第38話 それぞれの心境
今回は当社比二倍!
元が短いのでお得感はそんなにないかもしれないですが。
俺はヒーローにあこがれていた。
悪しきを倒し、弱きを救う。
そしてちやほやされたい。
こちらの世界にきてそんな欲望は間違いなくあった。だからこそ、今の状況は複雑な心境だった。
確かに俺は悪しきを倒し、弱きを救った。その上でちやほやされている。
ただし、それは結果だけだ。
最初に動いたのはアドだ。
俺は前回と何も変わっていない。変わったのは少し強くなったというだけのこと。
強くなったのがアドであれば、この場所に立っているのはアドだっただろう。
だからこそ。
「居心地が悪いな」
「その割に顔が緩んでますよ」
「そりゃあ仕方がない」
俺も男だ。腕にかわいい女の子がくっついていたら頬も緩むさ。しかも胸がデカい。
仕方がないんだ。
「っていうか、何でこんなにピアちゃんに懐かれてるんだよ」
「そりゃあ、二度も変態から守ってもらえたら白馬に乗った王子様のように見えるんじゃないですか?」
正直振り払うわけにもいかず困っているのだが、アドは興味ないといった様子だ。
あの戦闘のあと、お礼をしたいというピアちゃんに連れられ牛串屋に来たのはいいものの、ぴったりと右腕にピアちゃんがくっついていた。
俺が困っているのを横目にアドは親父さんが持って来た料理をせっせと頬張っていた。
「ご馳走してくれるっていうんですから食べないと損ですよ」
「おう、腕が動けばな。放してくれるように言ってくれ」
「食べさせてもらったらどうですか? ほら、ピアちゃんが食べさせてくれるみたいですよ」
いや串であーんは危ないから。
どうしてこうなった。
☆
sideピア
私の人生は灰色だった。
幼いころは大きな町にいたというのに、開拓のためにとこんな小さな村に来ることになった。
いや、昔は小さいというものですらなかった。はっきりとゴコウのおじいちゃんの家と畑くらいしかなかったことを覚えている。
そのゴコウのおじいちゃんが父の恩人だったらしく、この村に来ることを断れなかった。というか積極的に引き受けたということだった。
町で仲が良かった友人と離れなくてはならなかったし、通っていた学校も当然やめることになった。
読み書き計算もできない人がいるのでそれだけ勉強させてもらったことは感謝しているのだが、せっかくなら卒業までは待ってほしかったものである。
とはいえ、親の決定を覆すことなどできず、この村についてきた。
別に何か悪いことがあったわけじゃない。ゴコウのおじいちゃんは勉強を教えてくれたし、ほかの住人達もよくしてくれていた。けして悪いものではなかったのだが、街へのあこがれが消えるものではなかった。
代わり映えのない日々を過ごしているうちに、自分ではその毎日から抜け出すことができないことを悟っていた。村から出るのにも護衛が必要な田舎ゆえに、家出することもできない。
そのうち外からくる冒険者に希望を持つようになったが、みんな粗暴なうえに村に残った冒険者はその中でも下品でチンピラだった。
恋する相手すらいない中で、ゴコウのおじいちゃんが店に不審な人物を連れてきた。
そのシロキとかいう人とは言葉が通じない上、ほかの冒険者たちと同じように視線を向けてきた。またどうしようもない男が増えたのだと思った。さらに最悪なことにその男に気を取られている時に下品な冒険者にお尻を触られた。
泣きたくなっていたが、領主の私兵が注意をしてくれた。
若くてかっこいい人だった。一抹の期待を込めて成り行きを見守ったが結局、下品な冒険者にやられてしまった。結局はゴコウのおじいちゃんが冒険者たちを成敗してくれて事なきを得たが、シロキさんは結局何もしていなかった。
だからシロキさんには何も期待せずに過ごしていたのだが、ゴコウのおじいちゃんには気に入られているようだった。
ゴコウのおじいちゃんを取られたようで気に喰わなかった。そんな時、シロキさんが店のエールに何かを入れていた。失礼な話だ。うちのエールがまずいと言っているようなものだったので、文句を言ってやる。そう思っていたのだがゴコウのおじいちゃんが「飲んでみなさい」というので仕方なくそれを口にする。
「あ、おいしい」
思わず口に出た。もともとお酒は苦手だったのでそんな言葉が自分から出たのが以外だった。村の数少ない食堂の娘としては是が非でもそのレシピを知りたくなり、ゴコウのおじいちゃんにレシピを聞いた上、その場で作ってもらった。
悔しいことにそのレッドアイという飲み物はおいしく、その上冷やしたりレモンを入れたらさらにおいしくなった。
そこに知らない世界が広がっていた。
退屈な日々が少しだけ明るいものになっていたところで、また冒険者に絡まれることになった。
冒険者ギルドの近くに行かないようにしていたのだが、無駄な努力だったらしい。
どうにかして逃げ出そうとするものの囲まれていて抜け出せない。大声で助けを呼ぶにはまだ何もされていないし、この冒険者たちをどうにかできるのはゴコウのおじいちゃんだけだ。
困っていると、助けが来た。私よりも小さな女の子で、私の前に体を張って立ってくれた。それに遅れてシロキさんが来た。
女の子に矢面に立たせる情けない男だったが、私たち二人を逃がしてくれた。
少しだけ見直した。
夜中にいきなりお父さんが呼び出された。
何やら柵の中に魔物が入り込んだらしい。冒険者や兵の人達でどうにかするのが筋だと思って文句を帰ってきた父に言ったところ、最初に魔物を発見したのがアドちゃんたちで体を張って時間を稼いだのがシロキさんだったそうだ。流石にそれ以上文句も言えなかった。
翌日村では結構な騒ぎになっていた。村の中に魔物が入り込むなどと言うことはこれまで全くなかったこととゴコウのおじいちゃんがいなかったせいだ。
また魔物が入ってくるんじゃないかと不安が村に広まっていた。
即座に冒険者たちに魔物の討伐を依頼がされ、下品な冒険者たちはすぐにコボルトたちを退治に駆り出された。
アドちゃんとシロキさんは二人でゴブリン退治に出掛けっていったらしい。
所詮ゴブリン程度。
私はそう思っていたのだが、公開されたダンジョンゴブリンの生首を見てそんな思いは吹っ飛んだ。
この世のすべてを恨むかのような形相をしたそれを見ただけで私は腰が抜けて動けなくなった。
どんなことをすればこんな怪物を倒せるのか、いや、そもそも立ち向かうことができるのか。魔物と戦ったことのない私には想像もつかなかった。
しかしそれをあの人は成し遂げたのだ。
その時にはもう彼を見る目は変わっていた。
またしても冒険者に絡まれた。私ばかりが絡まれる理由は分かっている。この村に若い娘は私くらいしかいないからだ。今はアドちゃんもいるが冒険者たちの性的な対象にならないようでもっぱら私が狙われる。
コボルトを山ほど狩ってきたと自慢げに話す冒険者たちにうんざりして、「コボルトを狩って偉そうにしているあなたたちより、シロキさんのほうがすごい」とつぶやいてし待った瞬間まずいと感じた。
三流冒険者とはいえ実力に自信を持っている冒険者にいうべきではない言葉だ。
「あんなくそ雑魚より弱いだと! ふざけるな! ダンジョンゴブリンを倒したとか吹かしてるようだが、雑魚に倒せる訳ねえだろうが!」
案の定、冒険者たちは烈火のごとく怒りをあらわにした。
腐ってはいても実力のある冒険者だ。
激昂した冒険者たちを止めることができるのはこの村ではゴコウのおじいちゃんだけだ。
ひどい目に遭うことを覚悟し思わず目をつぶった。しかし一向に殴られることはなかった。
「ああぁん! 雑魚がヒーロー気取りか!」
恐る恐る目を開けると二人の英雄が立っていた。特にシロキさんは以前よりも落ち着いた様子で佇んでいる。
「ゴブリン程度を倒していい気になってんじゃねえ!」
前回は足が震えていたのに冒険者の怒号にも動じていなかった。
その安心感から思わずシロキさんの背後に隠れてしまった。
自分のことばかり考えて、動いてしまった罪悪感がある。ただ、
「大丈夫ですよ」
「え?」
アドちゃんが隣でほほ笑んでいた。
「シロキさんは変な人ですけど、すごい人ですから何とかしてくれますよ。応援の一つでもしたらきっと喜びますよ」
「勝ってください!」
シロキさんへの応援の言葉は、冒険者にとっての侮辱の言葉になった。
「俺に勝てると思ってるのかぁ!」
男はこぶしを振り上げシロキさんに殴り掛かる。そして吹っ飛んだ。
一瞬何が起こったのかわからなかったが、シロキさんが殴り飛ばしたのだとすぐに気づく。
あまりの事態にシロキさんとアドちゃんを除いて唖然としていた。
「次にぶっ飛ばされたい人はいますか?」
追い打ちをかけるようなアドちゃんの言葉に、冒険者たちは蜘蛛の子を散らすように逃げていった。
周囲からの歓声があがるが、それから逃げるようにシロキさんとアドちゃんが帰ろうとしていた。
思わずシロキさんの腕をとって引き留める。
「何かお礼をさせてください!」
かけた言葉にシロキさんは困った顔をしていた。言葉が通じないのを思い出しアドちゃんのほうをうかがう。
「そうですね。あんなので報酬をもらうのもなんですし、ご飯でもごちそうすればいいんじゃないですかね。あ、シロキさんはそれで十分かもしれませんよ?」
『それ』が何か分からず首をかしげる。
「かわいい女の子にくっついてもらって、だらしない顔をしてますよ」
見上げれば確かに顔が緩んでいる。
「ああ、ごちそうするついでに食べさせてあげたらさらに喜ぶんじゃないでしょうかね」
☆
sideアド
本当にシロキさんには迷惑ばかりかける。
いまだあの冒険者たちには私は敵わないというのに、後先考えずに前に出てしまった。
その結果がこれだ。
シロキさんの右腕は力なく揺れている。
ゴブリン戦で無茶した体はまだ完全には癒えていなかった。特に剣を振るっていた右腕へのダメージは大きかった。平然と畑仕事に出掛けていたが、右腕をかばっていたことに気づいていた。
だから冒険者たちとの喧嘩が長引かないよう慣れない脅しをした。
逃げてくれて助かった。
早いところシロキさんの腕を休ませるため、家路に就こうとしたところでピアちゃんがシロキさんを引き留めた。
これはこれでシロキさんの腕を休ませることが出来そうだった。
おそらく次回で十万文字突破しそうです。
話が進んでいるかといえば微妙ですが。




