第56話 室内戦
前回に引き続きアド視点のまま進みます。
「逃がしたらまずいな!」
「はい! 外はお願いします!」
「任された!」
シロキさんから受け取った解体用ナイフを手に、ギルドの扉を開く。
「ソーシャさん無事ですか!?」
返事の代わりに返って来たのは、魔物からの奇襲だった。
複数の手足が細長く伸びた、いびつな影が床を跳ねるように私にとびかかって……、
違う。
狙いは私ではなく、外へ逃げようとしている。
解体用ナイフを振るい、足元から抜けていこうとする二つの影を切り裂く。一匹私の頭上から抜けていくが、背後から切り裂く音が聞こえてくる。
きっちりシロキさんが仕留めてくれていることに安堵し、魔物の正体を確認する。
手足の長さから蜘蛛のような魔物かと思ったのだが、
「枝?」
どこにでもあるような木の枝が動いていた。
しかし、ただの枝ではないことを主張するかのように、胴体の洞の中から緑色の魔石が光を放っていた。
植物系の魔物。
毒騒動と未知の魔物の正体が一気につながった。
私たちが森に行った時、魔物はいなかったわけではなかったのだ。目の前に堂々とその姿をさらしていたのだ。
魔物から毒の果実をこのギルドに持ち込んだのは紛れもなく自分たちだという事実に歯噛みする。
だが、まずはギルド内にいる魔物を退治しなくてはならない。
扉の外をシロキに任せ、敵がいる一角に飛び込む。
魔物のほとんどは外に出よう窓を狙って動いており、それに対して冒険者たちは逃がさないよう窓を防衛する形になっている。防衛はシロキさんがいるため魔物の殲滅に集中する。
狙うのはギルド内に併設された酒場に並べられたテーブルの下に隠れている魔物たちだ。魔物たちの中でも警戒心が強い個体なのか、机の天板の裏から冒険者の隙を狙っている。
身を低く、地を這うように走る。
小柄な体格を生かし、テーブルの下に潜り込む。影に隠れ、隙を窺っていた魔物たちが細長い腕を振るってくるが、腕をたたみ小さな動きで切り落とす。狭い場所ではリーチの長さは意味をなさない。
普段は小柄な自分の体を嘆いているが障害物の多い室内戦では圧倒的に有利だ。
不利を悟った魔物たちは机の下から逃げ出し、窓と扉に殺到する。窓を防衛する冒険者が一度に押し掛ける魔物に手を焼く。私もそちらに手を貸したいところだが、一部好戦的な個体が私に新しい攻撃を仕掛けてくる。
自らの体を使った攻撃を切られるならばと、部屋の中にあるものを投擲し始めた。
テーブルこそ投げられないものの、椅子が飛び交い、バーの中から酒瓶も飛んでくる。
攻撃力こそないものの酒瓶が厄介だった。
ビンが割れてまき散らされる飛沫は視界を邪魔し、こちらの動きを鈍らせる。その影響は私だけではなく窓を防衛する冒険者たちにも及ぶ。
「チッ! 逃がしちまった!」
「クソ! こっちもだ!」
飛んでくる物体に気を取られ、魔物を取り逃がす。
窓が破られ魔物は外の外に飛び出していく。だが、それを追えばさらに逃げることが分かっており冒険者達も追うことはできない。
追うのは室内にいる魔物をすべて倒してからだ。
「もうギルドには魔物はいなくなりました」
室内にいる魔物をすべて倒し終え一息つく。ほかの場所にも魔物が発生しているが、ギルドに関しては終わることができた。
「だが何匹か逃げちまった。すぐに追わねえと」
「早く見つけねえと町が騒ぎになるな」
冒険者たちの間違いを一つ正す。
「いいえ、一匹も逃がしてませんよ」
私は窓の外へ視線を移す。
「ああん? なんだありゃ? 水の魔法か?」
窓の外には分厚い水の壁があり、そこには切り刻まれた魔物の残骸が浮かんでいる。
私の相棒がきっちりと仕事をしてくれていたのだ。
私が建物に飛び込んだ時には酒の魔法で建物ごと囲い込みネズミ一匹逃がさない酒の檻ができていた。
泳げない生物ならばそれだけで溺れただろうが、相手は植物。酒に飛び込んだ魔物を水流で手元に寄せて切り刻んだのだろう。
冒険者たちは水の壁が実は酒だということに気づいていない。酒瓶が割れて匂いが充満しているのが功を奏したようだ。
「ってことは、逃げたのはいねえってことかそれなら安心……」
「できニャいニャ」
冒険者の言葉を遮り、ソーシャさんが否定する。
「この魔物はあの毒の果物から生まれたニャ。この果物はうちだけじゃなくて薬剤師ギルドのほうにもあるニャ」
「悪いことにあと何か所かにあの魔物は発生してます。ええと、全部で三か所にそれぞれ固まっています」
「薬剤師ギルドの他に果物は持ち込んでいニャいはずニャ。誰かが町に持ち込んでいたりしたのかニャ?」
とりあえず方角だけでも伝えればどこに発生したかわかるかもしれないと、方角を指さすが心当たりは薬剤師ギルドしかないらしい。
「ニャ、とにかく今いる人たちで手分けして解決を図るニャ」
ソーシャさんに詳しい指示を受け、私たち二人も現場の一つに走ることになったのだった。
戦闘描写というのは、難しいですね。




