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「ずっと覚えていた」最終話

最終話『ずっと覚えていた』


 その夜。


 希美は眠れなかった。


 写真は見つからない。


 母親の言葉も途中だった。


 そして。


 玲のことを考えていた。


 知らないはずなのに。


 知らないままではいけない気がした。


 翌日。


 仕事を休んだ。


 向かった先は川だった。


 写真の裏。


 母親の言葉。


 記憶の欠片。


 全部がそこへ繋がっている気がした。


 夕方。


 川沿いの道を歩く。


 懐かしい。


 そう思った。


 来たことがある。


 何度も。


 なのに。


 どうして忘れていたのだろう。


 風が吹く。


 水面が揺れる。


 その時だった。


 小さな声が聞こえた気がした。


『大丈夫?』


 希美は立ち止まる。


 頭の奥が痛い。


 景色が揺れる。


 そして。


 思い出した。


 泣いている男の子。


 小さな手。


 震える声。


 迷子だった子。


 玲。


希美「……玲」


 呟いた瞬間だった。


 涙がこぼれた。


 忘れていた。


 本当に。


 全部忘れていた。


 あの日。


 玲は泣いていた。


 だから手を引いた。


 交番まで連れて行った。


 ただそれだけだった。


 たったそれだけ。


 なのに。


 あの子は笑っていた。


 嬉しそうに。


 ありがとうと言って。


 笑っていた。


 希美は顔を覆った。


希美「ごめん……」


 忘れていた。


 覚えていてくれたのに。


 自分だけ。


 忘れていた。


 風が吹く。


 振り返る。


 そこに玲が立っていた。


 静かな表情だった。


 いつもと同じ。


 穏やかな顔。


希美「思い出した」


 玲は何も言わない。


希美「ごめん」


 玲は少しだけ首を振った。


玲「謝らなくていい」


 優しい声だった。


希美「でも」


玲「忘れることは悪いことじゃない」


 希美は唇を噛む。


 玲は笑った。


 本当に。


 少しだけ。


玲「俺が覚えてたから」


 その言葉に。


 希美は泣いた。


 声を上げて泣いた。


 玲は何も言わない。


 ただ隣に立っていた。


 夕暮れの川。


 オレンジ色の空。


 遠くで子供たちの笑い声が聞こえる。


 昔と同じだった。


 何も変わらない。


 なのに。


 もう。


 同じではいられない。


希美「玲」


玲「うん」


希美「ありがとう」


 玲は少し驚いた顔をした。


 そして。


 照れたように笑う。


玲「どういたしまして」


 沈黙。


 優しい沈黙だった。


 風が吹く。


 希美は目を閉じる。


 そして再び開いた。


 隣には誰もいなかった。


 夕暮れだけが残っていた。


 帰り道。


 涙はもう止まっていた。


 空を見上げる。


 綺麗な夕焼けだった。


 アパートへ戻る。


 玄関を開く。


 静かな部屋。


 もう。


 返事はない。


 それでも。


 希美は小さく笑った。


希美「ただいま」


 誰もいない部屋に声が響く。


 けれど。


 なぜだろう。


 少しだけ。


 聞こえた気がした。


『おかえり』


 優しい声だった。


✂︎-----完結------✂︎



しぐれ:帰ってきたら誰も居なくても「ただいまー」って言っちゃいますよね。

拝読頂きありがとうございました

今日も一日お疲れ様でした!

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