第60話 決着
毛躓きながらも無事地面に着地し、背後にいるザイルトレントに振り返る。
そこにはプスプスと煙を上げながら傾いていくザイルトレントの姿があった。
外れる可能性も効かない可能性もどちらもあったが、杞憂だったようだ。
空中からであれば雷の魔法はもっとも近くにある目標物、ザイルトレントにあたりやすいだろうとは踏んでいたし、雷撃であれば急所を外しても影響は大きいと予測できた。
逆に言えば外す可能性もかなり高かったし、当たっても内部にダメージを届かせることができない可能性だってあった。
大ダメージを与えることができたので結果オーライだ。
しかしまだ倒し切れていない。ザイルトレントはもう一度根に力を入れ立ち上がる。
対して俺はもう一度距離を開け、助走を始める。もう一度食らわせれば俺の勝ちだ。
ザイルトレントは俺に向き直り、二度は食らわないとばかりに根を伸ばして妨害してくる。根に邪魔されて俺はスピードを落とさざるをえない。
これでは跳ぶことができない。だがそれで問題ない。俺たちの勝ちだ。
「ナイス。アド」
動きが鈍ったうえに、俺に集中したザイルトレントの隙だらけの背中にアドの放った炎が当たり燃え広がっていた。
末端の根でなく本体の幹に火が付いた以上、ザイルトレントにはどうしようもなかったのだろう。
数秒もがいた後、地面に倒れ、完全に動かなくなる。
まだ完全に燃え切ってはいないが。
「終わりました。墓地にいる魔物はすべて倒し切りました」
「種で潜んでいる可能性は?」
「ありますけど、さすがにそこまでは分かりませんよ。わかっていたらそもそもあの果物を町に持ち込んでません」
「そうか」
「これで、あと一か所です。たぶん薬剤師ギルドのほうが無事に終わったんですね。ってシロキさん、なんでそんな嫌そうな顔をしてるんですか」
「最後の一か所に心当たりがあってな……」
「心当たりがあるんですか?」
まだ持ち込まれた果物から生まれた可能性もある。しかし、墓地にこいつらがいたことを考えるとその可能性は低い。
「病院だ。果物を食って、まだ生きている冒険者の体内で生まれた奴がいる」
「なッ! なんで早く言わないんですか!」
アドは町に向かって走りだす。一刻も早くその冒険者を救うために。
だが、
「もしそうだった場合の打開策がない。最悪生きたままの冒険者に根を張って操っていたりしたら俺たちにはどうしようもない」
ゾンビもきついものがあったが、トレントに寄生された人を見て冷静でいられるとも思えない。
「せめてこっちで弱点でも見つけられればとは思ったが、燃えるってのと雷撃もそれなりに効くってこと程度。体内に寄生した魔物に対して有効打はまだない」
最悪の場合冒険者ごと討伐することも視野に入れなくてはならない。
そんな現場にアドを一人で行かせるわけにはいかなかったので、ザイルトレント討伐を焦ったのだ。
現場にはすでに多くの冒険者が集まっていた。
通りの一部を囲むように冒険者たちが輪を作っており、輪の外にソーシャさんの姿があった。ソーシャさんもこちらの姿を確認すると走り寄って来た。
「二人のほうはどうニャったニャ?」
「墓地にいたトレントを燃やしてきました。墓地は穴だらけになりましたし墓も荒れた状況ですけど、被害者はいないです」
「ニャらよかったニャ」
「それでこっちはどうなっていますか?」
「薬剤師ギルドのほうは無事に討伐できたニャ。ただ、こっちは人質を取られている状況ニャ」
だから囲い込んだまま動きがないのか。
「状況は、見ればわかるニャ……」
近くの屋根に跳び乗り、様子をうかがう。
冒険者たちが取り囲む中央に病院服だろうかゆったりとした服を着た二人が立っていた。青白い顔をしており口から枝が生えている。死んでいてもおかしくない様子だが何とか呼吸はできているようだ。
「討伐しようにも本体が体の中で、どうしようもニャいニャ。最悪二人ごと。そんニャはニャしにニャっているいるニャ……」
「そんな……」
「一応顔見知り同士でやりたがる冒険者はいニャいけど、これ以上苦しませるわけにもいかニャいニャ」
「ならダメもとで俺がいかせてもらう」
「シロキさん? さっきまで打つ手がないって言ったんじゃ……」
「ああ、俺には打つ手がない」
屋根をおり輪の中に入る。周りの冒険者たちがざわめくが気にしない。
「なんだ、ついてきたのか」
「シロキさんを一人にするとろくなことをしないでしょ。私も一緒です」
アドが俺の隣に並び立つ。
「あの二人を救いたいが、俺には何もできない。俺は無力だ」
無力を噛みしめ話しかける。
「だから、頼んでいいか? あの二人を救ってくれ。ミント!」
俺の言葉に答え、緑の精霊が胸を張って現れる。
ミントが小さな手を二人に向け魔力を放つ。
ミントの魔法により口から伸びた枝が萎れていく。
しかし完全に消滅させること無理そうだ。
「引っこ抜くぞ!」
「はい!」
トレントを掴み引っこ抜く。弱ったトレントは抵抗もできずズルリと姿を現した。
引き抜いたトレントは放り投げて、周りにいる冒険者に任せる。
俺とアドはそれぞれ寄生されていた冒険者の容態を確認する。
「ゲホッ! ガハッ!」
「ハアハア……」
それぞれせき込み、息が荒いが徐々に顔色も戻ってくる。
どうやら最悪の状況からは脱したようだ。
安堵の胸をなでおろすと、周囲から歓声が響いた。
年末年始は更新できないので、それまでできるだけ頑張らねば。
もうすぐ第二升も終わるはず。
果たして年内に終わることができるのか!




