第二十一話 平手からのハンデ戦
将棋と花札が出来る幼女なんてこの世界にどれくらいいるだろう。
ゆかがどれくらい強いレベルなのかわからないので何とも言えないが、まー君はそれなりに自信はあったので負けるつもりなんて一ミリもなかった。将棋も花札も素人相手に負けたのはずいぶん過去の話なので、今回も連勝記録を伸ばすことになると踏んでいたのだ。
「お兄ちゃんは結構強いと思うよ。ただ、もう少し流れとか周りの状況を見れるようになったら、今よりももっともっと良くなるんじゃないかな。もう一局やってもいいんだけど、次はもう少し本気寄りになった方が良いかな?」
「出来るのなら、そうしてもらいたいかな。俺って相手が強い方が燃えるタイプだったって思い出すことが出来たし、次は負けないから」
「じゃあ、次はお兄ちゃんのためにも少しだけ頑張っちゃおうかな」
今まで素人相手に連勝を続けていたまー君とゆかはハンデなしの平手で勝負していた。結果は、まー君の惨敗と言ってもいいだろう。まー君は先手だったのにもかかわらず、ただの一度も優位に立つことがなく敗北してしまった。誰がどう見ても力の差が歴然だと思えるような大敗であった。
ゆかは何のためらいもなく飛車と角、両方の桂と香を落としただけではなく両方の銀も落した。
そこまで力の差なんて無いだろうと思ったまー君であったが、六枚落ちで負けるよりも八枚落ちで勝てた方が気分もいいだろうと思ってしまい、ゆかのくれたハンデを受け入れることにした。
「さすがにそんなになくしたらお姉ちゃんのほうがピンチなんじゃないの?」
「そうかもしれないね。でも、ここで俺が勝ったら六枚落ちでもう一局しようか?」
「ふぅ、そうね。お兄ちゃんが勝てたら次は六枚落ちでやってあげてもいいよ。でも、お兄ちゃんが勝てるかは微妙じゃないかな?」
「さすがにこれだけハンデをもらったら負けはしないと思うよ。少なくとも、さっきみたいに惨敗することはないんじゃないかな?」
「どうだろうね。これだけの駒を落としちゃうと私も遊ぶ余裕はなくなっちゃうと思うんだよね。だから、さっきよりも厳しいことになるかもしれないよ。お兄ちゃんが将棋をもう指したくないって思っちゃうかもしれないけど、それはお兄ちゃんが決めることだから私のせいにしたりしないでね」
まー君はハンデ戦の経験は何度かあるのだが、自分がハンデをもらう立場になったのは初めてであった。今まで何度か将棋のプロと対局したことはあったけれど、その時も平手で勝負していた。負けはしたものの、今回のように惨敗したとはいえず健闘は出来たと思う。もしかしたら、プロの棋士が空気を読んでくれていたのかもしれないが、その経験はまー君にとってかなりの自信となっていたはずだった。
だが、そんな自信もどう見ても幼女にしか見えないゆかの手によってあっさりと崩れ堕ちてしまっていた。
もしも、八枚落ちの対戦でまた惨敗するようなことがあったとしたら、二度と将棋を指したくないという気持ちになってしまうかもしれない。まー君にとって将棋はそこまで重要なことではなかったけれど、この一局だけは絶対に負けてはいけないという強い気持ちを持って臨むのであった。
「まあ、あれだよ。お兄ちゃんは健闘した方だと思うよ。さすがに私もコレだけの駒落ちだと手を抜くことが出来なくなっちゃうからね。その結果がこうなっただけなんだし、あんまり気にすることなんて無いんじゃないかな。ほら、お兄ちゃんは将棋のプロを目指しているわけでもないんだし、ただのお遊びなんだからそこまで気にしなくてもいいんじゃないかなって思うよ」
「私は将棋なんて全然わかんないんだけど、お兄ちゃんはお姉ちゃんに手も足も出なかったんだってことはわかったよ。でも、お兄ちゃんの弱点みたいなところはわかっちゃったかも。将棋のルールもだんだんわかってきたし、次は私と勝負してみる?」
「遠慮しておこうかな。今はちょっと、将棋って気分じゃなくなってきたから。自分から誘ったのにごめんね」
「全然大丈夫だよ。お兄ちゃんとお姉ちゃんが将棋をしているの見てるの楽しかったし、何となくルールもわかってきたからね。私も将棋やってみたないって思っちゃった」
「それだったら、ゆいちゃんはゆかちゃんと指してみたらいいんじゃないかな。俺と将棋を指すよりも勉強になると思うし」
「でも、それだったらお兄ちゃんは見てるだけで楽しめないんじゃないの?」
「そんな事もないよ。外から見てることで見えてくる世界もあると思うし、何だったら俺がゆいちゃんにアドバイスしてあげてもいいし」
「うーん、アドバイスしてもらえるのは嬉しいんだけど、お兄ちゃんはお姉ちゃんとやって連敗しているんだし、負け続けている人からアドバイスされても勝てないんじゃないかなって思うんだよね。だから、アドバイスじゃなくて応援してほしいな」
ゆかとの勝負を見たゆいの感想は間違ってはいないと思う。それはまー君も何とか受け入れることは出来た。
だが、そこまで言われたのならどれほどいい勝負をするのか見守ってやろうじゃないかと思ってしまったまー君であった。
ハンデありの勝負で二連勝してしまったゆいは三戦目に敗北した。
まー君は、アドバイスをしなくて本当に良かったと思い、将棋に対して自信を持つことはもうやめてしまおうと心に誓ったのだ。
ただ、花札であれば今度こそ勝てるとひそかに思っていたのである。




