第63話 奇怪な行動
Side アド
いつもと同じ部屋、同じベッドで目覚めた。
一瞬首をかしげる。昨日シロキさんが急に倒れたので部屋に運びベッドに寝かせたのに私がベッドで寝ていた。
シロキさんのことだ昨晩運んでもらったお礼などという理由で私をベッドに運んだのだろう。
疲れてたとはいえ、床からベッドまで運んでもらって全く気付かなかったという事実に少々危機感を抱きつつ、部屋を見回す。
当のシロキさんはすでにこの部屋にいなかった。
窓の外を見てみると、日はずいぶんと昇っている。冒険者としては寝坊もいいところだ。
昨夜遅くまで火消しに回っていたのだからと言い訳をしたいけれど、一番疲れているはずのシロキさんがすでに起きている以上、そんな言い訳をしてもみっともないだけだ。
「でもシロキさんは起きて何をしてるんでしょうか?」
シロキさんが一人で行動することは少ない。昨日は米を炊くといっていたので早起きして台所へ行っていることが分かっていたのだが、今日はどうしたのだろうか。いつもなら私を起こすか、起きるまで待っているはずだ。何も言わないでどこかに行くことはないはずだ。
とにかくこの場所で惚けていても何もわからない。
身だしなみを整えてから、宿の中を探す。台所や食堂を探すが見当たらない。
ふと、シロキさんがどこかに行ってしまったのではないかという考えがよぎった。
ついこの間、私がシロキさんを置いて行こうとしたというのに、自分が同じ立場になったら不安になるとは自分勝手なものだ。
ひとまずギルドに探しに行こう。不安になるのはそのあとでいい。そう思い宿を出ると。
「よ。アド。おはよう。ちょうどいい。そのままドア開けててくれ」
そこにはシロキさんが両手に荷物を持って立っていた。
心配をかけたというのに全くいつもと変わらない様子だ。なので、
「ちょ、なんで閉めるんだよ!」
いきなりいなくなった罰だ。ドアを閉めてやる。
抗議の声を無視して食堂に戻る。とりあえず朝食にするとしよう。席に座ってウェイトレスに朝食を頼む。
ちなみに昨日はほとんど炎の中にいたのだけれど、シロキさんのいくらでも出せるケーキのおかげで飢えることはなかった。
シロキさんは一度荷物を置き、自力で宿の中に入って来た。
「何も言わずに出て行って悪かったな」
「別にいいです。いつも一緒にいる必要なんてないですし」
「それでも一言言っておくべきだった。すまん」
「もういいですって。それで何を買って来たんですか?」
「鍋やら布やらだな」
「鍋なら私が持ってますよ?」
シロキさんも知っていることだ。だからこんな安物ですぐに穴の開きそうな鍋は不要なのだが、シロキさんはさらにとんでもないことを言う。
「穴をあけるつもりだからな」
「はい?」
自分から鍋に穴開けてどうするつもりだろうか。
シロキさんの考えることはよくわからない。
「見てろ。そのうちおいしいものを食べさせるから」
ということは鍋を改造して調理道具を作るつもりなのだろうか。私が起きるまで待ちきれずに外に出るということはそれだけ良いアイディアなのだろう。
「じゃあ、私はその間に食事が終わったらギルドに顔を出しますね。消火活動についての報告は昨夜にすましてますけど、墓場のことについては報告できてませんからね」
「ああ、すまんがそっちは頼む」
墓場でのことは討伐を証明する物を準備できなかったのですぐに報酬は出ないだろう。だから一人でも問題ない。
朝食を終えると、私は一人ギルドに向かった。
☆
ギルドに報告を終えて、宿に戻る。シロキさんは宿の台所でお湯を沸かしていた。
脇にある台には加工された鍋と蓋があった。
シロキさんの宣言通り鍋のほうは釘でいくつもの穴をあけられていた。これでは普通の鍋の役割を果たさず、ザルにしかならないだろう。いや、穴が大きいからザルにもならない。
ふたのほうは濡れた布を巻いて縛ってある。
他にも布で何かくるまれている物や鍋と一緒に買って来たであろう口が広く
「戻って来たな。ちょうど使う準備ができたところだ」
「で、なんですかこれ?」
「蒸し器だ。ってその顔は知ってるのか」
「聞いたことある程度ですね」
お湯を沸かした蒸気の熱で食品を調理する道具のはず。
「店に売ってないから、こっちの世界にはないかと思ったんだが……、あるのか」
「売ってないと思いますよ? 私も見たことはなかったですし」
「なら作って正解か」
シロキさんはお湯を沸かしている鍋の上に穴の開いた鍋を重ねる。
「それで何を蒸す気ですか?」
「これだ」
シロキさんは台の上に置いてある布の包みを開いて見せる。
「昨日のお米ですか」
「本当は水につけただけのものを使うんだけどな。ダメもとでこいつを使う」
そういって、蒸し器に布ごとお米をセットして蓋をする。蓋は布の巻かれたものだ。
「蒸し器ってそうやって使うんですね。だから布も買って来たんですね。でもなんで蓋に濡れた布を巻くんですか?」
「蓋の布は水滴が落ちないようにするためだな。濡らしてるのは焦げたり燃えたりしないようにだ」
なるほどちゃんと意味があったのか。
シロキさんは火を調整して米を蒸していく。
当然、蒸したお米は初めて食べることになる。シロキさんが作る料理はおいしいので楽しみだ。
「よし、そろそろか」
シロキさんは蒸し米を少しだけ取り出す。それを指でつぶしてこんなもんだろうと一人うなずく。
ここからが大変なんだよ。そう言ってシロキさんは表情を引き締めた。
私は邪魔にならないよう、少し離れたところからそれを見学させてもらうことにする。
シロキさんはお米を蒸し器から取り出して、作業台の上に置かれた別の容器の上に広げる。
広げたお米を木べらで切るようにして混ぜていく。
何をやっているのかさっぱりわからないが必要なことだろうと思ってみていたのだが、ここからシロキさんは訳の分からない行動を取り始める。
冷め始めた蒸し米にいきなり灰を一つまみ混ぜ込んだのだ。
さらに黒い粒を取り出し、それを潰してコメの中に混ぜ始めた。だいぶ冷めてきたからだろうか、その時はシロキさんは手でかき混ぜている。
一体何を作っているのかわからない。ただ、シロキさんがお米を無駄にしているとも思えない。
ふざけているにしてはあまりにも真剣な表情で作業していたからだ。
混ぜ終わったお米を壺の中に収めたところでシロキさんは表情を和らげた。
まだ完成していないようだけれど、一息ついたみたいだった。
「結局シロキさんは何を作ってたんですか?」
私の疑問にシロキさんはこれまで見たことのないいい笑顔で答えた。
「これは米麹。日本酒の原材料だ」
日に日に文章能力が落ちている気がします。




