近くにあった飯屋にアドを先頭に入ろうとするが、暖簾をくぐった瞬間、俺は足を止めた。

「シロキさん?」

「アド、うん。よく分かった」

 匂いで何が待ち構えているかすぐに分かったのだ。元の世界より独特の匂いが色濃く残っている。

「どうしました。何が分かったんですか? 顔色が悪いですよ」

「米がない分ここの主食は大豆なんだな。それもこっちの世界では珍しい発酵食品」

 その名は。

「……納豆」

「もしかしてシロキさん納豆ダメな人でした?」

「昔な。友人の家で納豆を食べたことが爺さんにばれて、こうすさまじい拳を食らって、それ以来な」

「お爺さんが嫌いだったんですか、そこまで嫌うなんてすごいですね。じゃあやめておきますか?」

「いや、トラウマになってはいるけど食べれないことはないから大丈夫」

 一応、その後も何度か食べてはいる。

「とりあえず食うか。別に味や食感がダメなわけじゃないからな」

 注文し、出された納豆に醤油をたらし食べる。

 うん、やはり食べれないことはない。向こうの納豆より癖が強いが、それ自体は問題ない。

「しかしまあ、何であの村が厳戒態勢を敷いているのか理解できた」

「?」

「これが原因だ」

「納豆が原因ですか?」

「納豆菌は繁殖力が強いからな。食べた後、口から出る息だけでも酒造りに影響を与えるんだよ。このままあの蔵に戻ったらたたき出されるどころの話じゃない。それこそ殺されるかもな」

「平然と言いますね」

「そりゃあ、行かないからな」

 行く予定があったら、こんな呑気には言っていられない。食べなくても服に付いた菌だけでも影響を与える可能性があるのだから。

「まあでも日本酒のつまみに納豆っていうのも結構聞く話だから酒好きのこの町にあるのはおかしくないか」

 日本酒中心に回るこの町のことだから、むしろそのための納豆のような気もする。この店のメニューに日本酒があるしな。

「それじゃあ、この後はどうします? 闘技場を見に行きます? シロキさんが参加しても面白いですね」

「いやいや、俺だけ参加させようとするな。アドが出るなら考えないでもないぞ」

「なら無理ですね。私は参加できないので。あとはこの町は鍛冶も有名ですね。私の持っているクナイなんかもここで作られたものですよ」

「まあ、それはそれで興味はあるけど、今の武器をわざわざ新調する必要もないかな」

「じゃあ、やっぱり情報収集ですかね。シロキさんもいろいろ話を聞いてみたいんですよね?」

「まあな、一応長助さんにもこっちの世界の話を訊いてみたんだけどこっちの生まれらしいから詳しい話は訊けなかったからな」

 何も長助さんとお酒の話だけしていたわけではない。俺と同じようにこっちの世界にやって来た人、もしくは妖怪の話も訊いていた。しかし長助さんも詳しい話を知らなかった。向こうから来た妖怪も人も突然こちらの世界に移っていたということくらいしか知らなかった。

「ただ、この町なら詳しい話を知っている妖怪がいるだろう、とは言っていたな」

 人よりも長い時を生きる妖怪ならば、情報を集めて共通点を見つけているだろうと長助さんは言った。

「だけどどこで訊くべきなんだろうな」

 地道な聞き込みをするにしてもどこから始めるべきだろうか。その答えは意外なところから返って来た。

「ハッハッハ! それなら、冒険者ギルドに行くといいで御座るよ!」

「「な!?」」

 軽快な笑い声。いつの間にか忍び装束に身を包んだ巨漢がアドの隣に座っていた。

 ありえない。

 スメントに来て妖怪に驚かされてきたのだ。周囲への警戒は怠っていなかった。この男はその警戒をいとも簡単にすり抜けて近づいて来たということになる。

 街中で事を起こすという気はないだろうが、俺たちが逆立ちしても敵わないと暗に見せつけられた。

 普段他人が入らないパーソナルスペースに唐突に踏み込まれたアドは俺よりも気が気じゃないはずだ。

 そう思ったのだが、アドの様子がおかしい。

「なんでここにいるの!?」

 アドの叫びは見知らぬ誰かに掛けるものではなかった。

「ハッハッハ久しぶりで御座る。元気に過ごしていたで御座るか? 拙者は元気で御座るよ!」

 忍者はアドの絶叫を陽気に笑って流す。間に流れる空気は緊迫したものから気の抜けたものに変わっていた。

「この豪快に笑う忍者はアドの知り合いなのか?」

「はい。残念ですけど知り合いです」

「残念とはひどいで御座るよ! そういうアドも――」

「ああもう! 余計なことを言わない! ちょっとこっちに来て!」

 アドは忍者の首元をひっつかみ、店の外に引きずっていく。

「すみません。ちょっとオハナシしてきます」

「おお……。ごゆっくり」

 いつになく迫力のあるアドにそう答えるしかない。

「ちょっと! ほんとなんでここにいるの!? 一人で頑張るって言ったでしょ!」

「拙者心配で居てもたってもいられずに追いかけてきたで御座る!」

「おーいアド聞こえてるぞ。 聞かれたくないならもっと離れろ」

「了解で御座る!」

 アドの代わりに忍者が答えた。

 ああぁもう! と振り回されて頭を悩ませるアドの様子が目に浮かぶ。

 ただ、俺に対して敬語を使うのにあの忍者には使っていない。それだけ親しい相手でもあるのだろう。乱暴に引っ張っていったことからも気が置けない間柄なのがうかがえる。

 遠くから聞こえる会話の内容こそわからないが、アドのほうが一方的に振り回されているようだ。知り合いであっても苦手な相手なのだろう。

 意図せず、アドの苦手な相手を知ってしまったことになるが、深く探らないでおくことにする。

 アドは俺の弱点(納豆嫌い)を笑うことも無理強いすることもなかったのだ。

 そう心に決め、アドのオハナシが終わるのを待つのであった。

総合評価が400を越えました。本当にありがとうございます。

少しでも「面白い」「先が気になる」と思っていただけているのであれば幸いです。

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