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祈りを繋ぐもの  作者: 和穂ゆう
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八咫鏡の真理5~人と宇宙の調和

第一章 再開の刻


朝霧が出ている頃から始まった講義は、タチカラヲやハルナからの質問もあり、昼を過ぎてからも続けられていた。陽光が御殿の格子から差し込み、床に細やかな光の筋を描いている。人々の熱心な眼差しは一つも緩むことなく、アマテルカミの言葉を待ち望んでいた。


「さて、再開しましょう」


その笑顔は春の陽だまりのように温かく、集まった人々の心に安らぎをもたらした。

すると、アマノコヤネが居ずまいを正し、両手を膝の上に丁寧に置いて発言した。その声には深い探求心が込められている。


「今までの話を聞かせて頂いていると、人と大宇宙には密接な関係があることが判ります」

アマノコヤネは一呼吸置いて、周囲を見渡した。他の者たちも同じ疑問を抱いているようだった。


「では、人の構成と大宇宙の構成との関係についてはいかがなのでしょう? また、アメミヲヤ様からの守りが人には有ると言われておりますが、その構成とどのように関係するのでしょうか?」


この深遠な問いに、アマテルカミは目を細めて頷かれた。そして、ゆっくりと言葉を紡ぎ始める。

「そうですね。人と大宇宙との関係について考えてみましょう」


アマテルカミは立ち上がり、窓辺へと歩を進められた。外には青々とした空が広がっている。



第二章 人体と宇宙の照応


「そもそも人の形態は、大宇宙の形になぞらえて創られているのです」

アマテルカミの声は静かだが、力強い確信に満ちていた。人々は息を呑んで耳を傾ける。


「ヒトの頭上に広がる空は、大宇宙での遠大な宇宙空間に相当します。ヒトの目と鼻は、大宇宙での太陽と月と星に相当します」


「なるほど...」とタチカラヲが小さく呟いた。その目は驚きと理解の光に満ちている。


「五臓と六腑は、大宇宙での地球に位置します。また、五臓と六腑のそれぞれの臓器などは、国を治めるミチにも該当するのです」

アマテルカミは手を胸に当てられた。


「心臓はアマキミに相当します。肝臓は指導者に相当します。脾臓は一般国民に相当します。肺は剣の臣、すなわち右大臣に相当します。腎臓は鏡の臣、すなわち左大臣に相当します」


ハルナが目を見開いて尋ねた。

「臓器と国の役割が対応しているということでございますか?」


「その通りです」アマテルカミは優しく微笑まれた。

「それで、目付けの働きの腎臓である鏡の臣から、悪事は人の意識に告げられるのです」



第三章 身体の調和と心の在り方


アマテルカミは再び座られ、より詳しく説明を続けられた。秋風が静かに吹き抜け、人々の衣の裾を揺らしている。


「肺である剣の臣の前に構える程の寒暖があったとします。そうしましたら衣服によって防御します。でもその心地よさに浸っているとそこに頼りっぱなしになってしまいます。それは油断や慢心を招いてしまう事になります」


タチカラヲが真剣な面持ちで頷いた。


「心地の良すぎは、脾臓である一般国民が貪りに陥って心を刺してしまう悪影響があるのです。つまり、ムラト――腎臓・鏡の臣の息吹は、春の頃の生まれ発展する関係や物事となります。このムラトのイキが過分に巡ると、男女関係に捉われ過ぎて肉体を消耗し過ぎてしまいます」


「では、どのようにバランスを保てば良いのでしょうか」アマノコヤネが問うた。


アマテルカミの表情が一層穏やかになった。

「これら、全体のバランスを上手く保つことが重要です。これに役立つのが、八咫鏡なのです」


人々の間にざわめきが起こった。八咫鏡――その神聖な鏡の名が、新たな意味を帯びて響く。



第四章 八咫鏡の真髄


「人は大宇宙の形になぞらえて成り立っていますから、その元の形に整えれば良いのです」

アマテルカミは両手を広げて、まるで宇宙全体を包み込むような仕草をされた。


「ヒトの身体の中心である心臓に悪影響を及ぼさないために、心を整える為の八咫鏡です。心臓の形は心の鏡なのです」


ハルナが身を乗り出した。

「では、八咫鏡は心を映す鏡ということでございますか?」


「そうです」アマテルカミは深く頷かれた。

「誰にも見られていなくても、盗みなどの悪事を働いてはいけません。それは自分自身の成り立ちの元のところでは解るわけでして、やがて、悪影響が自分自身の身体に現れ来るのです」


アマテルカミの声は厳かになった。御殿の中に静寂が満ちる。

「誰に見られていなくても、誰に知られていなくても、やがては露見します。世の中には本人の心によって知れます。ハニ――地面には歩く足からバレてしまいます。ヒトにも告げられて知れ渡ってしまいます」


タチカラヲが息を呑んだ。「三方向の報知...」


「その通り」アマテルカミは指を三本立てられた。

「この三方向の報知の事から、社会的なヲヲヤケでの罪になってしまいます。そうしましたら、最早逃れるすべはないのです」



第五章 カガミの名の由来


アマテルカミは立ち上がり、再び窓辺へと歩まれた。西日が御殿を照らし、金色の光が床に落ちている。

「常に、心して下さい。いつも、何らかの事からでも露見はするものです」


その声には深い慈愛が込められていた。

「太陽の巡りのある日中は明るいので、人にもすぐに悪事は知られます。それで『カガミ』の『カ』は、隠し事を照らし出すという意味となります」


「では、『ガ』は?」アマノコヤネが尋ねた。


「夜には何処でも見渡せる明るさがありません。それで『カガミ』の『ガ』は、夜の暗闇で隠される自分自身の内側の欲を映し出すという意味となります」


ハルナが深く息を吐いた。その顔には感銘を受けた様子が浮かんでいる。


アマテルカミは優しい眼差しで人々を見渡された。

「問題が起きないようにと温かな気持ちで見つめるのが、アメミヲヤ様のアメの心です。それが『カガミ』の『カ』で隠し事を照らし出すものです」


「歩き方がおかしいと地面に響いて知れるのは、光の通らない所に知れるわけです。これは暗闇で隠される事ですから『カガミ』の『ガ』で、夜の暗闇で隠される自分自身の内側の欲です」


タチカラヲが深く頷いた。その目には理解の光が宿っている。


「それら人知の及ばぬところのモノが、ヒトの身体を通して世の中に知れ『見』られるのです。こう言う意味で『カ』『ガ』『ミ』の三つを合わせて『カガミ』と名付けたのです」



第六章 ヤタカガミの深意


アマテルカミは座り直され、より深い教えを語り始められた。人々は身じろぎもせず聞き入っている。


「更に『カガミ』には『ヤタ』と名付けたのです。『ヤタカガミ』です」


「ヤタとは?」ハルナが小さく問うた。


「この意図するところは、国民の平均身長の意味での『ヤタ』と重ねて、もう一つの意味があります」

アマテルカミの声に力が込められた。


「アマキミが『ヤ』の『ヤシロ』の首都にいて、国民全体の『タミ』の『タ』に幸せをもたらすために照らそうとします。国家を建て国民に恵みを及ぼし、治安を維持して政事を執ります。全国の四方八方全てを照らし恵もうとする心から『ヤタ』と言うのです」


人々の間に感動の波が広がった。


「我がキサキのホノコ――セオリツヒメは、この鏡を通じて三つの事に気が付きました」


アマテルカミは指を折りながら説明された。

「一つ、心身を正しく整った状態であることを確認できる。二つ、成長・改善し更により良い状態になった事を確認できる。三つ、そうしたことで天から様々な恵みを授かる事が出来る」


「そうして徐々に学びを深める行動が『八咫鏡』を通して出来る事に気が付き、この地に設置をしました。この事を皆が知って活用することを強く願っています」


アマテルカミはにこやかにほほ笑まれた。その笑顔は慈悲深く、全ての者を包み込むようだった。



第七章 ハルナの懺悔


昔にはハタレに加わって自分自身もつらい思いをしたハルナは、アマテルカミの言葉に深く感動していた。目には涙が溢れている。


「アマテルカミ様...」

ハルナの声は震えていた。そして堪えきれず、大粒の涙が頬を伝った。


「私は...私は...」

感動のあまり、言葉を取り繕う事も出来ない。地方なまりが出てしまうものの、ハルナは改めて誓いを立てた。


「ハタレの騒ぎの時には、オレも六つの群れの一人として罪を受けたんさ...」

周囲の者たちは静かにハルナを見守った。誰も責める目を向ける者はいない。


「それが許されてからは、もう長い年月を過ごしてきたけれど、心の奥ではずっと大きな悔いや苦しみを抱えてきたんだい」

ハルナは袖で涙を拭った。


「それが今になってようやく、その悔いの玉が割れて崩れ落ちたような気持ちになったんさね」


「ハルナよ」アマテルカミが優しく呼びかけられた。


「もう若いわけでもねぇから直すのはむずかしいかもしれねぇけど、なんとか努力していきたいと思ってるんだ」

ハルナは顔を上げ、アマテルカミを真っ直ぐに見つめた。その目には決意が宿っている。


「それに、これから育つ若い人たちにオレの失敗を知ってもらえれば、同じ間違いに陥らない参考には十分なるんじゃねぇかと思うんさ。今日の学びは、これからの未来の糧にさせてもらうつもりだい」


アマテルカミは深く頷かれた。「その心がけこそが尊いのです」



第八章 タチカラヲの誓い


タチカラヲも立ち上がり、深く頭を下げて申し上げた。その姿勢には確固たる決意が感じられる。

「八咫鏡の精神として『親が子に、指導者が国民に温かく粘り強い指導を行う事が親や指導者の役割り』と言う極めて難解な哲学を、アマテルカミ様からの解説を通して良く理解出来ました」


タチカラヲの声は力強く、御殿に響き渡った。

「更にタマと心身の関連性までも聞くことができ、そのタマと心身の関連性は流れはカカン――心が自然に生まれ、ノン――内に集まり、テン――外に影響し真理が現れる、に基づいていることも理解できました」


アマテルカミは満足げに微笑まれた。

「『カガミ』――隠し事を照らし出し、隠された内側の欲を映すという教えが、とても大切であるとはっきりと納得できました」


タチカラヲは拳を握りしめた。その目には強い光が宿っている。

「これで、妬みや嫉妬が極限まで高まった存在が襲って来ても、もう怖れる事はありません。妬みが束になって欲望の狂犬の様に迫って来ても、本筋が解りましたのでちゃんと対処が出来るように思います」


「タチカラヲよ」アマテルカミが呼びかけられた。「その理解こそが、真の力となるでしょう」


このタチカラヲの誓いの言葉を聞いたアマテルカミも満足げに頷かれた。



第九章 コモリカミの医術への応用


コモリカミ――アマテルカミの曾孫は、静かに立ち上がった。長年の勉学で培われた知恵が、その表情に滲み出ている。


「アマテルカミ様、私は長らく考えておりました事で、ひとつの病気の治療に応用できるかも知れないと気が付きました」


「ほう」アマテルカミは興味深げに身を乗り出された。「聞かせて下さい」


「それは肺の病気です」コモリカミは両手を胸に当てた。「肺は他人への思いやりの気持ちが強過ぎて、自分自身の活力が少なくなってしまい病になると分かりました」


アマノコヤネが頷いた。「なるほど、思いやりも過ぎれば...」


「いくら他人への思い遣りの気持ちが大切だと言っても、自分自身の健康を確保した上での話です。自分自身の健康が基本にあっての上での他者への配慮です」

コモリカミの声には確信が込められていた。


「これを間違って逆転させる事が肺の病の元なのでしょう。これを直せば肺の病からの治癒も出来ると思います」


「素晴らしい気付きです」アマテルカミが賞賛された。


「また他にも病の予防や治療に役立つ事があると感じました」

コモリカミは人々を見回した。その目には医師としての責任感が輝いている。



第十章 心と身体の相関


「ちゃんとした道理を通せば問題は起こらないのですが、つい近道をしようと手抜きをすると問題や病を起こしてしまうものです」

コモリカミの言葉に、人々は深く頷いた。


「欲望の心を鎮めて家業や生業に正面から向き合うのが良いことです。目先の不作で生活が苦しいからと言って悪い仕事や取引をしては、やがては不幸がわが身に返って来てしまいます」


ハルナが小さく呟いた。「まさに私の過ちがそうでした...」


「医術に長年携わって、わたくしは常に思うのです。ヒトの呼吸はこのように有るのだと」

コモリカミは深く息を吸い込んだ。


「それは騙すことをすると、肺にも生殖器や腎臓にも障害を与えます。また盗みをすれば、肝臓に障害が出て来ます。そうしますと心臓が驚き動揺して悪影響を受け、重症な病に至ります」


タチカラヲが驚きの声を上げた。

「心の有り様が、直接身体に影響するのですね」


「その通りです」コモリカミは力強く頷いた。


「今アマテルカミ様の人体成り立ちのお話を承って思ったのです。重症な病に至る前に、ほんの少しの間違いの時に改める事で治療が可能になるからです」



第十一章 予防医学への展望


コモリカミの声は次第に熱を帯びていった。

「小さな間違いが身体などに感応して目鼻や表情に出た時、言葉に出て来た時、呼吸に出て来始めた時に、その者の心に寄り添い、性根を直してあげるようにしたら良いわけです」


「早期に気付くことが大切だと」アマノコヤネが確認した。


「はい。そうしましたら、元気に働くことが出来て豊かに幸せになれるのです」

コモリカミは拳を握りしめた。その顔には使命感が溢れている。


「医術もそうです。病を治すことももちろん大切ですが、病気の予防を図って行く事こそが人々の幸せに寄与します。これからはこの点についても人々を導いて行きたいです。これを強く誓います」

コモリカミは深々と頭を下げた。


アマテルカミはその誓いを聞いて、満面の笑みを浮かべられた。


「あなたの考えはとても良いです」

アマテルカミは立ち上がり、コモリカミの肩に手を置かれた。


「全国各地に巡り見て、人々をより良く指導してやって下さい。元気に楽しく働いてこそ幸せなものです。それで更に豊かにと幸せにと導いて下さい」


「はい、必ずや」コモリカミは目に涙を浮かべて応えた。


「ほんのちょっとの暇を見つけては出かけてやって下さい」



第十二章 イサナギのミウタ


アマテルカミは遠くを見つめられた。その目には懐かしさと尊敬の念が浮かんでいる。

「昔、我が父のイサナギ様のミウタがありました」

人々は息を呑んで聞き入った。


「つちかふは みのあしはらも

みつほなる たみとなせとみ

とみとなれたみ」

アマテルカミの声は朗々と響き渡った。


「意味としては『自分の力を尽くして働き、民を豊かにせよ。民よ、実り多く、幸せな存在となれ』と言うことです」


ハルナが感動の面持ちで呟いた。「なんと麗しい言葉...」


「私達もこうありたいものです」

そう、おっしゃったアマテルカミは、遠く雲の上を眺められた。秋の空は高く澄み渡り、白い雲がゆっくりと流れている。


集っていた人々も、七代アマカミのイサナギの功績の数々を思い出していた。それぞれの顔に、懐かしさと感謝の念が浮かんでいる。



第十三章 イサナギの偉業


アマノコヤネが立ち上がり、人々に向かって語り始めた。その声には深い敬意が込められている。

「イサナギ様の多くのご功績のうちで、特に新田開発の事が想い出されます」


人々は静かに頷いた。誰もがイサナギの偉業を知っている。


「国民の一人一人に心の素直さが大切である事を教え、仕事のやり方も指導して行かれました」

アマノコヤネは手を広げた。


「仕事を共通化することで、人々で協力した大規模な新田開発が可能になり、各家々も栄え発展しました。そして全国規模にも農業生産を飛躍的な増収に導かれたのでした」


タチカラヲが感慨深げに呟いた。「まさに偉大な功績...」


「この時にミウタをイサナギ様がお詠みになって指標になさったのでした」

アマノコヤネの声は更に高まった。


「イサナギ様はおっしゃったそうです。『新田の新規開発には色々な技術や社会的な有機的繋がり方も必要になります。秀でた才能を発揮する人が出たら指導者の臣にしましょう。それが貧しい家の出であったとしても何の障害もありません。必ず私アマカミからの信任状が届くことでしょう』と」

人々の間に感動の波が広がった。


「本当に国民の事を想って自ら行動された偉大なアマキミ様でありました」

アマノコヤネは深く頭を垂れた。



終章 感謝と決意


その場に居た人々は、イサナギやアマテルカミのして下さった事が本当に麗しく尊く有り難いことと感じていた。


夕日が御殿を金色に染め上げている。静寂の中に、深い感動が満ちていた。

そんなアマテルカミを前にして、人々は思わず衣服を整え直した。姿勢を正し、改めて感謝の念を新たにする。


「何と有り難いことでしょう!」

そこかしこで声が聞こえて来る。人々の目には涙が光っていた。


ハルナは何度も深く頭を下げた。タチカラヲは拳を胸に当てて決意を新たにしている。コモリカミは医師としての使命を胸に刻んでいた。


そしてアマテルカミの許から各家へと戻る際に、人々は何回も拝んでから去って行った。


その背中には、新たな決意と希望が宿っていた。八咫鏡の教えは、確かに人々の心に根付いたのである。

夕闇が静かに訪れ、一日の講義は幕を閉じた。しかし、その教えは永遠に人々の心に生き続けるのだった。

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