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第64話 発酵は正義だ! 希少価値だ!

 side シロキ


 ドヤ顔で米麹を作ったと言ったもののアドの反応は良くない。全く興味を持っていないようだ。

「なんだ。お酒を造るんですか」

 アドはあきれた様子でため息をつく。

「いや、酒は造る気はないぞ」

 日本酒は出せるので今のところ焦って作る必要はない。そもそも作るための設備がない。

「じゃあ、何を作るんですか?」

「とりあえず味噌だな」

 原材料となる大豆と塩があることは確認済みだ。麹さえ作ることができればすぐに仕込める。

「味噌!? 高級品じゃないですか!?」

「お、おう。味噌は知ってるんだな」

 アドのあまりの勢いにちょっと引く。

「そりゃあもう、ナゴヤでもなかなか手に入らないことで有名ですよ。私も一度食べたことがありますけどおいしかったです」

「ちなみにその料理は?」

「五平餅です」

「あー、あれはうまいな」

 確か中部地方の料理だ。こちらの世界にわざわざナゴヤという町を作った人が伝えた可能性が高いな。

「それで本当にできるんですか? 何やらうまく再現できなかったり、腐って失敗するとか聞きましたけど」

「それがどの段階で失敗しているかわからんが、麹造りの段階で失敗してるとすると、稲麹も灰もいれてないからだな」

 一般人に麹を作る知識はないだろう。せいぜい米から麹を作るということを知っているのが関の山だろう。

「稲麹と灰ですか? 途中で入れてましたよね。稲麹っていう物が何か分かりませんけど」

「稲麹は稲穂についてる黒い塊だな」

 今回は店で稲穂を買ったとき、付着していたものを使った。

「そいつを蒸した米で繁殖させることで米麹を作るわけなんだが……」

「何か問題でもあるんですか?」

「米麹を繁殖させるのは三十度から三十五度くらいだったか。その温度で繁殖させるわけだがこの温度は雑菌が繁殖しやすい。つまり腐りやすい」

「だとすると、これも?」

「そこで登場するのが先人の知恵。灰を入れると腐りにくくなることが昔から知られている。他にも入れる理由があるけど入れる一番大きな理由はそれだな」

 灰を入れるとアルカリ性に傾き、雑菌は繁殖しにくくなる。それに対して麹菌はアルカリ性でも繁殖するのだ。そのうえ麹菌が育つ上で様々な恩恵がある。もっともアドにこれ以上詳しく説明しても混乱するだけなので割愛することとする。アルカリ性だから繁殖しなくなるとか、灰に含まれるミネラルが成長を助けるだとか言ってもうまく伝わらないだろうからな。

しかし、灰を入れたからと言って成功するとは限らない。麹を一から作るなんて俺も初めてだから、失敗する可能性は高く、せっかく手に入れたお米を麹にするのはためらいがあった。ダメになったお米は麹作りに踏み切るいい機会になった。もっともその米のせいで良い麹ができないかもしれないが、そこは妥協するとしよう。

「完成したら、みんなで味噌料理を食べような」

「楽しみです! 絶対成功させてくださいね!」

 アドだけでなく、俺の中から精霊たちが出てきて自分たちにも食べさせろとアピールする。

「おう! 任せておけ!」

 アドや精霊たちが手作り味噌で作った料理を食べて喜ぶ姿に想いを馳せ、味噌づくりを成功させようと俺は決意を新たにした。

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