第37話 英雄?
目覚めた日はまるまる休ませてもらったものの、翌日には通常営業に戻らせてもらった。
筋肉痛が二日後から来ていようが、動けるのならば働かなければ。
「ということで、畑を耕しているんだがなんか見られてないか?」
畑の外から遠巻きにこちらを見ている者たちが何人もいる。
「そもそも畑仕事が通常営業って言うのがずいぶん間違っている気がします。あの人たちは英雄を一目見ようと集まった人たちですよ」
「英雄? 誰が?」
「そりゃあシロキさんですよ」
「いや、なんでそうなる」
「たった一人であれだけのゴブリンを倒したんですよ。そりゃあ英雄視もされますよ」
「おい、なんで俺だけの手柄みたいになってるんだ?」
「事実じゃないですか。私は死にかけのゴブリンにとどめを刺しただけですし」
「それを言うなら俺はアドがいなかったらぶっ倒れて死んでたと思うんだが」
いや、そもそも俺一人ならあの状況ではゴブリン退治に行こうともしなかっただろう。そんな人間を英雄視されても、困るというのが本音だ。
「そのうち噂も消えるだろう」
「そんな呑気な」
もっとも噂が消えなかったら消えなかったで問題はない。英雄視されていようと、日常生活に変わりはないからだ。もし俺のことが気にかかって声をかけてきたとしても、俺はまだこっちの言葉が分からない。意思疎通がまともにできないと分かれば人は離れていくだろう。
「そういえば、コボルトのほうはどうなってるんだ?」
「まだ戻ってきてないらしいですよ。まじめにやってればいいんですが」
「そっちも変異種とかが大量発生とかなってなければいいんだが。あんな状況はもう御免だ」
「さすがにああいった事態は珍しいんですけどね。養殖行為をしたとしても、簡単には変異したりしないですから。ダンジョンゴブリンが発生しているなんて考えもしなかったんですから」
「とりあえず、仕事が終わったらギルドに確認してみるか」
「ですねー」
周りで見ていた人たちは、俺が畑を耕しているだけだということに飽きたのか自然と減っていった。
畑仕事が終わるころには一人も残っていなかった。
これは噂が消えるのも早いかもしれない。
道具を片付け、ギルドに向かう途中、急にアドが走り出した。
以前にも何か似たようなことがあったなと後について行くと、また同じような光景が広がっていた。
牛串屋の娘がまたチンピラ冒険者たちに絡まれていた。
ただし以前とは違いそこを取り巻く空気が緊迫していた。
男たちは怒鳴り威圧し、明らかにただ事じゃない。流石に他人事だと放っておくわけにはいかなかった。
「何をあんなにぶち切れてるんだか」
「あー、ピアちゃん……。シロキさんのほうが強いとか言っちゃったみたいです」
「全然他人事じゃなかったか」
というかなんでピアちゃん? は俺をそんな風に言ったんだか。
以前俺がボコボコにされたことを忘れたわけではないだろうに。
とりあえず、チンピラたちが怒っている理由は分かった。
彼らにとって力こそがプライドであり、すべてなのだろう。
近づく俺にチンピラたちが気づき、俺をにらみつけてくる。
今回は以前とは違い軽くボコるだけで済ます気はないようだ。
俺に対して何か怒鳴っている。言葉が通じないためわからないが、大方「ゴブリン程度を倒していい気になってんじゃねえ!」と言ったところか。
そしてピアちゃんが俺の後ろに回りこんで叫んでいる。俺を応援しているのかチンピラを挑発か分からないが、その声を合図にリーダー格の男が殴り掛かってきた。
ちょっ!
俺の真後ろにピアちゃんがいるというのにバカか!
反射的に肉体強化の魔法をまといカウンターの拳を放っていた。
「やべぇ。加減を間違えたか」
肉体強化の魔法はかなりの格上にも通用する反則的な魔法だ。レベルが上がった今、対人戦に使うには過ぎた代物だ。
現に顔面に拳を食らったチンピラは縦に回転して飛んで行った後地面に突っ伏してピクリとも動かない。
さすがに周りのチンピラたちもやばい状態だと思ったのか、リーダーを抱えて逃げていった。
死んでないよな……。
俺の心配をよそに、周囲の野次馬から歓声が上がった。
皆、チンピラたちの横暴に辟易していたのだろう。
「本当に英雄みたいになっちゃいましたね」
アドの言葉に俺は微妙な表情を返すだけだった。




