第58話 ゾンビトレント
ゾンビパンデミック系の映画や漫画を見ると、無根拠に自分なら生き残れると思っていたが、実際にゾンビに相対したらそんなあまい考えは吹き飛んだ。
まず臭いがダメだ。
現代日本じゃまず嗅ぐことのない腐肉の臭いをまき散らしながら近づいて来るゾンビたちには近づきたくもない。
さらに蛆が湧いており触れるなんてもってのほかだった。
俺もアドも引きつった表情のまま腰が引けていた。
近づかれる前にやるしかない。
「燃えろ!」
ゾンビに火の魔法を放つ。
命中した炎は黒い煙を上げてゾンビたちは燃え広がっていく。風下でよかった。ゾンビの燃えた煙なんて吸い込みたくないからな。
「きいてますね! じゃんじゃん焼いちゃってください!」
アドも火の魔法を使えるはずなので一緒に焼いてほしいというのが本音だが、ゾンビの相手を婦女子にさせる訳にもいかない。
近づく三体のゾンビはあっさりと焼け焦げ地面に倒れて動かなくなる。ゾンビに根を張ったトレントも同時に沈黙する。
「あっさりと終わりましたね」
「まだ地面に眠ってるだろうけどな」
他にいるであろうトレントは、いまだに地面に隠れたまま出てこない。
「ばれていないと思っているのか、それとも近づいたら襲い掛かってくるつもりなのか……」
「他の場所も気になりますし、早く討伐したいところですが」
アドも踏み込む勇気は持てないようだ。
「しゃあない」
虎穴に入らずんば虎子を得ず。墓地に足を踏み入れなければゾンビ討伐はままならない。
覚悟を決めて墓地に足を踏み入れる。
「私も行きます」
慌ててアドも後ろからついて来る。
「とりあえず、通路は大丈夫のはずぅぅぅう!」
「ひぃいぃ!」
油断していたところに足もとから何かが飛び出してきた。みっともない声を上げつつも、触れられる前に飛びのくことに成功する。
アドもぎりぎり避け墓石の上に退避していた。
「シロキさん遊んでないで何とかしてください!」
墓石を踏みつけるのはさすがに気が引けたので、逆立ち状態で墓石の上に避難したのだがアドの目には遊んでいるように映ったらしい。
「遊んでいるわけじゃないんだけどな!」
墓石の下からゾンビの手が生えて来るがこれは予想済み。ほかの墓石に飛び移る。今度は申し訳ないが墓石を踏ませてもらう。
事態が終息した後に、お酒をお供えするので許してください。
墓石を飛び移り続けると次々とゾンビが現れ俺を囲い込む。
「しっかし数が多いな! まとめて焼かないと魔力足りないぞ! 何かいい案はないか?」
「何かって……。あ! いいものがありました!」
そういってアドは空間収納から何か取り出した。
「これで一網打尽です!」
投げ網だった。
アドは見事に投げ網を放り投げる。その軌道はすべてのゾンビを巻き込む軌道であった。
「俺を巻き込むなぁああ!」
ゾンビたちのど真ん中にいた俺は必死に投げ網の範囲から飛びのく。
ゾンビと一緒に捕獲されそうになったが、ぎりぎりまで俺がひきつけたおかげで一匹残らず網の中にとらえることができた。
「これで終わりです!」
アドが火の魔法を放ちゾンビたちに燃え広がる。
ゾンビたちは身をよじりが網から逃げようとするが、ほとんどが無駄な足掻きに終わる。運よく網から逃れたゾンビは俺がこんがり焼いておいた。
「終わったか?」
網でとらえたゾンビがすべて焼け焦げ動かなくなり、俺は一息つく。しかしアドの表情は晴れなかった。
「まだ土の中にいます」
「あれで全部じゃなかったか……」
残りのトレントをおびき出すために墓地を歩いてみるが、
「今度は全く出てこないか……」
土の外に出てきたらやられると学習したのかトレントは動きを見せない。
掘り返すとなるとかなり時間がかかる。薬剤師ギルドのほうはともかくもう片方のことを考えると早く終わらせたいのだが、ここを放置していくわけにも行かない。
打つ手なし。
トレントが動くのを待つしかないかと思ったとき、俺の右肩にディーゼルが現れた。
ディーゼルは両手を地面に向ける。小さな両手が茶色く光ると同時に墓地の土が一斉に掘り返された。
土の中に隠れていたトレントの姿がむき出しになる。
「ディーゼル! サンキュー! それにしてもでかいな!」
これまでの枝とは規模が違う。
墓地にある死肉をあさり、巨大に成長したトレントが体を起こして俺たちを見下ろしていた。




