「ずっと覚えていた」第三話 【 居候 】
第三話『居候』
翌日。
仕事を終えた希美はアパートへ戻ってきた。
正直なところ。
昨日の出来事は夢だったのではないかと思っていた。
知らない男が家にいた。
考えれば考えるほど現実味がない。
玄関の前で立ち止まる。
鍵を開ける。
ドアを開く。
少しだけ緊張した。
「ただいま」
返事はない。
ほっとした。
やっぱり夢だったのだ。
そう思った瞬間。
玲「おかえり」
部屋の奥から声がした。
希美「ひっ!?」
思わず変な声が出た。
玲はキッチンに立っていた。
エプロンをしている。
意味が分からない。
希美「なんでいるの!?」
玲「約束したから」
希美「何を?」
玲「今日帰ってくるって」
希美「そんな約束してない!」
玲は首を傾げた。
本当に不思議そうだった。
玲「でも帰ってきた」
希美「それは私の家だから!」
正論だった。
玲は少しだけ黙った。
そして。
玲「それもそうか」
納得した。
納得するところが違う。
希美は頭を抱えた。
昨日より疲れている気がした。
テーブルを見る。
夕食が並んでいた。
味噌汁。
焼き魚。
ほうれん草のおひたし。
妙に美味しそうだった。
希美「……これ誰が作ったの?」
玲「俺」
希美「なんで?」
玲「お腹空くと思って」
悪びれる様子はない。
本当にない。
希美は言葉を失った。
この男。
距離感がおかしい。
なのに。
悪意もない。
余計に困る。
玲「食べない?」
希美のお腹が鳴った。
最悪だった。
玲が少し笑う。
希美は観念した。
希美「……いただきます」
焼き魚を口へ運ぶ。
美味しかった。
悔しいくらいに。
玲「どう?」
希美「……美味しい」
玲「よかった」
その笑顔は年相応だった。
十八歳の。
少しだけ安心したような笑顔。
希美は箸を止めた。
ふと思ったのだ。
この子は。
本当に何者なのだろう。
どうして自分の家にいるのだろう。
どうして。
こんなにも自然に笑うのだろう。
その疑問に答えられる者は誰もいなかった。
第四話へ続く▶︎▶︎▶︎




