第39話 薬湯
貴重な入浴シーンだー!
女の子にあーんされるという、これまでにない経験をしたあと家に戻ると、ゴコウさんが帰ってきていた。
『今帰ったぞ。ん、ずいぶんとピアと仲がいいようじゃが何があったのかの?』
どうやらコボルトやゴブリンの話も知らない様子だったので先ほどあったトラブルも含めてアドに説明してもらった。正直ピアちゃんのことを客観的に話してもらいたいという理由もある。
『なるほど、よく生きておったの』
ああ、やっぱりゴコウさんから見ても死んでておかしくない状況だったようだ。
実際あの時に酒のスキルがなければ、間違いなく死んでいた。
『ところで、使わなかったポーションはあるかの?』
ポーションのほとんどをアドが持っていたのでそれを出してもらう。ちなみにポーションはほとんど使っていない。ゴブリン戦の後はポーションを飲むことなどとてもできなかったからだ。
『劣化しとるのう。それでもいいほうじゃな。使うぞい』
そういってゴコウさんは店の奥に引っ込んでいく。そして何かを調合し始めた。アドや俺の作ったポーションをベースに何やら追加していっている。
「シロキさんのための薬ですかね」
「俺用?」
「結構、無理してますよね。今朝の畑仕事だって体調の確認のためでもあったんでしょう?」
「わかるか?」
「そりゃあ、いつもむやみに張り切って耕してるのに、今日はかなりゆっくりだったじゃないですか。今も右腕なんかは相当きついんじゃないですか?」
心配させないように、畑に出たという理由もあったが、それが理由で完全にばれていたようだ。
しかも、チンピラたちとの戦闘で再び負担がかかったことまでばれている。
ああ、だからピアちゃんにくっつかせたのか。
『準備できたぞい』
ゴコウさんに呼ばれて、声のほうに行く。いつの間にかゴコウさんは調合室ではなく風呂場にいた。
「薬湯?」
湯船の中に見覚えのない葉が浮いている。爽やかなミントのようなにおいはポーションのものだった。
『うむ。特別に調合した薬湯じゃ。ずいぶん無茶をしたようじゃからな。骨身にしみるぞい』
ゴコウさんに勧められるままに、薬湯につかる。もちろんくっついていたピアちゃんには離れてもらって、一人ゆっくりとつからせてもらっている。
疲れと共に口から力の抜けた息がでる。
「極楽極楽」
さすがゴコウさん。
普通に風呂に入るよりも明らかに体が癒されていることが分かる。
ただし、しばらく湯船につかっていて気づく。いつの間にか全身に違和感が広がり。
「あ、これやばい」
思わず声が出た。
☆
side アド
シロキさんがお風呂に行ってから私たちはテーブルに座っていた。
ピアちゃんはゴコウさんが家に帰し、今この家にいるのはいつもの三人だけだった。
「世の中には平気な顔で無茶をする奴がおってな」
唐突にゴコウさんが口を開いた。
「そういうやつはたいてい無茶をしている自覚がなくて手に負えぬ。言っても聞かぬしのう」
「シロキさんは自分から無茶しに行っているわけじゃないと思いますけどね」
ゴコウさんは目を閉じ、続ける。
「そうかもしれんの。ただ無茶をすることを覚えると、自然と当たり前になっていき、いつの間にか体を壊し、命を削る」
幾度となくそういった人たちを見てきたのだろう。その言葉には重みがあった。
「シロキがそういった者たちと同じようになるかはわからぬ。ただ、警告だけはしておこうと思ってのう」
「そうはいっても、シロキさんここにいませんけど……」
「うむ。そういった者たちには言っても聞かぬからのう。体でどれだけ無茶をしたか覚えてもらっておる」
「どういうことで――」
「あがががががっががががががあがが!」
お風呂場から奇声が聞こえてきた。
「シロキさん?!」
あまりの声に何事かと席を立つが、ゴコウさんは落ち着いた様子で、
「思ったより効いておるようじゃの」
などと言っている。
「ゴコウさん! シロキさんが! 何が!」
「落ち着きなさい。そういう薬じゃ」
慌てて言葉になっていない私の言葉に、ゴコウさんは落ち着いて答えた。
「無茶をしただけ体に効く薬でのう。これをするといくらか無茶をしなくなる」
思わずお風呂場に突撃しそうな私を押しとどめ、
「心配しておるなら聞いてみるといい。答えることができる余裕はあるはずじゃ」
「シロキさん! 大丈夫ですか?!」
「ががっがあがああだだっだっだだ、いいいいっじじじっじじいじお、おおおおおっおおぶううぅううう!」
「とても大丈夫には聞こえませんよ! ほんと死ななないですよね?!」
「死なぬよ。流石に儂もそんな薬は作らんわい。ただ……」
「ただ?」
「溺れたら死ぬの」
ちょ!
「儂が見てくるから待ってなさい」
そういってゴコウさんはお風呂場に入っていった。
私は一人、シロキさんの叫び声を聞き続けていた。
サービスシーンとは言っていない。




