第65話 報酬
作れるとは限らない米麹のことは置いておくことにする。捕らぬ狸の皮算用をしてもしょうがない。
なんにしても米麹に手を加えるのは、醗酵が進んでからかき混ぜるくらいだ。
「ギルドのほうはどうだった?」
「結構良い報酬がもらえるようですよ。ギルドでのプチトレント討伐の報酬は安かったですけど、消火に関しては見積もりは多かったです。あ、これはトレント系の魔物が残ってないか調べた分も含んでます」
消火と残党の確認は無限に酒を出せる俺と危険察知を持つアドでなければできないことを考えると納得だ。
「もらえるようですってことはまだもらってきてないのか?」
「ええ、まだ墓地のトレントの報酬のほうが決まってないそうです。というか私たちが倒したっていう証明するものを回収もできなかったですし、私たちが倒すところを目撃した人も少なかったために難しいそうです」
でも、と続ける。
「あの状況で事態を把握して動いていたのは私達だけだったことと、少人数でも目撃者がいたので、出さないわけにはいかないとソーシャさんはいってますけどね」
「疑わしいなら出せなさそうだけど、出すのか」
「ちゃんと活躍した冒険者に報酬がいかないギルドに人は寄り付かなくなるそうですよ。もちろん疑わしい場合は出さないそうですけど」
なるほど、今回のような緊急事態で、事態の解決を優先した冒険者に報酬がいかなくなると不味いわけか。そんなことをしたら、報酬のために剥ぎ取りを優先する冒険者が出てきかねない。
「それにパーティにもいろいろあるんですよ。一時的なものだったり、お互い計算の上で成り立っていたりします。そうすると、ギルドがパーティの誰か一人に報酬を渡すとトラブルのもとになるんですよ」
「なるほど。持ち逃げしたりすることもあるのか」
「パーティ全員が集まったときに直接渡してしまうのをギルドは好みますね。そうするとトラブルになってもギルドの外での話になりますから」
なるほど、報酬はきちんと渡したので分配方法はパーティで勝手にしてくれってことか。
「他にはギルドがそれぞれの冒険者の口座に報酬を入れるということもありますけど、パーティ内で平等に分けるところは案外少ないので事前に申し出ていないパーティには普通やりません」
「あー、『今回お前は役に立たなかったんだから報酬は無しな』ってこともよくあるわけだ」
「そうです。それでよく泣かされました」
アドが前いたクランは本当にブラックだな。意図的に仕事をさせていないのに、仕事をしてないから給料は無しとは。
「あれ? それなら村での報酬はどうなるんだ? 確かアドから受け取った覚えがあるんだけど」
「ギルドの受付がめんどくさがって、渡してきたのでしょうがなく受け取りました」
「いい加減な職員だな」
「あ、受け取りの際にはゴコウさんに立ち会ってもらっています。その報酬の八割をシロキさんに渡したんで安心してください」
「おいこら」
さりげなく聞き捨てならないことを言いおった。
「あの時の報酬は山分けじゃなかったのか!」
「そりゃあ、あの時私は何もしてませんから。正面切ってコボルトと戦ったのもシロキさんですし、ゴブリンのほとんどを倒したのもシロキさんじゃないですか」
「あほか。アドがいなきゃ、コボルトに気づかなかったし、ゴブリン戦のあとあの場所で動けずに野垂れ死にしてるよ!」
確かに俺のほうが戦闘で活躍しているかもしれないが、アドがいなければ俺は何一つ成果を上げることなどできていなかったはずだ。
夜中に村に侵入したコボルトには気づかず、寝ていただろう。
ゴブリン大量発生の可能性に怖気づき、村を出ることはできなかっただろう。
今回の毒騒動も事件に首を突っ込むことなく別の町に移っていただろう。
全てはアドがいたからこそ関わったのだ。
「とにかく、前回の報酬も分けなおしだな」
「流石に半々は気が引けます」
「いいんだよ。今度俺が役立たずの時にはちゃんと半分もらうだけだから」
「私より強いんですからそんなことはないと思いますけど、分かりました」
納得させたところで、アドの分の報酬を計算して渡す。
あの時のアドは食事にも困るほどお金がなかった。コボルトとゴブリンの報酬が全財産だったとすると、今渡した分で所持金は倍以上になる。
「でも今回の分はどうしましょう? 精霊のみんなも頑張ってくれましたよね。私たちだけじゃなくてみんなで山分けします?」
「あー、どうしようか」
そもそも精霊にお金が必要だろうか。ミントが木の盾をおねだりしたくらいで他に精霊たちが欲しがった物はない。俺の出したケーキ(主にイチゴ)が評判がいいため食事にもお金を使わない。となると、これからもお金を使うことはほとんどないだろう。
「今のところ精霊たちが物を欲しがることはほとんどないからな。報酬は二人で分ければいいだろ」
高額なものを欲しがらない限り俺が出せばいいだろうと考えていると。
「精霊のみんなの分は半分ずつ出しましょう」
「いや、そんな面倒なことをしないでも……」
「報酬が半々なのに、それは通りませんよ」
有無を言わさぬ物言いに、俺は押し黙る。アドは引く気はなさそうだ。
「わかった。精霊のみんなが欲しいものがあったら二人で半分ずつ出す。これでいいな」
俺の出した結論にアドは満足そうにうなずいたのだった。




