第59話 ザイルトレント
網目状に絡まったその姿に昔遊んだ公園の遊具を思い出す。
確かザイルクライミングという名前だっただろうか。
子供の目には、一本の支柱からピラミッドのようにロープが広がる威風堂々とした姿が、ジャングルジム以上に魅力的だった。
目の前にいるトレント……、ザイルトレントは大人が登るにも相当苦労しそうなほど巨大だ。登れば子供の頃見た景色よりさぞ遠くが見えることだろう。
だが、その高さが最大の障害となる。
「あー、こりゃあ枝の一本や二本……、十本や二十本じゃ、ビクともしねえな」
弱点はピラミッドのてっぺんに申し訳程度にある幹だろう。
飛行能力でもあれば上から狙いやすいが、俺たちにはそんな能力はない。そして近づくには大きく広がる根っこが邪魔なことこの上ない。
もっとも先ほどまでゾンビと相対していたことを考えると精神的にはかなり楽なのだが。
「アドえもーん。何かいい道具ない?」
ザイルトレントが振り回す長い根をよけながらアドに打開できるアイテムがないか尋ねる。
「アドえもんって何ですか!? そんなに都合のいい道具なんて出てくるわけないでしょう!」
「ちぇ、アドえもんのけちー」
「ケチってなんですかー! 」
何かトレントに対して有効な何かが出てきて来てくれたら最高だったのだが、そうはいかないか。
「そんなこと言うならシロキさんがどうにかしてください! お酒の魔法でドバっと解決してくださいよ!」
「あんな隙間だらけの奴には効かないだろ」
酒で押し流すにしても、網状の体には受け流されるだろう。それに窒息も期待できない。何より死体をあさった奴に酒を使いたくない。
「それもそうですね」
「とりあえず。こいつを食らっとけ!」
火の魔法を胴体掛けて放つ。
炎はまっすぐに胴体に向かっていくが、ザイルトレントも胴体に炎を食らうのはまずいと判断したのか根っこを持ち上げて炎を受け止める。
そのまま燃え広がることを期待するが、ザイルトレントはすぐさまタコが足を切り離すかのように根を切り離した。
ならばと、足元から切り崩そうと根を切ろう剣を振るうが、ザイルトレントは根を緩ませることで力を逃す。そのため切れる量は少ない。
「こりゃあ、やっぱり持久戦も考えなきゃならんか?」
地道に、根っこを少しずつ切り進めて行くのが一番確実だ。幸いザイルトレントは巨体とリーチの長さが厄介なだけで強いわけではない。時間をかければ安全に倒せる。
「だけど、早く倒さないと他の場所が……」
町に逃げられたら追える冒険者は限られる。アドは確実に敵を追えるがゆえに焦っているのだろう。
ここは俺に任せて先に行け!
と言いたいところだが、それは少々まずい。
「仕方ない。無理するか」
「シロキさん?」
ザイルトレントから一度距離をとる。
やることは簡単だ。
肉体強化で一足飛びで本体に近づき、すれ違いざまに仕留める。失敗したとしても一瞬の強化ならば吐くこともあるまい。
カッコよく三段跳びと行きたいところだが、三十のおっさんにはそんな器用なことができるはずもないのでふつうの走り幅跳びの要領だ。
強化した肉体で疾走し、跳ぶ。そしてすれ違いざまに剣を振るう。……つもりだった。
「飛びすぎたか」
根に激突することを恐れ高く飛びすぎた。
剣は届かない。
お互いに動いていては炎の魔法もろくに命中しないだろう。
「まあうまくいかないのは予想済みだ」
ザイルトレントの無防備な頭頂部をめがけ雷撃の魔法をぶち込んだ。
なお鯨七号はザイルクライミングを直接見たことがありません。
もともと他のロープ系の遊具を思い浮かべて名称を検索して探してみたら全く出てこなかったのです。
まあ、イメージにあっていたのでザイルクライミングを採用しました。




