第48話 遅々として進まず
奇をてらった依頼を受ける意味もなかったため、どこにでもあるDランクのゴブリン討伐を受けることにした。
「他に受けないのかニャ?」
「まあ、常時依頼を複数受けてもあまり意味もないんだろ?」
「それもそうだニャあ」
今回見せてもらっている常時依頼はゴブリンの討伐や薬草の採取など、常に出しっぱなしにされているような依頼だ。討伐部位や素材を集めれば事前に依頼を受けていなくても報酬をもらうことができる。
そうでない依頼の場合は基本依頼を受けたものにしか報酬は渡されない。きちんと依頼を受けて素材を集めたのに、他の人に横取りされた。なんていうことがないように事前に引き受けたものが優先されるようになっているのだ。まあ、誰も引き受けていなければ常時報酬と同じように事後報告でも可能なのだが。
そういう背景もあって常時依頼はそうでない依頼と違い、討伐部位や素材を把握していればわざわざ引き受ける必要のない依頼なのだ。
ただし、何も引き受けずに町を出ると、冒険者がどこで何をしているのか全くギルドが把握できなくなる。常時依頼をわざわざ受けるというのは行先を告げる意味合いがある。
「ニャんにしても気を付けて行って来るニャ。行方不明にニャるニャよ」
「戻ってきたら顔を出すよ」
「それじゃあ、行ってきますソーシャさん!」
ギルドを出て向かうは近くにある森。
危険な魔物が出現し始める場所故にEランク冒険者には依頼がいかない場所だという。
「しっかし、どうしたもんだか。結局のところ何にもわからなかったな」
町を出て、周囲に人がいなくなったところでアドに話しかけていた。
「わかるとも思っていなかったんですよね」
「そりゃあ巧みな話術で重要な情報を引き出せたり、少ない情報から共通点を見つけられたりしたら良かったんだが、世の中うまくいかないな」
そもそもギルドが怪しいなどと言っていたが、全く的外れな可能性だって大きいのだ。
「とにかく依頼をこなしてみるか、犯人から何かアクションがあれば、もうけもんだな」
「犯罪者に狙われて喜ぶって、変態ですか」
「毒を混ぜられたならミントとパナシェが、空気中に毒を撒かれてもシャンディーが対応できる。直接狙われてもアドなら事前に気づけるだろ。あえて問題点を挙げるとするなら俺がやることがないことだけだな」
今回、町に残ってこの事件に対応する決断をしたのには精霊が毒判別の判別ができること、そしてアドの小人族の特性によって奇襲に強いということにある。
小人族の特性を詳しく聞いたところ、自分に殺意や敵意をもって行動する者に対して反応するらしい。
人に敵意を持つ魔物にはかなり敏感に反応するらしい。
クランに入るときには反応しなかったのか聞いたところ、下心までは見抜けなかったとのこと。
「もし敵が来たら少しは活躍できるだろう」
俺には心強い肉体強化の魔法があるからな。
「あ、シロキさんは肉体強化の魔法は禁止ですからね」
「え?」
「強いのは分かるんですけど、調整を間違えたら倒れる魔法に頼っていられませんよ」
アドの言い分は分かる。
ゴブリンたちの時は、ボスを倒したおかげで他の奴らが散っていったからいいものの、ほかの魔物が通りかかっていたら、ゴブリンが戻ってきたら、それだけで終わっていた。
「……肉体強化なしかぁ。酒も使う気はないし」
あれ、そうすると俺は役に立てなくないか?
「あと肉体強化って言ってますけど、何か恰好良い名前を付けたりしないんですか?」
「あー。名前かぁ」
必殺技のように名前をつけようと思ったことはある。
ただ、ものすごい威力を発揮できるものの所詮肉体強化。仰々しいオリジナルの名前を付けるには気が引けた。そして既存の魔法は特定の能力をアップするものばかりなのでピンと来ない。
「候補を挙げるとするとブーストってところか」
「ブースト?」
「強くするとかそういった意味合いだな」
「なかなか格好いいじゃないですか。何かダメなんですか?」
「どこか格好良すぎるというか、後でぶっ倒れたりするのにどうかと思ってな」
「別にいいじゃないですか。わざわざ恰好悪い名前を付けるほうがどうかしてますよ」
その主張はもっともだった。もう少し考えて見ることにしよう。
☆
肉体強化の魔法の名前を考えつつ、目的の森の前まできたところでアドが足を止めた。
「どうした?」
「ええっと、森に何かいますね」
アドは歯切れが悪く答えた。
「なんとなく、危険な魔物がいる感じがします」
森に魔物がいることは最初からわかっていることである。ただし、いるのはDランクでどうにかなる程度の魔物のはずだった。
実際ギルドで確認した依頼の中に危険な魔物はいなかった。
「とするとまた進化とかしてるのか?」
「たぶん違うと思います」
ゴブリンの時のように進化とかしているかと考えたが、どうやら違うらしい。
「小人族の特性だと魔物の種類までわかるのか?」
「いやいや、そこまで便利なものでもないですよ。魔物種類まで正確に当てられるなら、プチコボルトの時に当てられましたから」
そういえばあの時も何がいるとしか言えていなかったな。
「そうですね。危険なものが魔物が人かくらいならはっきりと判断できます」
「充分便利だな。で、今回は危険な魔物か……」
「ええ、今回はちょっと強いと思います。ただちょっと変なんですよ」
「変?」
「人間に感じるものではないのは間違いないんですが、私が出会ったことのある魔物の種類とも離れているんですよ」
「……魔物のような何かだってことか?」
キメラとかじゃないだろうな。
「私が出会ったことのない魔物っていうだけだったらいいんですけど。未知の魔物や生物となると危険だと思います」
しっかし、本当にこの町で何が起こっているのか分からない。毒殺事件と未知の生物。つながりがあるのか分からないがとにかくできることをやっておこう。
「とりあえず。戻ってソーシャさんに何かいるとだけ伝えておいたほうがいいか」
プチコボルトの時はそれで説教を食らったしな。
俺たちは報告のために町に戻ることにした。
森に入る前に引き返す俺たちを、他の冒険者たちが臆病者と嘲り笑っていた。
作中でブースト=強くすると出していますが、正確には引き上げる、押し上げるといった意味です。
電化製品に使われるブースター=増幅器と考えると、強くするという意味とはやはりズレています。ただ、横文字を辞書を使わずに日本語に直そうとすると間違えることが多々あると思います。辞書もネットもないシロキの状態で正確な訳をできないよね。っと言った話。
なお、鯨七号はブースターよりシャワーズのほうが好きです。




