「ずっと覚えていた」第五話【 覚えている】
第五話『覚えている』
翌朝。
希美は写真を見つめていた。
昨夜見つけた一枚。
幼い自分。
そして。
玲という名前の男の子。
何度見ても思い出せない。
こんな子いただろうか。
こんな顔だっただろうか。
分からない。
記憶の中にいない。
それでも。
胸の奥が妙にざわついた。
玲「何見てるの?」
声に驚いて振り返る。
玲だった。
いつの間にか後ろに立っている。
希美「うわっ!」
玲「ごめん」
全然悪びれていない。
希美は写真を差し出した。
希美「この子知ってる?」
玲が写真を見る。
その瞬間だった。
玲の表情が止まる。
本当に一瞬だけ。
だが確かに止まった。
玲「……誰?」
玲はそう言った。
けれど。
希美は初めて思う。
今、嘘をついたような
そう感じた。
希美「知らない?」
玲「知らない」
玲は写真を返した。
いつもの表情。
いつもの声。
なのに。
何かが違った。
その日の午後。
希美は実家へ電話を掛けた。
母親が出る。
希美「昔さ」
母「どうしたの?」
希美「玲くんって子いた?」
少し沈黙があった。
母「あら」
母は懐かしそうに笑った。
母「いたわねぇ」
希美の鼓動が少し速くなる。
希美「どんな子?」
母「よく遊んでたじゃない」
希美「え?」
母「覚えてないの?」
覚えていない。
本当に。
何も。
母は少し考えていた。
母「確か川で――」
その時。
電話が切れた。
画面を見る。
圏外でもない。
電池もある。
なのに切れている。
希美「え?」
掛け直そうとした。
だが。
玲「希美」
後ろから声がした。
希美は振り返る。
玲が立っている。
静かな表情。
いつもと同じなのに。
なぜか少し怖かった。
玲「夕飯何食べたい?」
あまりにも自然な話題だった。
希美は数秒黙る。
希美「……カレー」
玲「分かった」
玲はキッチンへ向かった。
何事もなかったように。
希美はスマホを見下ろした。
胸の奥がざわつく。
偶然。
たぶん偶然。
そう思おうとした。
だが。
夜。
眠る前。
ふと気付く。
写真がない。
テーブルに置いたはずだった。
どこを探しても見つからない。
希美「……あれ?」
小さく呟く。
その声に答える人はいない。
リビングは静かだった。
ただ。
窓の外の風だけが揺れていた。
第六話へ続く▶︎▶︎▶︎




